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『リョウメンスクナ・6』

「チッ、一足遅かったか?」


「かもしれないな」


 リザとレイスが踏み込んたマンションのロビーは、既に戦闘が起こったのかいくつもの弾痕が見て取れた。周囲の敵の姿はなく、ことごとく一掃されたように思える。予想が違っていなければアルミアのチームの仕業だ。


「ここが先発部隊の最後の通信があった場所で間違いねぇよな?」


「ああ。えーと、たぶんあそこかな?」


 レイスが指さした遠くの壁に血が飛び散った跡が残っていた。遠目でも赤黒く乾いているのがわかる。

 周囲を警戒しながら二人が近づくと、そこには特殊部隊の格好をした数人の遺体が転がっていた。


 激しく何かと戦ったのだろう、薬莢がそこら中に散らばっている。

 遺体には凄まじい力が加わったのか、四肢が嫌なひしゃげ方をしていたり、壁のコンクリートにめり込んで死んでいる奴もいた。


「ものの見事に全滅だな」


「かなり大型の敵と戦ったのかな?ひどい有様だ」


 レイスはAKを背中に回すと遺体をひっくり返して調べ始めた。

 ここは彼の領分だと、リザは周辺警戒に徹する。


「お、壊れてないサイシーバーがあるな」


 レイスはさっそく隊員のサイシーバーを起動させ、何か重要な手がかりが残っていないかとしらみつぶしに探す。


 程なくしてフォルダに音声記録が残っているのを見つけた。


「リザ、ちょっと来てくれ」


「なんだレイス?今度は何を見つけた?」


「録音データだ。探索中に録ったものだろう……再生するぞ」


 再生ボタンにカーソルを合わせ、レイスはスタートを押した。




 ―――こちらはチーム『N404小隊』、音声にて状況を記録する。おい、こっちだ!早く走れ!!


 ―――我々は市街地で調査を終え、街の中心部にある宗教施設へと向かう予定だ。


 ―――だが、先ほど奇形の人型実体に襲撃された。実弾で十分に対処可能だが数が多い。


 ―――我々はその姿から連中を【ヒルコ】と呼称することにした。


 ―――市街地の調査でわかったことは、件の宗教施設は何かの実験場を兼ねているらしいという事実だ。


 ―――過去に夜逃げしたと思われる住民の家で、施設に何台ものトラックが往復していた目撃情報や、怪奇現象が頻発していた内容が書かれた日記が残されていた。


 ―――今回の地震の原因もその宗教施設にあると我々は考えている。


 ―――しかし不気味だ、隊員の一人が異常に背が高い帽子をかぶった女を見たと言ってから酷く怯えている。ぽぽぽぽ、という声が耳から離れないとうわ言のように呟いているのだ。


 ―――他にも顔中にお札を垂れ下げた白装束が鏡に映っているのを見たという奴もいた。


 ―――我々が交戦したヒルコとは違うが、蜘蛛のように這う黒い人型実体の影を私自身も目撃している。


 ―――ここは地獄だ……。言いたくはないが、生きて帰れるのかもわからなくなってきた。


 ―――ん?おい、どうした。何を見上げている?


 ―――何もいないぞ?……いったい、ッ!?伏せろぉおッ!!


 (断続的な銃声)


 ―――コイツどこから!?くそ!ここはもう駄目だ!早く逃げろ!!


 ―――まさか罠だったのか!?そんな馬鹿な!!


 (激しい銃声と断末魔)


 ―――うわぁああああああああああッ!!




 その悲鳴を最後にブツッ、という途切れる音で記録は終了した。


「……どいつもこいつも呪い系最強格じゃねえか」


 リザがドン引きしながらぼそりとそう呟いた。


「今ので何かわかったのか?」


「まぁ、隊員が見たやつらについては少しな。正直、勝てるビジョンが全然見えないような怪異どもばかりだ」


 リザの戦闘力をもってしても叶わない相手なのか!?とレイスは戦慄した。

 そんなヤバイ敵が複数体もこのフィールドで闊歩している事実に眩暈がしそうだった。


「対処方法は?」


「わからねえ。アタシが見た八尺様も、知る限りじゃ逃げるか封じるくらいだった。倒すどころかどうやって退けるかも見当がつかねえや」


「……そうか」


 レイスは考え込むように唸った。

 しかし、いずれにしても今は八尺様を含む怪異たちと真っ向からやり合える準備も手段も無い。加えてこちらは僅かに二人。せめてアルミアさん達がいればもう少しマシだったかもしれないが、現状では望めない事だ。


(ただ、アルミアさん達が先行してくれているおかげで、向こうを追いかけるという体裁を保ちつつさりげなく合流に持って行けるのは幸運か)


 ひとまずは予定通り、アルミア一行も向かったであろう例の宗教施設に進んだ方がいいとレイスは結論付けた。


「よし、リザ。たぶんアルミアさん達はここから先の―――」


 ヴィイイイイッ!!ヴィイイイッ!


「うおぉおッ!?」


 突然震え出したサイシーバーをレイスは驚きのあまり投げ捨てた。

 なおも転がった床で震え続けるサイシーバー。どうやら通話が掛かってきているようだった。


「……な、なんで?誰から電話が」


「………」


 リザは片手で銃を構えつつ、サイシーバーを拾った。

 そのまま通話ボタンを押して、向こうの声がレイスにも聞こえるようスピーカーモードにした。


「もしもし?」


 リザが電話口に話しかけると、たっぷりと時間を空けてから男の声が聞こえてきた。




『ごきげんよう、掃除人(スイーパー)のお二方』




 ねっとりとした嫌な声色だ。

 そこはかとなくこちらを侮るような上から目線の口調に思えるトーンをしている。


「お前誰だ?」


『もっともな質問ですね、私も勿体ぶるのは好きませんので簡潔に名乗らせて頂きましょう。……私の名は物部天獄(もののべてんごく)、かつてこの街で人々に教えを説いていたしがない導師です』


「なっ、物部天獄!?」


『おや、可愛い声のお嬢さんの方は私の事をご存じでしたか。光栄な限りですよ』


「……お前、何をやった。この街の惨状はお前の仕業かッ!!」


『ははは、有体に言ってしまえばその通りです。私がやりました』


 事も無げに言ってのける物部天獄。これにはレイスも顔をしかめた。


『時は満ちたのですよ。そしてこれより、日ノ本は災禍に呑まれ呪いに沈むのです……』


「呪いに沈む?どういうことだッ!!」


『それを明かしては面白くありません。どうぞ、この閉じられた壺の中で足掻く姿を見せてください。さすればそう……もしかしたら最後の一人として生き残れるかもしれませんからねぇ、ははははは』


「あ、待ちやがれ!!おい!!」


 言うだけ言って一方的に通話は切られた。

 忌々し気にリザはサイシーバーを放り捨てる。


「何者だ?物部天獄って」


「リョウメンスクナを作ったって言われてるカルト宗教の教祖だ。噂じゃ死んでるはずなんだけどな」


「リョウメンスクナを作った?」


「ああ。シャム双生児ってわかるか?赤ん坊になる過程で身体がくっついて生まれてきた双子のことなんだけどよ」


「それくらいなら」


「で、物部天獄はとある双子の姿が両面宿儺(りょうめんすくな)に見えるって理由で彼らを引き取り、それを呪物に仕立て上げたんだ。自分たちの宗教の象徴として……」


「人間を呪物に?」


「即身仏、つまりはミイラにしてな」


 一人の人間の意志一つで、一生を閉ざされた双子がいた。

 その事実だけで、レイスは物部天獄が邪悪な存在だと理解した。


「奴がこの異常事態を引き起こしてるなら止めないと!」


「もちろん、アタシもそのつもりだ」


 特殊部隊が持っていた弾薬箱から弾を回収し、乱暴にリロードを終えるリザ。

 どうやら彼女も少し頭にきているらしい。


「レイス、奴の施設に向かうぞ。いいな?」


「うん、そのルートが正解だと思う」


「よっしゃ、行くぞ!」


 銃を構え直し、レイスはリザと共に街の中心部へと走って行った。

 

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