『禁后‐パンドラ‐・1』
掃除人達が集まるゲームロビーのバー【ARTEMIS】。
本日はレイスとアルミアだけという珍しい取り合わせでテーブルについていた。
「実は最近、リザに避けられてる気がするんですよ……」
深刻な表情でレイスはゆっくりと話を切り出した。
「そうですか~? 特にリザちゃんに変わった様子は見受けられませんでしたけどね~? この間も一緒にナイトアーモリーに試射に行きましたし~」
はて?と投げナイフでダーツをするアルミアは首を傾げた。
手首のスナップと共に放たれた白刃はズドォン!と鈍い音を立てて盤に刺さる。
ほどほどの得点だ。
「やはり皆とはそうですか……。 いや、俺がログインするとすぐログアウトするんですよこの所」
「んっん~、言われてみればレイスくんとリザちゃんがセットでいるタイミングは最近は無かったですね~」
自分とリザに限らず、ここしばらくは全員のログイン時間がまばらで、コンビやトリオでミッションに挑む事が多かった。
キョウカは何やら武道の大会が近いとかで、その練習に集中しているらしい。ユージーンは念願の娘さんとのゲームプレイが成就し、久々に親子で盛り上がっているとか。純粋にこれは拍手を送ってあげたい。
「私も仕事のスケジュールの兼ね合いで、前ほどプレイは出来てませんですしねぇ~」
「その割に毎日いますよね?」
「連続ログインボーナスを取り逃すわけにはいかないので~」
そういうわけで、特にこれといって生活サイクルに変化がないレイスとリザはだいたい時間帯が噛み合うはずなのだが、自分がゲームを始めるとやっぱりログアウトされるのだ。
何か気に障る事でもあっただろうかと自問を続けて、早くも一週間ばかりが過ぎているが解決の見込みはない。
「……やはり自室に招いたことがアウトだったのか?」
「さりげなく聞き捨てならないこと言いませんでしたか、レイスくん」
投げナイフを構えてこちらに狙いを付けるアルミア。
レイスは決死の弁明と事情説明を行い、なんとか絶命を免れた。
「あらあらあら、まぁまぁまぁ! そーんなことがあったんですね~?」
「めちゃめちゃ楽しそうに言わないで下さいよ!」
他人のナニガシは蜜の味と言わんばかりに、アルミアはニヤニヤと笑みを浮かべた。
リザからそういう気配がある事は前々から感じ取ってはいたが、まさかレイスまでその気があるとは思っていなかったのだ。
この年齢特有の朴念仁ぶりを発揮するか、かっこつけて場を繕い後で後悔するかの二択を選ぶだろうとアルミアは考えていた。
ヘタレをかましてはいるものの、リザとの関係を真剣に考えているレイスにアルミアは微笑ましい気持ちになった。
「ま、それで急にリザちゃんが出て来なくなったら不安にもなりますね~」
「はい……、何か方法はありませんか? アルミアさん。 ここは年の功ということで知恵をお借りしたく」
「よほど脳天に鉄のチョンマゲを生やしたいようですね~。 ドクサラって感じですか~?」
「毒を喰らわば皿まで行く覚悟で出した発言じゃないですからねっ!? 普通に大人の女性の方って意味ですからっ!!! あと投げる前に言って下さいそういうセリフ!!」
頭スレスレで壁に刺さった投げナイフに慄きながら、レイスは無実を叫んだ。
今ので気が済んだのか、アルミアは頬に人差し指を当てながらうーんと思考にふける。
そして、名案が思い付いたように柏手を打つと、レイスに振り返った。
「そうです! 今日はちょうど、行ってみたかったセッションステージがあるんですよ~!」
「うおぉぉぉいっ!! 全然、関係ないこと考えてたよこの人ぉ―――っ!!!」
抗議の声を上げる間もなく、レイスはチェシャの元まで連れて来られる。
カウンター越しにチェシャも可哀そうな物を見る目でレイスを眺めつつ、ミッションカタログをアルミアに渡した。
「えーと、ありました~。 これですこれ~」
「うん……? 『禁后の家』ですか。 えと、〝きんごう"で合ってますよね? 読み方」
「それはわからないにゃあ。 〝パンドラ"とも読めるからにゃあ、これ」
「いや、そうは読まないでしょ……」
流石に禁止の禁と皇后の后で〝パンドラ"とはならない。当て字でもなんでもないし。
「読めない方がいいんですよ~、これは」
「……どういう意味ですか?」
「行ってみればわかりますから~。 はい、これ資料です」
アルミアから手渡された『禁后の家』についてのミッション詳細を確認する。
クリア目標はシンプルに【真相の究明】とだけ書かれていた。
―――事の起こりは数週間前。
郊外の街の外れにある森に、一軒の廃墟があった。
地元の人々からも恐れられる呪われた家で、大人は誰も近づこうとすらしない場所だという。
そこに肝試しの目的で、五人の男女が侵入……。
女性一人が発狂し、〝自分の髪をムシャぶり続ける"という異常事態が起こった。
治療の見込みも無く、発狂した女性は遠い町へ家族と共に去ったという。
「………不気味だな」
なぜ、どうして、何があってそうなったかを解明せよ。
掃除人に課せられたミッションはそういう事らしい。
人数は五人募集。報酬は50万ドルセントだ。
過度なホラー演出が多分にあるため、苦手な方はご遠慮くださいと注意事項までご丁寧に載せられている。
加えて、武装はサブウェポンの拳銃のみ。予備弾倉も三つまでと厳しい制限が掛かっている。
ステージ説明を見る限り、そう遠くない場所に住宅地があると思えば賢明かもしれない。
もっとも、実際はこのステージを作った黒幕のこだわりなのだろう。
抵抗できる手段を可能な限り削り、ギリギリのリソースの中で呪いと戦ってほしいという願望が透けて見える。
このミッションは割と自分向きかもしれないとレイスは思った。
「オッケーですか~? レイスくん」
「ええ、面白そうですね。 行きましょう、アルミアさん」
リザの話はもちろん気になっているが、それはそれとしてログインしたからにはゲームもやらなければならない。
レイスは一度、頭を切り替えて、こちらに集中することにした。




