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『リョウメンスクナ・5』

「二時方向っ!三匹ッ!!」


「了解!」


 異様な爆発音が響いてから、俄かに街は騒がしくなった。

 隠れていた敵が次々に姿を現しては、波状攻撃を仕掛けてきたのだ。


 いずれも全裸の人型でありながら、身体の一部が歪な奇形をした怪物だった。

 四足歩行の者から、腕を付いて三本足(?)で走って来る奴などバリエーションに富んでいる。存外に速度が早いので、二人で対処するには素早い連携が不可欠だった。


「リザ!リロード!」


「あいよ!!」


 リザのベクターが咆哮を上げ、追加で現れた眼前の敵を打ち払う。

 残った数匹がバッ!と左右に散開したのを見ると、すぐさま両腿のホルスターからブレイクエッジを引き抜き、両手を翼のように広げて引き金を弾いた。


 レーザーサイトから伸びる光点はしっかりと怪物を捉えており、銃口から放たれたバースト射撃はその頭蓋を綺麗に爆散させた。


 数的有利はリザの前では意味をなさない。

 どんな方向から襲い掛かろうが、変幻自在に繰り出される二丁拳銃の円舞にことごとく対処されてしまうからだ。彼女を確実に仕留めるならば、超遠距離からの狙撃か、重装甲に身を固めての突撃を仕掛ける他にないだろう。


 もっとも、全裸の怪物どもに望めるような事ではない。

 次々に撃ち抜かれては数を目減りさせていく。


「とは言っても、こちらの(リソース)だって有限だ……、とにかく逃げないと」


 いつまでも相手はしてられないというのがレイスの判断だった。

 先を走りながらマップを逐次確認し、振り切れそうなルートを探していく。


「よし、こっちだリザ!あの建物に入ろう!」


「わかった!」


 レイスが扉を蹴り開け、リザがそれに続く。

 建物に入ったリザと入れ替わりに、レイスは手榴弾のピンを抜いてポイッと後方に転がした。数秒の猶予の後に爆発が鳴り響き、崩落したコンクリートが入り口をビッチリと塞いだ。

 これで敵もしばらくは追ってこれないだろう。


「オーケー、これでひとまずは安心かな……」


「いや、休んでる暇はねぇぞ。最初の爆発は間違いなくアルミアの仕業だ……。おおかた、力技でショートカットをこじ開けたか何だかしたんだろうよ。……こっちもペース上げねえと」


「まぁ、あの爆音に関しては他の可能性が霧散するほどにその通りだと思うけど……。焦る必要はないだろう?まだ始まったばかりなんだし」


「いいや!!この勝負は負けられねえんだよ!!」


 喰ってかかるように吠えるリザに、レイスはただ眉をへの字に曲げて首をかしげるしかなかった。


「どうして負けられないんだ?」


 そもそも、どうしてこんな勝負ごとに発展したのかもレイスはわかっていない。

 たぶんアルミアの気まぐれに巻き込まれ、リザが彼女の挑発にそれはもう勢いよく飛び乗ったんだろうというくらいにしか思っていなかった。

 だが、いくら負けず嫌いのリザといっても今回は輪をかけて余裕がないように見える。


「そ、それは……。い、いろいろあんだよ!!」


「いろいろって……」


 下手くそにごまかすリザにレイスは呆れる。

 ただの喧嘩なのか、それとも何か別の理由があるのか……わからないことだらけだ。


「それ、ここ最近の事と関係あったりする……?その、俺が何か気に障るようなことしたとか」


 避けられていた要因がここに帰結するのかも、と考えたレイスはそう問いかけた。

 しかしリザはなんとも言えない顔で「あー、うー」と唸り……。


「別に、関係ねぇよ……」


 明らかに関係ありそうな反応をしつつそっぽを向くリザ。

 レイスはため息を軽く付きながら、追及することを諦めた。

 こうまで意固地になった彼女をつついたところで、火山の噴火の如く爆発するのは目に見えている。


「逆に……、お前はアタシに言いたいこと、ないのかよ?」


「え、俺が?リザに?」


 これは意外な反応だった。

 こちらを窺うように半眼で睨む彼女を一瞥しつつ、レイスは深く考える。

 

 うん、さっぱり思い当たるものはない。


 しいて言うなら謝罪の言葉だろうが、ご機嫌斜めなリザに対して何を謝るべきなのかはいまいち曖昧だ。流石にあのマイルームでの気まずいやりとりは時効だろうし、関係ないとは思うが。


「……特には?」


 ほどほどに時間をかけた後、レイスは一言そう添えた。

 リザをチラリと横目で見ると、複雑そうな顔をしつつ少し安堵したような雰囲気があった。

 わからない、いったい今の何が安心に繋がったんだ。


「そうか、んじゃお喋りは終わりだ。行くぞ」


「……うっす」


 解けない疑問を抱きつつ、レイスはリザの先導に続いた。




※※※




「……特には?」


 レイスが心底わからないと言いたげな様子でそう呟いた瞬間、リザはほんの少しだけ肩の荷が下りた。


 何の疑問も抱いていないということは、レイスはいまだ〝このリザ"が〝あの梨花"であることに気づいていないという証拠に他ならない。

 いや、もしかしたら高度な演技力をもって臨機応変に対応してきている可能性もないとは言えないが、あのレイスがそんな器用なマネが出来るとも思えない。


(よかった……バレてなかったんだ)


 顔面強打の情けない姿を晒し、あまつさえ突進で吹き飛ばしてしまった事件が彼の中で自分とイコールになっていないのであれば、如何様にも誤魔化す手段はきっとある。


 こう、金髪のウィッグを被ったり、ちょっと派手めの不良っぽい格好したりして〝リザ"のイメージを損なわない姿に化ければ大丈夫だろう。


 コスプレ紛いの変装なんてやったことないし、すんごく恥ずかしいのは頑張って我慢するとして……何とかなりそうだと改めてリザはほっとした。


(一番の懸念事項は対処可能ってわかったし……、あとはアルミアさん達だけをオフ会に行かせなければいいだけだよね)


 勝負を提案してきた時の彼女の小悪魔のような笑みは、全力でチョッカイかけるわよという雰囲気がアリアリと見て取れた。

 キョウカだって先輩!先輩!と子犬のように慕っている所を見れば、現実でも同じくらいの近い距離間で接するのは間違いない。


 そうなればレイスがどうなるかわかったものではない。


(それだけは……なんか嫌だ!!)


 自分がキッチリと監視して、不埒なことが起きないようにしなければならない。

 であれば、この勝負―――。


「……絶対に負けられねえ」


 闘志を心に込め直し、リザは強い足取りで先を急いだ。

 

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