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『リョウメンスクナ・9』

 ―――タタタンッ!タタタンッ!!


 薬莢を舞い散らせながら、軽快に跳ねる銃口から火炎が光る。

 レイスの放った弾丸はヒルコの身体を削り落とし、その生命活動を停止させた。


『キイイアアアアッ!!』


「多くはないけど、面倒な配置だなまったく……」


 狭い通路での強襲はこれで三度目である。

 レイスはさらに背後から来たヒルコの攻撃を掻い潜り、その脳天にコンバットナイフを突き立てた。断末魔を上げるヒルコはそのまま消滅し、ようやく周りが静かになった。


「ふぅ……」


 中身の減った弾倉を落として、新しいものと入れ替える。この動作も、繰り返す内に手元を見ないで出来るようになった。我ながら成長を感じる。


 現在は迂回したルートから階段を見つけ出し、再び地下一階を探索している所だ。

 必要最低限の電灯が薄暗く照らしてくれているおかげで、電力が戻っていない時よりは視界は良好だ。変わらず白一色を基調とした味気ない内装で、時間と共に劣化していった壁紙の汚れがよく目立つ。


 そしてこちらも、他の階層と同じく鉄格子が要所に設置されていた。


「ここも鍵が掛かってるな……」


 進路を塞ぐように現れた格子戸をガチャガチャと揺する。人の力ではビクともしないだろう。


「よし、お前の出番だ。頼んだぞ」


 普通なら鍵を探しに行く所だが、レイスは落ち着いて背中のリュックを降ろすと、中からアイテムを取り出した。


 小型のタンクにⅬ字型の噴出口がついた、いわゆるガスバーナーだ。

 レイスが栓を緩めて点火すると、超高温を示すマリンブルーの炎がバーナーから小さく噴き出した。それを鉄格子に当て、ジジジジジと火花を散らしながら順番に焼き切っていく。


 そう、これは見た目がかなりアレだが立派な開錠アイテムだ。

 少なくとも爆薬で錠前ごと吹き飛ばすよりは目立たたないし、使い勝手もいい。

 現にレイスは何度かこのバーナーに命を救われている。リュックに入っているアイテム達の中ではまだまだ新参だが、立派に仕事をこなしてくれるスーパールーキーだ。


「どっこい、せいっ!」


 レイスはじっくりと時間をかけて円形に格子を切り取り、向こう側へと蹴り飛ばした。

 バーナーを仕舞い、男一人が屈んで通れるくらいの大穴が開いた格子戸を通り抜け、レイスは向こう側へと足を踏み入れた。


 すぐ目の前の両開きのドアを押し開け、じっと銃口を正面に構えながら前進する。

 ドアの先は少し長い廊下―――そして突き当りに、重厚な金属扉があった。


 人間の手で開けるものではなく、レバーを引いて機械が開閉させる言わば隔壁扉だ。

 黄色と黒の警告色が枠を彩り、赤色の回転灯も上部に設置してある。


「監獄から実験施設にジョブチェンジか」


 レイスは嘆息しながら廊下を歩き、隔壁の前までやって来た。

 電気はしっかりと通っているようで、『Lock』と書かれたパネルが点灯している。


 レイスは迷うことなくレバーに手をかけ、力いっぱい押し上げた。


 ―――ガコォン、とレバーのスイッチが入ると同時に、耳障りな警報音を上げながら隔壁がゆっくりと開き始めた。くるくると踊る回転灯の光が、廊下を赤く赤く照らし出していく。


 薄暗い廊下に乱舞する赤色は、嫌でも警戒心を沸き立たせる。

 早く開いてくれと思いながら、レイスはふと、廊下の反対側を見やった。




 ―――何かいた。




 天井にピタリと張り付いた物体。

 それは女の上半身に腕を左右三本、合わせて六本を生やした異形。下半身は真っ黒な蛇の形をした言わば蛇女(ラミア)のような怪物だった。長いざんばら髪を顔の前に垂らし、表情はよく見えないが、その奥から見える黄金色の蛇の目はギラギラと怪しく光って見えた。


 ……ああ、こいつは俺をただでは殺さない。


 身体の全神経がそう警告するほどに、ソレが纏う気配は禍々しかった。


「う、おぉぉぉぉおおおおッ!!!」


 咆哮と共に竦んだ身体を無理やり動かし、レイスはAK-12をぶっ放した。

 精密射撃を重視した指切り撃ちではない。完全に引き金を弾き絞り、弾の出る限りを撃ちまくるフルオート射撃だ。


 廊下を眩く照らすオレンジ色の火花の中を、蛇女は六本の腕で器用に這いずりながら凄まじいスピードで迫って来た。


「くッ!?」


 たまらずレイスは下部のレールに取りつけた、グレネードランチャーの引き金を引いた。

 ポンッ!!と軽快な音と共に飛び出した榴弾が、蛇女に命中すると同時に炸裂する。


【―――雋エ讒倥≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠ッ!!!】


 爆炎に吹き飛ばされた蛇女が恨めし気に叫んだ。

 しかし身体にダメージを負ったフシはない。とんでもない耐久度じゃないかとレイスは戦慄した。


 態勢を立て直した蛇女が今度は当たるまいと、壁に天井に気色悪い動きで這い廻り、狙いを絞らせないままに迫って来る。


 万事休すかと背後の隔壁を一瞥すれば、もう人が一人くらいなら通れるくらいの隙間はできていた。

 レイスは急いで弾倉を入れ替え、弾をバラまきながらその隙間に飛び込んだ。追って来ている事は背中に来る焦燥感ですぐに察せた。


「この、行け行け行け行けェッ!」


 リュックを詰まらせながらもなんとか押し通り、勢いで地面に転がりながら銃口を隔壁へと向けた。


 ―――しかしさっきまでの急襲が嘘のように、そこには何もいなかった。


「はぁ、はぁ、はぁ、……なんだったんだ、いったい」


 乱れ切った息を整えながらレイスはなんとか立ち上がった。

 ぐるりと周りを見回しても、蛇女の姿は見当たらない。悪寒もいつの間にか消えていた。


「……心臓がもたない」


 髪をがしゃがしゃと掻きながら気を紛らわせる。

 リザとの別行動がここまで心細いものだとは思いもしなかった。現段階までは何とかやれているが、今回は本当に相手が悪い。銃が有効打にならず、対処方法も一切不明だ―――。

 思えば、正体不明の怪異と対峙した時もリザの知識や発破があったからこそ、冷静に打開策を導けた場面が多々あった。


 今はそれがない。

 まるで霧中を手探りで進むが如しだ。とても精神的によろしくない状況が続いている。


「……はやく、リザに会いたいな」


 そのためには一歩でも前に進めと、虚しく思いながらも自分に言い聞かせる。

 落ち着いたレイスはようやく、周囲に目を向けた。


「いよいよ、やばい感じになって来たな」


 レイスの視線の先―――隔壁を通った向こう側は、正しく終末を思わせるような崩壊ぶりだった。

 天井からは電線が垂れ落ち、火花をあげている。床や壁は飛び散った血が赤黒く固まり、最後の脱出経路だったかもしれないこの隔壁を越えられなかった人々が、無惨に殺されていった様子が容易に想像つく。

 静けさの中で、ジジジと明滅する電灯の音だけが鼓膜を叩くこの場は、嫌でも緊張感が高まる。


「……ここで何が起きたかも調べないとな」


 レイスはゆっくりと深呼吸をし、張り詰めた足をなんとか踏み出した。

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[一言] ダラさん乱入www
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