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『リョウメンスクナ・3』

 一瞬たりとも油断が出来ないフィールドだった。

 アスファルトの道路を喰い破る様に枯れた茶色の雑草が生い茂り、持ち主のいなくなった廃車が点々と転がっている。

 倒壊した廃墟や崩れた塀もあちこちで道を塞いでおり、いずれも敵が身を隠すには最適だろう。


「ッ!!」


 何かが動く気配がしてレイスは即座にそちらへ銃口を向ける。

 しかし姿形は何もない。先ほどから何度もこの展開を繰り返しているので、気のせいということはないはずだ。


「……何かいる」


「ああ、ずっとこっちを見てやがる。何かはわからねえがな」


 リザは鋭い瞳でじっと周囲を観察しながらも足は止めない。

 少しづつ進路のクリアリングをこなしながら先を急いでいる。


「レイス、ラジオはどうなってる?」


「鳴りっぱなしだったから切った。たぶんこの街の全体が、すでに強い呪いか邪悪な怨霊の影響下にあるらしい。言うなればジャミングされてる状態かな……」


「そうか……、なら奇襲に気をつけろよ」


「了解」


 どうにも会話が事務的なまま終わってしまう。

 レイスはどうしてこの所、リザが自分を避けていたのか結局のところ分からずじまいだった。

 久しぶりの二人での探索なのは喜ばしいことのはずなのに、気まずい。

 とにかく気まずい。


 リザ本人はいつも通りに見えるし、自分の気にしすぎなのだろうかとレイスはモヤモヤした気分だった。


「レイス、先発部隊との通信が切れた場所まであとどのくらいだ?」


「街の中央に近い所だからまだ先だよ。そっちの住宅街から回っていった方が早いと思う」


「チッ、家がごちゃごちゃ並んでるとこはあんまり行きたくねえが、仕方ねえか」


 ベクターを構え直し、リザは早足で住宅街の方へと向かった。

 レイスは後方を警戒しながら後に続く。


「ん、おい、レイスこれ見ろ」


「どうした?リザ」


 立ち止まったリザがしゃがみ込む。

 注意を外に向けつつ、レイスもリザが拾ったものに目をやった。


 それは銃の弾倉だった。

 アイテムとしての〝アサルトライフルの弾"がリザの手の中にあった。

 よくよく見れば、近くには空の薬莢があちこちの地面に落ちている。ここで戦闘があったのは間違いない。


「先発部隊のものかな?」


「みたいだな、ほら」


 リザが顎をしゃくった先を見ると、土塀に背を預けて座り込んだままの人間がいた。

 特殊部隊の格好そのままの、重厚なミリタリー装備にヘルメット姿だが彼の背後の土塀には致命傷とわかるくらい真っ赤な血がべっとりと張り付いている。


 ―――第一犠牲者だ。


「なんてこった……」


「こりゃ残りも望み薄だな……」


 弾倉をレイスに投げ渡したリザは、隊員の遺体を調べに掛かった。

 弾倉の残弾は十発程度。アイテムはそのままリュックに入れて、手持ちのアサルトライフルの弾と統合させた。こういうところはゲームらしくストレスフリーだ。


 リザが調べると、隊員はサイシーバーを持っていた。

 血糊を拭いながら起動すると、調査メモが残されたいた。


「……強力な呪力が街一帯を覆っており、異界化の傾向が多くみられる。時間と空間がねじ曲がり、異形たちもどこからともなく現れてキリがない、か」


「人間的なフォルムをしているが、奇形の特徴がみられる。四つん這いで疾走してくるなど、機動性は高く凶暴……。こんなのがたくさん出てくるのか……」


 読み進めていくと、レイスは気になる文章が目に入った。


「……街の中央にある宗教施設に、呪物が集められた形跡がある?」


「これは敵の種類は少なくないと思った方がいいな……。他にもいるぞきっと」


「ああ……。残りの先発部隊はそこが事の発端と考えて向かったみたいだな」


 怪しさが留まるところを知らない。

 この街に巣食っていた宗教とはいったいとレイスは眉間にシワを寄せる。


 リザは隊員のサイシーバーを閉じると、同じ場所に戻した。

 そのまま、ふと気配がして振り返る。


 反対側の土塀を一枚隔てた向こう側。その上に白い帽子が浮いていた。

 いや、正確には白い帽子を被った誰かが、土塀の向こう側にいる。


 塀の高さを越えるとなると、ゆうに身長は()()()()()()()()()()()

 その姿を見て硬直したリザをしり目に、帽子はスッと横に移動し、塀の影から姿を見せた。


 白いワンピースを着た女だ。

 黒い髪は異様に長く、顔すら覆い隠すほどで表情が見えない。

 血のように赤い唇と尖った鼻先が唯一見えている顔のパーツだ。


 それが自分に見えているということは、白いワンピースの女は()()()()()()()()()()()


 リザは〝見つかった"と感じた。あるいは目を付けられたとも言い換えていい。

 女はそのまま、顔をそらすとまたゆっくりと歩き出した。




「ぽ。ぽぽぽぽっ、ぽぽっ」




 そう、人が発するにしてはおかしな声色で漏らしながら、白いワンピースの女はすぐに視界から消え去った。

 どっと背中に嫌な冷や汗を感じる。あれは……、あの声と姿は……。


「リザ?どうした?顔が青いぞ?」


「……レイス、お前は、見てないのか?」


「え、なにを?」


「あっちの土塀の向こうに居ただろうが、アレが……!〝八尺様"が!!」


 珍しく焦っている様子のリザに、ただ事ではないとレイスは察した。

 すぐに周囲を注視したが、リザの言う八尺様なる存在らしいものは見当たらなかった。


「すまない、見ていない……。遺体を調べてたから……。リザ、八尺様ってなんだ?」


 謝るレイスに八つ当たりしたくなるリザだったが、ぐっとそれを飲み込む。

 別にレイスが何かしたわけでもないし、共倒れにならないだけマシだと言い聞かせる。


「身の丈八尺はある怪物だ。魅入られた人間について回って、呪い殺しに来るヤバイ奴……」


「マジか。まさかリザ!?」


「なんであんなもんがここにいるんだよクソッ……」


 ようやく状況が飲み込めたレイスも難しい顔で唸る。

 ステージの様子から考えるに、宗教施設が集めていた呪物と同じく、八尺様もここに連れて来られたのだろう。その理由は定かではないが、何らかのトラブルがあって施設から解き放たれ、こうして徘徊していると考えられる。

 十中八九、この街を調べるきっかけになった地震が絡んでいると思われる。そうなれば大きな原因はやはり中央の宗教施設にあるに違いない。


「……ともかく進もう、それしかない」


「ああ、だな」


 レイスに促されてリザは立ち上がる。

 まだゲームは始まったばかりだ。


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