婚約者はドラゴンの番のようですが、全力で守ってみせます
「そなた、もう一度我の名を呼んではくれまいか」
リエール・コンドレラ伯爵令嬢に、灼熱色の髪を無造作に束ねた青年が乞う。
耳と首を彩る赤い鱗と、耳の上に生える真珠色の角がこの世界における最高位種族の竜族である事を示していた。
『王宮図書館に、竜族が現れた』
そんな騒ぎを聞いて、王宮図書館に飛び込んできた第二王子グレイと護衛騎士達は本物の竜族の青年に息をのむ。
そして、そんな竜族の青年を前におっとりと佇むリエールに目を向ける。
目の前の竜族を驚いて見てはいるものの、とても現状を理解しているようには思えない。
そう、状況はまだ覆せる。
グレイは、ぐっと腹に力を入れ、そっと彼女の隣に寄り添う。その瞬間、竜族の青年の眉がぴくりと動いた。
竜族の青年が何か言うよりも早く、グレイはリエールの手元の本を指さす。
「リエール、ここをもう一度ジリア王国語で『読んで』みてほしい」
グレイの指さす先には、竜族『ジニール・デューク・ディル』と書かれている。
それを、グレイはそっと隠し、その下の名前をリエールに促した。
「ジェルアディル・デューク・ディル様、でしょうか……」
心底不思議そうな顔をして、リエールは言われた通りに名前を呼ぶ。
「そなたが呼んだのは、確かにその名、なのか?」
「そうなのでしょうか?」
「自分で呼んだというのに、わからぬと申すのか」
竜族の青年――ジニールは困惑の表情を浮かべている。
今だ、とグレイは畳みかけるように彼に微笑みかける。
「竜族と人族では、名前の発音に大きな違いがございます。そして貴方の住まう天空の城は、このジリア王国より遥か上空、人の身では到底辿り着けぬ高みにございます。そこまで辿り着くまでに、声は、音は、掠れ変異し、別の名に聞こえる事もございましょう」
「我が、番が呼ぶ声を聞き間違えたとでも?」
ジニールの金の瞳がすっと細められ、剣呑な光を帯びる。
「いいえ、本来の番であれば、そのような事は起こりえないのではと申し上げたいのです」
「ふむ……確かに、我が番の声を間違うはずもない。つまりその娘は違っていたのだな。人の子らよ、騒がせてすまなかった」
不穏な光を宿した瞳が和らぎ、ジニールは、図書館の庭から本来の赤竜の姿に戻り飛び去った。
危機は何とか脱した。
いまだに何が起こったかわかっていない様子の婚約者を、グレイはぎゅっと抱きしめる。
竜族の番になど選ばれてしまったら、二度と会えなくなるのだから。
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