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試しの駅  作者: 北キツネ
2/7

2話

車両に乗っていると次の駅へのアナウンスが掛かった。


『次は、串刺し~串刺し~。』


その聞こえて来た駅名は何ともバイオレンスな名前だった。

そして、到着の直前にマイコは目を覚ますと俺の襟を掴んで座席の下へと隠れさせ、自分も体を低くする。


「もしかしてここにも居るのか?」

「さっきのアイツは1人だけ。でも各駅に同じような奴が居るの。きっと電車が到着したから見に来るはずよ。」

「もしかしてアイツ等は電車に入って来れないとか?」

「そんな訳ないでしょ。普通に入って来るし襲って来るわ。ただアイツ等が乗ってると電車が発車しないのよ。重要だからしっかり覚えておきなさいね。」

「ならどうしてここを皆が待機してるんだ?」

「ここには食料が置いてある場所が有って一番安全な場所でもあるの。まあ見てれば分かるわ。」


そして、駅に到着すると電車は低速で駅の構内を走り、停車して行く。


「・・・いたわ。もっと頭を下げなさい。」


そう言って俺が覗こうとした所でマイコは頭を掴んで地面へと押し付ける。

かなり痛いのでやり過ぎな所はあるけど、この世界に慣れていない俺では従うしかないだろう。

そして、視線だけで外を見るとそこには1本の太い杭が突き出し、その異様な存在感を主張していた。

その太さは人の足程もあり、ハッキリ言ってあんなので串刺しにされたら一発でお陀仏だ。


俺はマイコの手が緩んだのを確認するとそっと顔を上げて態勢を整える。

すると目の前にマイコの顔が有り俺は咄嗟に立ち上がった。


「馬鹿!まだ早い!!」


そして、俺は視線を先程の杭があった辺りへと向けると包丁女と同じ姿の奴とバッチリ目が合った。

奴はこちらへと駆け出すと、さっきのホームで見た様な背筋が凍るような笑みを浮かべる。

そして、俺達の乗っている車両に追いつくとそれに合わせて速度を緩め、扉が開くのを待ち構えた。

そして、車両が『ブシュー』とブレーキのエアーが抜ける音を立てながら停車すると扉がゆっくりと開いていく。

すると杭を持った女は3つある扉の一つから中を覗き俺達の姿を視界にとらえると中へと入って来る。

しかし、そこでトラブルが発生し、杭が車両の天井に閊えて入る事が出来ない。

どうやらあの杭はこの車両の規格にあっていない様だ。

女は不機嫌そうに杭を傾けて中に入れると尖った方を俺達へと向けて来る。


「あ~あぁあ~~。ごろ・・す。」


そう言って杭を抱えながらゆっくりと近づいてくる。

そして、俺達が下がって背後にある車両同士を隔てる扉に背中をぶつけると一気に駆け寄り杭を突き出して来た。


「うあぁーーー!!」

「今よ!」


するとそれを予想していた様にマイコは俺の手を掴むと横の扉から外へと飛び出した。

そして、俺は横腹を杭に掠めながら外に飛び出しマイコの上に覆いかぶさる形で倒れ込む。


『ガシャン!』


そして、杭は俺達の後ろにあった扉の窓を突き破り大きな穴を開けて止まる。

マイコはそれを確認すると俺を押し退けて立ち上がり、俺も無理やり立たせて走り出した。


「アイツは武器を置いては追って来ないのよ。今の内に逃げるわよ!」

「あ、ああ。分かった。」


そして俺達は女が杭を抜くのに苦労している間にその場から走って逃げだした。

どうやらこの世界には俺の知らないルールが幾つもあるみたいだ。

そう言えば最初の女も持っていた包丁を拾う事を優先させていた。

これがこの世界のルールなら相手の武器を奪うか手放させる事はこちらにとっての大きなアドバンテージになるかもしれない。

そして、俺達は階段を駆け下り、というかマイコは殆ど飛び降りる様な速度で駆け抜け地下道を走り出した。

すると今度は100メートル程で端に到着し、そこにはショッピングモールのような光景が広がっている。

するとその中の店の一つから何かを掴み取るとマイコはそのまま走り出した。


「今何を取ったんだ!?」

「待ち合わせの暗号文よ。」


そう言って見せてくれた紙には数字が幾つか並んでいる。

俺は解読法を知らないので何と書いてあるかは分からないけど、マイコの様子から既に解読を終えて目的地へと向かっているようだ。

その証拠にその足の速度は緩まる事は無く、分岐があっても迷う事も無く進んでいる。


「もう少しで到着するから急いで!それにあと少しの辛抱よ。」

「あと少し?どういう意味だ?」

「アイツ等は現れる時間が決まってるの。あと5分で今日が終わるからそうすれば明日の夜の10時まで現れないわ。」


すなわち、日に現れるのは2時間くらいでそれ以外は平和と言う事か。

その代わり現れている時間はこうやって命懸けの鬼ごっこをしないといけないと言う事だ。


「み~づ~け~だ~~~。」

「そんな、早すぎる!」


俺達が走っていると後ろから声が聞こえてくる。

そして、次の瞬間に俺達の前へと杭が投げ込まれ土煙を上げて突き刺さった。

どうやら抱えてではなく今の様に投げながら走って来たようだ。

これなら重量がある杭を持って走るよりは早い。

それにしてもコイツには体力と言うものが無いのか。

息も切らさず、速度も落とさず、更に怪力まで持っている。

どう見ても人間では無いのは分かるが化物過ぎるだろ。


「ユウヤ、ここは私が時間を稼ぐわ。あなたは逃げなさい。」


そう言ってマイコは反転すると女に向かって駆け出して行った。

しかし、ここで置いて行けるなら俺も犯人探しなんてしていない。

俺は元々この女に用があったんだ。

なので俺も反転するとマイコを追ってその背後を走り出した。


「馬鹿!なんでこっちに来るのよ!」

「お前が大事だからだ!」

「!!」


マイコは俺の言葉に驚くと奥歯を噛んで女に視線を向けた。


「馬鹿!死んでも知らないんだからね。」

「それなら死ぬ時はお前よりも先に死ぬさ。」

「・・・馬鹿。」


今日だけでいったいどれだけ馬鹿と言われただろうか。

以前のマイコからは聞けなかったセリフだが今はそれが何処となく心地いい。

コイツが俺にそういう時には必ずと言って良い程に俺の身を心配してくれているからだ。


「勝つ見込みは?」

「アイツ等は自分の得物が無いと力を発揮できないわ。後3分程度だから肉弾戦で乗り切りましょう。」

「それなら俺に任せろ。」


俺は速度を上げて一気に前に出ると女の前に飛び出した。

そして、右の拳を構えて相手の顔面へと叩きこむ。


「そんな簡単じゃないのよ!」

「あぁー。」


すると女は掌を顔の前に翳すと俺の拳を受け止めようとした。

しかし、これはフェイントで相手の視界を防ぐのが目的だ。

本当の目的は踏みだした時に地面に着いていた右足を更にバネにした左足の飛び膝蹴りだ。

おれは女の腹を蹴り上げて強打した。

しかし、かなり無理な大勢だったのでその場でバランスを崩して倒れ込む。

それでも女の勢いも完全に殺し、転倒させる事に成功した。


「ユウヤ、すぐに立って!コイツにダメージを期待しちゃダメ!」


その言葉の通り、女は即座に立ち上がると俺に視線を固定する。

俺もマイコに言われてすぐに立ちあがり拳を握り締める。

さっき蹴った感触から行って体重は見た目相応で重くはない。

しかし、手の動きから行って速度は備えていそうだ。

それに俺の拳を止められる自信から見て弱体化していても並の人間よりかは力が強い事が予想される。


「ここからが本番だぜ。」


さっきまでは互いに勢いが有り、互いにぶつかる他に手段が無かった。

しかし、今は互いに足を止めており、人間らしい戦い方が出来る。


俺は距離を詰めるとジャブを連打する。

女はそれを全て受け止め余裕の表情を浮かべた。


「足元が御留守だぜ!」


それと同時に俺はローキックを相手の足に喰らわせ体勢を崩しそこに出来た隙で顔面に右で1発叩き込み、左のストレートで追加を入れる。

更にコンビネーションで右のフックを叩き込みその勢いで右足を軸にしたハイキックを女の側頭部へと喰らわせる。

普通ならこれで意識を失うか大ダメージだ。

女は一瞬その紅い目が上を向き、人間なら白目を剥いた状態になる。

しかし、すぐに意識を取り戻したのか倒れながらその目が俺を捉える。


「ゔがあーー!!」


そして、雄たけびを上げながら倒れ、地面を転がりながら距離をとる。

流石に今の攻撃で倒せないとなると武器を持って戦うしかないか。

しかし、周囲に目を向けても武器になりそうな物は何も無い。

そうなるとやはり素手で・・・。


そう思った時、俺はカバンに入っているある物を思い出した。

相手がナイフなどで武装しているのは既にマイコが刺されている事から検討は付いている。

なので丸腰では危険だろうと一応は武器になりそうな物を持参していた。


俺は背中のバックに手を入れそこから冒涜的な何かで有名な金属製の釘抜を取り出し構える。


流石に刃物を持っていると職務質問された時に言い訳が出来ないのでこれしか持ってこれなかった

それに素手でダメなら文明の力を借りるしかない。

しかし、どうしてマイコはそんな驚いた顔を俺に向けているんだ?


俺は得物を手に持って構えてジリジリと相手との間合いを計る。

すると相手も警戒しているのかさっきの様に簡単には飛び込んでこない。

しかし、コイツ等の持っている物はどれも人を殺し得る物だ。

今が素手だろうと容赦する気持ちは微塵も無い。

それに俺は既に何度も殺されかけている。

そのためここまでに味わった恐怖が俺の中のタガを明らかに緩め道徳観を消し去っていた。


「・・・来ないならこちらから行くぞ!」


そう言って俺は右手に持っている釘抜を振り上げた。

しかし、その時にマイコのスマホが鳴り響き時間が来た事を知らせてくれる。

それと同時に女は悔しそうな表情を俺に向けるとその姿を次第に薄れさせて消えていく。

しかし、消えかけた最後になってその顔がニヤリと笑ったのを俺は見過ごさなかった。

そして俺は緊張が緩んだ事で腰が抜けた様にその場に座り込むと大きな溜息を零した。


「ハ~~~。なんとか助かったな。」

「そうだね・・・。ねえ、もしかしてスマホ以外に何かを持ち込んでるの?」


俺はそれだけである程度の事を理解すると背中に背負っているバックを下ろしてマイコに見せた。


「一応は裁縫道具とか救急キット。それと食料にさっきの釘抜だな。」


とは言っても釘抜も大きな物ではなく30センチ程度の玩具の様な物だ。

鉄でできているので防御くらいには使えると思って持って来ていたけど、丸太相手ではどうにもならないので相手が丸腰で良かった。


「お前らはスマホ以外に持ち物が無いんだな。」

「うん。それに武器になりそうな物もここでは手に入らないの。」


そう言われればマイコは何も持っていない。

服は来ているけど棍棒どころか手袋さえも着けていないようだ。


「そこらへんに色々あるだろ。」


ここはショッピングモールだ。

見渡せば消火器や衣服を掛けるハンガー。

それ以外にも色々な物が置いてあるので工夫すれば武器になりそうな物は幾らでも探し出せるだろう。


「ここだと何でか食べ物以外はほとんど動かせないの。壊すのも無理。」

「でもさっきのアイツは電車で・・・。」

「アイツらは特別。それにああやって壊れてもすぐに直ってしまうから残骸を拾う事も出来ない。ここはそういう場所なの。」


どうやらここでは相手の方が遥かに有利な条件が揃っているようだ。

そうなると別の疑問が湧いてくるけどそれは俺がここに来たばかりだからかもしれない。

しかし、この世界に慣れていない思考だからこそ気付ける事もあるはずだ。

ここに居れば少なからず精神をすり減らして冷静な判断が出来なくなっているかもしれないからな。

俺はマイコの言葉に納得すると立ち上がってカバンを背負い直した。


「それじゃあ行くか。みんなが待ってるんだろ。」

「そうね。あんまり待たせると心配させちゃうかもしれない。」


そう言ってマイコは俺を案内して歩き出した。

マイコの言う事が正しければこれから22時間の間は安全なはずだ。

そして俺は微妙な距離を取ってマイコの後に付いて行った。

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