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若江寝間の考察  作者: 黒牛魚のごった煮
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人の思考の方法

 大気の温度が冬へと近付く足音が聴こえてくる秋の朝だった。

 ネルマは仕事場への道を漸く歩き終えようとしていた。

 だが、少しの間と思いつつも役所の真っ只中に在る植物群に、何時もの様に目を奪われていた。植物の名は知らないが、別段珍しくも無い某かの葉っぱだ。

 手で葉の手触りを確かめる。ネルマの手の動きに影響を受け動く葉の塊は、長毛種の動物を思わせた。


《西の果ての国々では、人とは益獣であり害獣でもあると定義付けされていたらしい。

 遠い昔の事だ。七百年くらい前だ。

 植物の植生に依ってその国々の人々に対する政治方針がある程度の影響を受ける。

 他には……交易の位置関係と、地下水の関係か》


 葉っぱを触る度葉擦れの音をさせ、名も知れない植物が揺れる。植物はネルマの腰辺りまでの大きさだった。

 朝からすれ違う人が奇異な現象を見る目線を送ってくる。


「此の地域はもっと過疎が進むべきですね」


 ネルマは自分の職場へと歩き出した。役所の敷地内にある葉っぱを道なりに触れ回りつつ、建物郡の渓谷の奥へと入っていった。


 昨日、其のままにしておいたホワイトボードを見て、思い付いたことをノートに書きなぐっていく。


 ネルマは自信の悪筆に辟易しながらも、パソコンに文章を書き入れる。


 ボードの文字を書く。


『人の思考の過程とは


 人が思考を行う時、間違えていけないのは考える事と思い出す事は違うのだという事である。』


《だから何なんだろう?》


 ネルマは良く分からなくなった。


 人の脳みその構造を考えてみる。良く脳科学の人が、音や絵や味覚や触覚を思い出したり考えたりといった状態での脳みその活動度合いを計るのは今回の場合意味が無い。

 知りたいのは人が記憶したり考える時、脳みそのどの辺りを使うかでなく、どの様に思考を培うのかや思考とはどの様な状態であるのかだからだ。


《思考だよね………しこう。》


 ネルマは立ち上がり職場の机の群れの周りを歩き出す。


 単純な円である。


《思考は誰にでも見受けられる代物だよね。

 学者にもあるし、その辺りの勉強嫌いの女子高生も持っている。

 若し持っていなかったら髪弄れないし、爪も塗れないから興味の方向性が勉強に向かってないという事だよね。


 それは男子学生にも言える。


 すると……人類の知識は、コツの集合体という事だ。》


 ネルマは別のホワイトボードに書き込む。


 コツ・智識・雑多な経験と記憶


 ノートに書き連ねていく


《全知があったとして、それは人類的な既知と未知に別れる。

更に個人の既知と未知にも別れる。この時点で組み合わせると大雑把に8通りに別れ?……4通り……?


 で、………人は智識を得ているが、智識への加入条件何かがあるが、結局の所コツの集合体であると言える。


 絵を書く人に何故上手いの?どうやったら上手くなれるの?と聞くと、兎も角描くという返答が有るのを念頭に、

又、スポーツ上手な人にコツを訪ねると、兎も角やってみると言うのを鑑みるに、

 ………雑多な経験の中から人は、絵に適切な線の書き方や、適切なボールの出し方等を、不要なデータを基に導き出していると言える。

 自転車とかも乗るのにコツが必要だし、コツ覚えたらどうやってコケていたのか忘れる位、記憶に残りづらいけど、体が失敗を回避している面がある。

 不要なデータから回避対象を無意識に特定して、行動や考え、着眼点としてアウトプットしている。》


《数学で言うと近似値の求め方に近いか。》


 ネルマは椅子を並べてベットの代わりにして仰向けに寝転がった。


《地方とはいえ公官庁の敷地内の仕事場で昼間から寝転がれるとは思わなかったなぁ。》


 ふと気付くとネルマは眠っていたらしく、ノートは行方知れず手にはペンのインク痕が見事な曲線を描いていた。


《人は思考のコツ、雑多なデータ、人に教えるのには訪ねる側の……


 ん?解りづらいかな?


 模型である。》


 首を傾げシゲシゲとホワイトボードを見る。


 消防……


 ペンを使いボードを叩く。音が連続して鳴る。


《宇宙進出機構かな


 昔、東の國で宇宙船をぶち上げ、地球の衛星に行くツアーがあったらしい。

 けれど、故障して着陸ツアーは急遽、蜻蛉返りする羽目になったらしいが、その時人数分の酸素が無かったらしい。その状況を打破する為の案を地球側が思い付くに至ったらしいが、事故の影響で声しか届ける事が出来なかったのだとか。


 その状態でも見事に危機を乗りきったとか。


 その時の状況下で伝達のやり方の難しさを簡易的に疑似体験する方法が宇宙進出機構では伝えられている。


 それを念頭に置くかな。》


 模型の字に続いて構築と記した。


《人は知らず知らずの内に図説を行っている。否、図説に変換していると云ったほうが適切だろう。

 端的な言葉のやり取りでも、意味が通じ共同作業が滞り無く進む不可思議な現象があるらしいが、それは自身の経験からの過去の記憶の集合から現段階での状況分析により、何を欲しているのかの推察であろうと思われる。

 念頭に浮かべて欲しいのは、大工のやり取りで良く起こるとされている物である。》


 パソコンに打ち込む手を止めた。


《あれ?大工の噺ってどんなんだったっけ?》


 ネルマは十五分くらい悩んだ後、問題を先送りにすることにした。


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