『禁后‐パンドラ‐・12』
―――ですか、大丈夫ですか!?
「ん……?」
レイスは目を開けると、自分が暗い森の中で寝転がっているのが分かった。
近くでは安藤が必死な様子で、同じく倒れている他のみんなに声をかけている。
どうやら、あの禁后の家から脱出できたらしい。
「……はっ、レイスさん!無事でしたか!」
「どうも、安藤さん……。なんとか出て来れました」
どっこいしょと身体を起こし、弾切れになったHK45をホルスターに戻した。
ナイフの柄に軽く手をかけつつ、レイスはバンドウに近づく。
「バンドウさん?大丈夫ですか……?」
声をかけてみると、眉間にシワを寄せながらバンドウはゆっくりと瞼を開いた。
白目を剥いてはおらず、理性的な瞳をしている。
「……ここは、えと。あれから、どうなったかな?」
声も特に変化は無し。いたって普通の彼の声だ。
よかった、どうやら憑依された状態から脱したらしい。
「どこまで覚えてますか?バンドウさん」
「頭の中がぐるぐるして、……そう、絡み合った手が何かの楔って感じのビジョンが見えて……。シーシャを襲いかけてそれを止めようとしたくらい……かな」
「なるほど、それ以降は完全にシャットアウトされていたと……」
なかなかに攻める黒幕だ。
つまりこれ、バンドウはほとんどこのステージで遊べていないという事だ。しかも彼のアバターを完全に操って勝手に仲間を攻撃させるという行為にまで及んでいる。人によっては運営に苦情や通報すら入れかねないパワープレイだ。レイスから見てもこれはかなりグレーゾーンに思えた。
ひとまず手を貸してバンドウを引き起こす。
それと同じくしてシーシャやディナ、アルミアも目を覚ました。
ちゃんとした足取りで立つバンドウを見て、シーシャがハッとする。
「あ、ああぁあ……。バンちゃん、もう大丈夫?」
「うん、心配かけたね」
「うわぁぁあああああん!! バンちゃんよかったよぉおおおお!!」
感極まった彼女はロケットのようなタックルをバンドウの腰元に叩き込み、再びバンドウを地面に引き倒していた。バンドウさんかわいそう。
「なんとかなりましたね~レイスくん。しかし【フライクーゲル】なんてダークアーツを隠し持っているとは思いませんでした~。あれ、現状だとガチャからしか出ない超レア物なんですよ~?」
「そうなんですか、シーシャさんかなりの剛運の持ち主なんですね……」
「私もけっこうなドルセントを溶かしましたしねぇ~、うらやましい限りです~」
あえていくらつぎ込んだかは聞かなかった。聞くのが怖かったとも言う。
しかも溶かしたという事は、それだけやって手に入ってないという意味だと思う。うん、突っ込まないが吉だ。
「はぁー……、な、なんだかすごい疲れました……。 アルミアさんもレイスさんもお疲れ様です」
「ディナさんこそお疲れ様。ダークアーツ、大活躍でしたね」
「い、いえ、そんな!皆さんの足を引っ張らないよう必死だっただけです……」
「まさか~、相棒にしたいくらいのお役立ちでしたよ~?」
「いえ……。アルミアさんの相棒はちょっと……」
わかる、とレイスは頷いた。
この人についていくとなると、命がいくつあっても足りない。
「……あの、それで中で何が?急に地震が起きたと思ったら、皆さんが倒れていて」
安藤がおずおずと話しかけてくる。
レイスは姿勢を正すと、事の顛末をアルミアの捕捉を受けながら説明する。
一つ一つの事実に安藤は驚きの表情を浮かべ、そして過去の陰惨な儀式に顔をしかめていた。
恐らく取りこぼしは無い。安藤の友人がおかしくなった原因は八千代と貴子の手首に込められた呪いに障られてしまったこと。
この結論を報告すると、安藤は納得と悲哀が入り混じった表情を浮かべた。
「……ありがとうございます。まさか、そんな過去がこの家にあっただなんて……。やはり、近づくべきじゃなかった……、話すべきじゃなかった……」
「触らぬ神に、というやつですね……。友人の彼女さんは気の毒ですが、どうか元気出してください。呪いの大元も破壊には成功しましたし、もしかしたら意識が戻るかもしれませんから」
「……はい。はい!そう、信じます」
もう一度、安藤は「ありがとうございました!」と一同に頭を下げた。
やがてその言葉に呼応するように、夜闇が終わり朝日が差し始めた―――。
デイライトクリア。
レイス達は大きく安堵の息を吐きながら、長い夜を終えたのだった。
※※※
「というわけで、オフ会の企画を提案いたします~」
「どういう流れでそういう話になったんですか!?」
バー【ARTEMIS】に戻って来ると、アルミアは飲み物を片手にそう言って来た。
ホントに何から何まで唐突だな、この人。
「いや~、頭をクリアにして物事を考えるには、怖い体験をするのが一番だっていうじゃないですか~?その結果、導き出された答えがこれ!というわけなんですよ~」
「恐怖体験して脳を活性化させよう!!なんて狂気の沙汰、後にも先にもやるのはアルミアさんだけだと思いますよ?」
というかこの人、ミッション中ずっと考え事しながら戦ってたのかよ。
どういう脳内処理速度してんだ。
「にゃー、オフ会にゃー……。まあ、リアルにほど近い見た目になるこのゲームなら、そうそうグッバイサヨナラなんて展開にはならないにゃけどー……」
カウンターのチェシャさんはどうにもいい提案とは思えないという顔だ。
確かにリアル事情は千差万別。余計にリザとの関係がこじれる可能性がないとも言い切れない。
「でもそろそろ私達の付き合いも長くなってきましたし、この辺りで一つ転機が訪れてもいいと思うのですよ~。よくもわるくも~」
「悪い方には転がってほしくないんですけどね……」
解決どころか悪化しては本末転倒だ。やはりアルミアに相談するのは早計だったかとレイスは今更ながら渋い表情を浮かべた。
「キョウカやユージーンさんにも相談してから決めましょうか……。そもそもにリザがNOと言えばそれまでの話ですし」
「絶対にYESと言わせてみせますからお姉さんに任せてください~」
「脅迫と拷問は無しですよ?」
「……私をなんだと思ってるんですか~?」
ヴァチカンのスーパーエクソシストです。
「ま、リザっちの悩みが晴れることを願うにゃ~。レっちゃんも腹を括るにゃ~?」
「……ええ、俺に至らぬ点があったというなら早期改善と再発防止は必ず」
「いや、そういうのじゃないと思うんにゃけどにゃ……」
呆れた様子のチェシャだった。
はて……?




