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試しの駅  作者: 北キツネ
3/7

3話

目的地に到着するとそこは大きな交差点になっており、直径で50メートル程の丸い広場の様な場所だ。

壁際には幾つもの店舗が並び、隠れようと思えば数十人はいけそうだ。


しかし、ここまで来るのに400メートル近く歩いていると思うけど、こんなに広い駅を俺は知らない。

それにここまでに分岐も幾つもあり、頭上に案内板はあるけど今の俺に迷わずに到着できる自信はない。

そして、そこの中央には噴水も有り、そこ周りには3組の男女が緊張した顔で周囲に視線を向けていた。

するとマイコが彼らに向かって声を掛け、早足で近寄って行く。


「みんなも無事みたいだね。」

「マイコも無事で良かった。なかなか戻らないから心配したよ。」


そう言って彼らは噴水から離れこちらへと掛けて来る。

恐らくは仲が良い様に見えるのは共にここで生き抜いて来たからだろう。

そして、そんな彼らは初めて見る俺にも視線を向けて来る。

ただ、そこには警戒よりもこれから味わう苦しみを憐れんでいるような感じだ。

しかし、それも自分の境遇に当て嵌め、俺の事を心配してくれているからだろう。

なので俺としては第一印象で悪い奴が居なさそうな事に内心でホッとする。

但し、人は本当に命が掛かった場面だと豹変する。


溺れる者は藁にも縋ると言うが、それが人だった場合に一緒に溺れさせてしまう事がある。

それは別に相手を道連れにしたいからではなく、本気で助かりたいともがいた結果だ。

それにより二人とも死ぬ事が多々あるが、それも人としての本性に他ならない。

誰だって死ぬか生き残るかの瀬戸際で自分の命を投げうてる奴は少ないだろう。


そして、マイコが先に大まかな事を説明してくれた様で互いに自己紹介をする事になった。


「ユウヤ、アナタから自己紹介をして。」

「ああ、俺が一番新参だからな。俺はユウヤだ。マイコとは近所に住んでいる幼馴染で歳は二十歳の大学2年生だ。今日、トイレで女に襲われてマイコに助けてもらった時にはこちら側に居た。」


すると周りからはやはり哀れみの籠った視線が向けられる。

そして、他の6人もそれぞれに自己紹介を始めた。


「僕は大学1年の須和スワです。ここには彼女と一緒に1年以上一緒に暮らしています。」

「私は伊代イヨです。彼とは古くからの家の付き合いで互いに顔見知りでした。」


スワは男にしてはほっそりしている好青年風の2枚目だ。

柔らかい目元が印象的で俺よりも年下なのにとても落ち着いていて大人に見える。

そしてイヨは長い黒髪をした大和撫子風の美人さんで2人が並ぶととても絵になる。

こちらはおっとりしているが今まで生き残って来た事を考えれば生き残れる何かを持っているのだろう。


それにどうやらこの二人も俺とマイコ同様に以前から知り合いだったみたいだ。

しかし俺はイヨの言葉に微妙なニュアンスを感じ取り自己紹介の途中ではあるが質問をした。


「二人とも何処か良い所のお子さんなのか?間違っていたら悪いとは思うんだけど古くからって言うのが以前からでは無くて家系的な事に聞こえてね。それに2人ともなんだかそんな感じのオーラを感じるんだ。」


後半は適当だけどこの二人からは俺達、というか一般的な人間とはちょっと違う感じがする。

まだ少ししか接して無いけど品というか厳しく教育されている様なそんな感じだ。


「は、はい。僕たちは古くからある茶道の本家と分家の家に生まれていて、こっちのイヨが本家で僕が分家なんです。」

「その頃はあまり話した事は無かったのですが、ここに来てから・・・その。とても親しくなりまして。」


そう言ってイヨは赤い顔で俯きスワはそんな彼女の手を握り締めた。

それだけで彼女が何を言いたいのかが分かる。

きっと俺の想像できない様な危険を何度も潜り抜けて来たんだろう。

そこに恋や愛が芽生えてもおかしい事ではない。


そして、ある程度の事が分かった所で今度はその横の二人へと移って行った。


「俺は高校3年の大紀ダイキだ。ここに来たのは1週間前。まあ、仲良くやろうぜ後輩。」

「わ、私は澄玲スミレです。来たのは1週間くらい前です。その・・・彼とは高校が同じで今年で高2になります。」


ダイキは笑顔が眩しい体育会系と言ったところか。

お道化ているのは周りを明るくする為か、それとも自分の緊張を誤魔化すためか。


スミレに関しては今もオドオドしていて一言で言えば頼りない。

1週間なのでこれから生き残れるかは分からないけどコイツ等も繋がりはある。

ただ、学生なら通学路が一緒の可能性もあり、それ以上に関係があるのかまでは今のところ不明だ。


そして、最後に自己紹介をしたのはダイキ達と同じく高校生くらいの二人だ。


「僕は一夏イチカです。校名は伏せますがそこで生徒会長をしています。ここに来て1ヶ月程になります。」

「私は同高校で副会長をしている和美ナゴミです。同じく一月ほどになります。」


こっちは会長と副会長か。

付き合いは深そうだけど2人とも固そうだな。

二人とも眼鏡を掛けていて体は細いけど学ランには一切の汚れも無く整えられている。

そう言えば風呂とか洗濯とかはどうしてるんだ?


「ちょっと聞くけど食事をしてるからトイレには行くのは分かってる。それなら風呂とか洗濯はどうしてるんだ?皆こう言っちゃなんだけど身嗜みが整ってるよね。」


特にイオに限って言えば長い髪には艶がありとても美しく整っている。

いや、整い過ぎと言っても良いくらいだ。

こんなのは自分だけで整えようと思えば大変だろうし、1年もの間ろくな手入れもせずにここまで保てるだろうか。


「ユウヤ、それに関してはこれから色々と教えてあげるわ。それよりもそろそろ移動するわよ。」

「ああ、分かった。」


そして、周りも各々に返事を返すとマイコの指示に従って移動を開始する。

どうやらこの集団はマイコが指揮を執っているようだ。

俺はその後ろに続き手頃な生徒会長のイチカへと声を掛けた。


「ここのはアイツが仕切ってるのか?」

「ああ、彼女はとても勇敢な女性だ。男の僕も見習わなければならない所が多いくらいにね。それに僕たちも彼女に助けられたのは1度や2度ではないんだよ。」


そう言ってイチカはマイコへと信頼の籠った視線を向けている。

しかし、副会長のナゴミはそれがお気に召さないようだ。


「会長だって・・・。」

「イ・チ・カ!」

「イ、イチカだって負けていません。私を何度も助けてくれたじゃないですか!」


どうやらナゴミはイチカに御熱のようだ。

名前で呼ぶようにイチカが言うと頬を染めて言い直し、恥ずかしそうにしている。

普通に考えてこんな状況で何やってんだと言いたいけど、俺もそんなには変わらないので藪を突くつもりはない。


俺はそんなナゴミを放置するとイチカの耳元で小声で話しかける。


「お前ら付き合ってんの?」

「・・・ははは。『コクリ』」


そして、俺の確認に笑って頷くと彼女の傍へと寄って行った。

これでカップルが2組か。


(く、悔しくなんてないんだからね。)


俺は心の中でハンカチを咥えると、誰にも聞こえない様に空に向かって吠える。


まあ、それは置いておくとして、問題はもう一組だ。

俺とマイコに関しては既に分かっている事なので良いとしてもう一組にも確認が必要だろう。

もしかすると俺にも僅かな希望が・・・。

ではなくしっかり確認を取らないとな。


「二人は以前から知り合いなのか?」

「ハハハ、俺達はここに来るまで初対面だぞ。」

「そ・・・そうですよね。私達は初対面です。」


するとダイキは豪快に笑って答えているがその陰でスミレが小さな声で微妙なセリフを零す。

これはダイキが気付いてないだけでスミレは以前からダイキの事を知っていそうな雰囲気だ。

これはここに来て日が浅いからか、ダイキが鈍感なだけなのか。

なんだか両方な気がするな。


俺はその場を離れると先程気になったもう一組へと向かって行った。


「スワ、ちょっと聞きたいんだけど皆ってなんでそんなに綺麗なんだ?」

「え?ああ、さっきの話だね。それはどういう訳かここだと汗をかいてもすぐに乾くし体も汚れないんだ。それに服が破れたりしてもすぐに元の状態に戻ってくれるしね。」


そう言われ、俺は先程の電車で女の杭が掠った所を確認してみる。

しかし、そこは修復されておらず、シャツは解れたままだ。

これは俺と彼らで何らかの違いがあると見ても良いだろう。

もしかすると俺だけがここに生身で・・・。


そう考えた時、俺のスマホに着信が鳴り響いた。

その途端に周りの視線が俺に集中し、一斉に駆け寄ってくる。


「どう言う事なの!?もしかして電波が繋がってるの!?それとも、もしかして目覚ましでもセットしてたの!?」


俺はスマホを取り出すと電波状況を確認してみる。

するとそこには1本だけだが電波が立っており、相手は母さんからだ。

俺は少し緊張しながら画面を操作して電話に出てみる。


『・・・ユウヤ・・・だい・・・なの?そろ・・かえら・・・カギ閉め・わよ』

「母さん!今どこに居るんだ?」

『電波・・るいわね。・・・家に・・わよ。『ブツ』』


すると通話が切れる音がして相手の声が聞こえなくなった。

しかし、表示を見ると今も通話時間がカウントされており、何処かに繋がっている事を教えてくれる。


「誰か聞いてるか!?」

『け・・・け。』

「聞こえないぞ。」

『ケケケケケケケ!ギャハハハハ。すぐに・・行く・・から・・ね。』

「全員周辺警戒!」


するとスマホからは先程の女の笑い声と言葉が聞こえてくる。

しかし、マイコはその言葉を聞いて即座に周囲へと警戒を命令する。


「どう言う事だマイコ!」

「分からないわ。でもここでは何が起きてもおかしくないのよ!油断してると命が幾つあっても足りないわ!」


俺はマイコの言葉に頷くと周りへと視線を向ける。

そして、全員で警戒しながら先程の広場の方へと戻り始めた。


「今日はあそこで休みましょう。今は見張りを立てて半分ずつで眠れば1人が1人を起こせばすぐに逃げられるわ。」

そして、中央の噴水へと行くと二人一組でペアーを作り四方に分かれた。

もちろん俺は1人溢れたマイコと組んでここに続く4つの通路の内の一つを見張る。


「なあマイコ。」

「ごめんなさい。今は心の整理をさせて。先に寝るわね。」


そう言ってマイコは噴水の壁に背を預けるとあっという間に眠ってしまった。

きっと俺を助けてくれた時の疲労が出てしまったんだろう。

それにその寝顔は大学の授業で居眠りをしていた時よりも険しく、瞼の中で目が動いている。

恐らく何か夢を見ているんだろうけどその口からは寝言が聞こえてくる。


「い、いや・・・。来ないで・・・。助けて・・・ユウヤ。」


俺はそれを聞いてマイコが悪夢に魘されているのに気が付いた。

そして、周りに頼りにされながらリーダーを立派に務めていようとも昔とあまり変わっていないのではないかと思い始める。


「マイコ・・・。」


俺は起こす事も考えたけど、マイコの横に座り体を寄せてその手を握ってやる。

するとその手はとても冷たく、寝ているのに強く握られていた。

俺はその手を握って少しずつ温めてやる。

するとその手が急に開いて俺の手を握り締めた。

だが起きたのではなくどうやら反射的な動きだった様で今もマイコは眠っている。

しかし、その表情は幾らか緩み、穏やかに寝息を立て始めた。


「ユウヤ・・・もう一度・・・会いたい。」


俺はマイコの寝言を聞きながら不謹慎ながら胸が熱くなるのを感じた。

そして、俺の中に感じていた想いが気のせいでなかった事を再確認する。

しかし、マイコが眠って1時間もしない内にその場に声が響き渡った。


「起床ーーー!」


その声を聞いて周りに居た全員が目を覚まし立ち上がった。

そして、マイコも目を覚ますが自分の手が俺の手を握っている事に気が付きこちらに顔とキツイ視線を向けて来る。


「これは何?」

「何ってお前が握ってるんだろ。それとも雑巾にでも見えるのか?」


今の握り方は俺の手の甲からマイコが握る形になっている。

これが反対なら俺は叱責を受けても仕方ないけど今の状態では俺は明らかに無罪だろう。

するとマイコは真っ赤な顔になると手を払い除け、立ち上がって俺から離れて行った。

そして、赤い顔を周りに悟られない様に自分の頬を強く叩くと皆と合流し確認をしていく。


「どうしたの?」

「物を引き摺る音が聞こえる。明らかに奴が近くに居る。」


俺はそれを聞いてさっき聞こえて来た女の言葉を思い出す。

奴は電話の向こうからすぐに行くと言っていたのでここに向かって来ているという事だ。

通常は20時間以上の時間的な猶予があるはずなのにマイコの予感が当たった事になる。


「どうするんだ?」

「初動の対処は二つ。纏まって逃げるか、分かれて逃げるか。」

「初動って事はその後もあるのか?」

「そして、この駅を離れて別の駅に行くかだけど皆を連れてここから動きたくないのよ。」


その言葉に周りは知っているのか顔が青褪めている。

どうやら俺が逃げ出した最初の駅もだが次の駅にも問題があるようだ。

きっと既に死にかけた奴も居るのかもしれない。

それに逃げたとしても女が居るのはこの駅だけではないかもしれない。

もし、ここに残るとしても既に迫っている脅威をどうするかの問題もある。

そして、マイコは口に手を当て表情を歪ませると答えを出した。


「一旦この駅から離れて次の駅に移動しましょう。移動後はなるべく動き回らずに周辺の警戒をしながら安全なら今日はそこで休むしかないわ。」


すると全員が異論を唱えずに首を縦に振った。

しかし、どうやら問題が一つあるようで皆の表情が悪いのもそれが原因みたいだ。


「でも、次の駅に行くための道はあそこを通らないと。」


そう言ってスワは先程から引き摺る音が聞こえてくる通路を指差した。

どうやら幾つも分岐点があるので網の目状に通路が繋がっているのかと思っていたけどそうでは無いみたいだ。

そうなると幾つもの通路で行き止まりになっていると考えた方が良いだろう。

いざ走って逃げる時が来たら皆と逸れない様にしないとな。

そう考えていると話しが進んでおりマイコが驚愕するような提案をする所だった。


「私が囮になるわ。みんなはその間に車両に乗り込んで。」

「しかし、マイコ!」


そこで異論を唱えようとしたのはイチカだ。

しかし、その視線をナゴミに向けると口を閉ざした。

どうやら彼にとって最も守りたいのはリーダー的なマイコではなく、恋人であるナゴミのようだ。

俺だって惚れてる女と他の女を天秤に掛ければ同じような事をするだろう。

だからここで怒りを露わにするのはお門違いだろう。

但し、それは彼に対してならという前提がつくけどな。


「おいマイコ!」

「何?」

「俺も残るからな。」


するとマイコの表情があからさまに歪む。

しかし、すぐに背中を向けると「好きにすれば。」と言ってきた。


「なら好きにさせてもらう。」


そして、俺とマイコはこの場に留まり、他の皆は離れた所でチャンスを窺う事になった。

しかし、ここは広い広場なので奴が俺達に向かって来た時点で成功と言える。

その間に皆は電車に向かい、女をしばらく引きつけた後に逃げ出せば全ての作戦が完了だ。

ただ、さっきの遭遇で3分を稼ぐだけでもかなり大変だった。

普通にダメージが通ればもう少しやり様もあるんだけどな。


そしてその時がやって来た様で、俺達の前に杭を持った女が姿を現した。

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