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ネコカブカラス  作者: 山崎 モケラ
11/15

ハナ

初めて恋した女の人と。

なかなか進展しない。


でも、楽しく暮らしていたのだが。

恭一おじいさんがやってきて、真面目な顔してハナさんに『これからどこいくんだ?』と、聞いた。



ハナさんは下を向いて『いくところはない。だから好きなところに行くわ』と、言った。



恭一おじいさんがしばらく考えて、


『提案なんだが、この村にパン屋があるんだ。

天然酵母の他県からもお客が来る人気のあるパン屋だ。

人を募集していたようだよ。そこで働いてみては?』と言った。


『住まいは。そーだねー。ここでよければ、ここで寝泊まりしてみては?そうすれば、家賃かからないしな』と、続けて簡単に言った。



俺は驚いた。



ハナと暮らせるなんて!


楽しそうだ!(もう呼び名はハナになっていた。頭の中では)



俺はハナに向かって『ハナ!そうしろよ!恭一おじいさん達はマジ!優しいし。ここは楽しいぜ!


ハナの持ってるレスポールのギターの音も気になるし!!』と、まくしたてた。


すると、ハナは


『ちょっと!ハナ!とか、呼び捨てにしないでよ!


あたしはあんたの女じゃないんだから!やめてよねー。


おじさん!おばさん!よろしくお願いいたします!


パン屋さんで働いてお金ができたら!

居候のお金ちゃんと払います。』


そう言ってお辞儀した。



俺は夢中に嬉しくなって『ハナ!ここを紹介するよ!』とか『ハナ!友達も紹介する!』とか、ずっと言っていた。



ハナは次の日の朝早く、ほとんど夜に家を出て、パン屋に働きに行った。


俺は心配になり、昼ごろ見に行った。



店の外から手をふると、ハナはこっちを見てあっかんべーと、した。


そして、そこを見つかって店主に笑われていた。



午後3時ごろに終わって、帰ってきた。



ハナは『パン屋の仕事!楽しかったわー!』と、手足を伸ばして大の字になり、部屋の真ん中で寝転んだ。


さて、明日も頑張るぞーー!と、笑って言って自分の部屋に入ってしまった。



部屋の中からヘッタクソなギターの音が聞こえてきた。あのレスポールの音だ。

押さえきれないせいか、ビビってる音がある。


ミスってばかりで繰り返し同じフレーズばっかし弾いている。


何やってんだかと、思い部屋のドアをコンコンと叩こうとした時、小さな泣き声が聞こえてきた。



俺はそっとドアから離れて、俺も泣きたい気持ちでギターの練習をリビングでした。





次の日もその次の日もハナはパン屋のバイトだった。


休みの日になったら遊ぼうと思ったのに。


休みがなくて、俺はブーたれた。


朝ごはんを夜中2時半に食べてるハナの前に座って『いつ休みなんだよー。遊びに行こーぜー』と、言った。


ハナは『バーカ!もし休みでもあんたみたいなガキとなんか遊ばないわよ』と、言った。


『俺はガキじゃねーぞ』と、言い返したがそのセリフこそ『ガキっぽい』と、思った。


パン屋の定休日、この日はハナも休みだろうと俺は朝の3時からリビングに起きて待った。



ハナはすでに出かけて居なかった。



全くー、どこに行ったのやら。

俺はリビングでハナが貸してくれたレスポールをジャンジャカ弾いて楽しんでいた。


ほんと、このギターはいい音する!




夕方の5時に帰ってきた。


『おみやげー!』と、言いながらビニール袋にたくさんのうまそーなパンが入っていた。



俺は『パン屋行ってきたのかー?パン屋で働いてるのにー?』と、言った。


パン屋の人気店のパンを勉強のために買ってきたと、笑っていっていた。


俺は変だなーくらいにしかその時は思わなかった。


ハナは休みのたびにどこかあちこちのパンを買ってきた。


都内のパン屋の時もあった。


俺とは遊んでくれなかった。

ショッピングモールすら行ってくれなかった。

忙しいといつも言って。


そのうちにそれが当たり前で慣れてしまった。



俺は恭一おじいさんに『ハナがいつも忙しくてつまらねーよー』と、愚痴を言ったりしていた。



俺はそれでも、ハナが好きだった。


笑うと結構可愛くて、ハッキリと話す話し方も、細い指も好きだった。




そんなある日、ハナが恭一おじいさんに『話があるんですけど。2人でお話しさせてください』と、真面目な顔して真剣に頼んでいた。



恭一おじいさんはいいよと、返事して書斎にハナを通した。


なんだろ、話って。


俺はなんか嫌な胸騒ぎがした。




書斎から出てきたハナは。


今までと違う、喜びに満ちてるような顔をしていた。

頬に赤身がさし、胸を張ってるような。


全然違うのだ。

声をかけられずにいると、ハナがこっちに気が付き、ひとこと小さく『ごめん』と、言った。



それが、どんな意味のゴメンなのかその時はわからなかったけど、俺はなんか、なんか、よくないことなんだろうなと、思った。


俺はハナに聞いた。

『どうしたんだよ』



すると、ハナは静かに喜びを抑えるかのように言った。


『赤ちゃんができた』



俺は目の前が真っ暗になって



ひとこと、ふたこと、ハナに失礼なことを言ったような気がする。



『なんでだよ。俺、ハナが好きだったのに。


なんで?なんで他の男の赤ん坊できるんだよ!?』




すると、ハナは静かにまた。


『ゴメン。あんたがあたしを好きなのは分かっていたけど。


あたし、あたしを大切にしてくれる人見つけたんだよ。あたし、その人と結婚をするの。昨日、プロポーズされた。』



そして、ハナは言った。


『このレスポール、もうあたしには要らないから、あんたにあげる。お礼だと思ってさ受け取って。』


俺は受け取れないと、泣きながら言った。

そんなもの受け取れないって。



でもハナが『あたしだと、思って大切にしてよ』と、あんまりキレイな笑顔で言うから、俺は鼻水垂らしながら、涙でぐしゃぐしゃになりながら、そのギターを受けとった。




その日の夕方、ハナは恭一おじいさんの家からお辞儀をしてお礼を言って、受け取ってくれとお金を渡して出ていった。


後日知ったんだけど、ハナの相手の男はパン屋の店主だった。



真面目で優しい人、捕まえることができたんだな。

よかったじゃねーか。

と、ハナに言いたかったけど、言える日は来なかった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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