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『オブジェクトナンバー“0021”・12』

「でも、武器はどうするんだい? リザちゃん。 流石に今の武器と残弾じゃどうしようもないと思うんだけど……」


 ユージーンはおずおずと片手を上げてそう言う。

 リザは頷いて先を続けた。


「この異空間だけど全部が全部あの覆面野郎が作り上げたオリジナルってわけじゃねえ。 よーく見ると元の“アルファ”の階層をつぎはぎにくっつけて迷路にしているだけってわかった。 んでもってそのつなぎ方にもいくつか法則性があるのを見つけたぜ」


「法則性なんかあったの?」


「そうだ、シェル。 まず、この迷宮はぐるっと丸の形をしてる。 んで、【レベル.1】から【レベル.5】までの各ブロックがケーキを切るみたいに、こんな感じで均等に別れてるんだ。 もちろん【レベル.1】の横が【レベル.3】みたいに順番はバラッバラになってるけどな」


 リザは空中に大きく丸を描き、それにシュッシュと中央を通る線を切って五等分になるように見せた。

 いきなり知らない【レベル.6】が増えたり、逆に【レベル.4】まで減ったりもしないだろうと説明も付け加える。


「レベルで区分けされたとこは三階層で構成されてるだろ? このレベルブロックの中はその階層がさらに入り乱れて繋げられてるとあたしは見てる。 まぁ迷うわけだよな」


 一階層だけでもそれなりの広さがある“アルファ”だ。レベルごとに仕切られているとはいえ、その中身もランダムに組み合わさっているとなれば探索は容易ではない。

 だが、目星はつけられる。


「でだ、ジェイス。 知ってたらでいいんだけどよ、没収されたあたしらの武器(・・・・・・・)、どこのレベル階に保管されてるかわかるか?」


「―――わかる。 【レベル.2】の三階層にある収集品倉庫だ」


 ジェイスは即答した。

 もちろんソースは事前に調べ上げた攻略情報からだ。本来であればカードキーで隔壁を開けて【レベル.2】まで上がり、武器を整えてから探索と攻略を進めていくのがこのステージのセオリーとなっていた。

 しかし、今はこの通り事前情報にもなかったエレベータールートに乗って大混乱の極みだが、まだ逆転の目はあるとジェイスも確信できた。


「ってーことは、今は【レベル.4】のエリアにいるから【レベル.2】はすぐ隣だな。 ここを中心に探索して収集品倉庫を見つけるぞ」


「……よく覚えてるねリザちゃん。 一回通路を通ったかどうかくらいなのに」


「まぁな、一度見たもんはあんま忘れねぇんだ。 それに、レイスと組む前までのあたしはほとんど単独行動(ソロ)だったんだぜ? 他愛ねぇよ」


 方角はわかっているから道もある程度は案内できるとリザは答え、一行の方針は決まった。

 なるべく弾を使わないために前衛は変わらずキョウカが務めることとなった。


「いや、俺も前衛に入るぜ。 一人じゃキツイとこもあるだろ」


 そこに名乗りを上げたのがジェイスだった。


「お気持ちは嬉しいですけど~、流石に武器なしの人を前に上げるのはどうかと~」


「まぁ、ちょっと見てくれ」


 そう言うとジェイスはトン、トンと軽くジャンプしながら姿勢を整え、鋭いキックを繰り出した。

 蹴り上げ、連続前蹴り、回し蹴りからのハイキックを放ち、その足先をピタリと静止させた―――。

 流れるような動作に一切の淀みはない。


「へぇ、『サバット』ですか~」


 アルミアは感心したように呟いた。

 サバットとは、フランス語で『靴』を意味する。18世紀頃に開発された紳士の護身術で、遠間からのステッキと蹴りを使った打撃、近距離での投げと関節技を主体とする総合格闘技だ。

 ローリングソバットの語源に連なる通り、足先を相手に叩きつける強力な蹴り技の数々が特徴的である。一部は軍隊格闘にも流用されているとの話もあるくらいに実戦向きだ。


「そういうことだ。 無手でもそれなりにやれる。 つっても無茶できる方でもねぇから援護メインになっちまうけどな」


「ほっほー! まぁウチが強いのは当たり前っすけど、ジェっさんもいい技量じゃないっすか! 期待するっすよ!!」


 ジェっさん?って顔をジェイスは浮かべたが、とりあえず「お、おう」と了解の返事をした。

 

「お兄ちゃん、ここぞとばかりに前に出てきたね」


「う、うるせぇ! できることをやってるだけだ!!」


 半眼の生暖かいシェルの眼差しにジェイスは居心地悪そうに叫んだ。

 これ以上突っついて機嫌を損ねられても困ると思ったアルミアはパンパンと手を叩いて、一同を注目させた。


「では、収集品探しにレッツゴーですよ~!」


 アルミアの元気のいい呼び掛けに、全員が頷いた。




※※※




「あったぞ、見ろ! ここだ!」


 リザがライトで照らした所には、錆に紛れてボロボロになった【レベル.2】の文字があった。

 注意して見ていないと簡単に見逃しそうなくらいのわかりにくさだ。


「オーケー、じゃあ【レベル.2】のエリアに入ったってことで……こっからが本番ってわけだな」


 ジェイスがパシン!と拳と手の平を打ち合わせて気合を入れた。

 G11を構えるユージーン、KSGを片手に辺りを見回すアルミア。リザも最後の弾倉が刺さったMP5クルツを持ち直し、キョウカの先導に続いた。

 手分けして探索を進めたい気持ちは強かったが、今は固まって動いた方が賢明だと判断した。


「むっ、会敵っす!! 覆面ゾンビが三体!!」


 廊下の角を曲がったキョウカがそう叫ぶと、警棒を両手に構えて姿勢低く突貫した。

 跳躍から壁を蹴って反転し、重力と体重を乗せたキツイ一撃を一体の脳天にお見舞いする。


「まず一つっす!」


 続くもう一体の0021・A実体もカチ上げるように振るった一閃が顎を捉えてよろめかせる。

 ラッシュに入ろうと間合いを詰めた所で―――横合いから奇襲が入った。


『だずげでぇ゛え゛え゛え゛ッ』


「い゛ッ!?」


 ぞわっと壁の隙間に埋まっていた0021・A実体が骨をひしゃげさせながら飛び出してきた。

 人が入れるようなサイズではなかったせいで、キョウカは意識の外に置いていたのだ。


「オオオラアアッ!!」


 ジェイスの低く重い飛び蹴りが、奇襲をかけた0021・A実体の顔面に突き刺さった。

 メゴッと肉がめり込む嫌な感覚を覚えつつも思いっきり足を突きだして勢いよく吹き飛ばす。


「気をつけろ!けっこういやがるぞ!」


 ジェイスの言う通り、ダクトから這い出てきたり、床の金網を突き破ってきたりと0021・A実体が徐々に数を増やしていく。いったいどう息を殺して潜んでいたのかまったくわからないくらいだ。


「みたい、っすねぇッ!! 援護感謝!!」


 姿勢を整えたキョウカは鋭い突きを放って眼前の一体を地に伏せる。


『だずげでぇ゛え゛え゛え゛ッ!! だずげでぇ゛え゛え゛え゛ッ!!』


「うへぇ……実際に聞くとけっこう嫌なものがあるっすね」


 ジタバタともがく0021・A実体の覆面をかぶった頭を踏みつけてトドメを刺し、キョウカは次の目標に目を向ける。


「キョウカ!! ジェイス!! 全部は倒さなくていい!道を拓け!!」


「了解、リザっち!!」


「わかった!!」


 後方ではアルミアのショットガンと、ユージーンのアサルトライフルのマズルフラッシュが瞬いていた。

 向こうにも敵が迫っているのだろう、既に囲まれた状況だと判断できる。

 キョウカはしっかりと警棒を握ると前方を塞ぐ0021・Aの群れに突入した。


「だぁああああ―――ッ!!」


 捌くよりも押し通す勢いでキョウカは腕を振りぬいた。

 確かな手ごたえを柄越しに感じながら、邪魔な敵を殴り飛ばしていく。


「走れ走れッ!! 突破するぜッ!!」


 こぼれた相手はジェイスが蹴りと背負い投げを決めて仕留め、後列の進路を確保する。

 キャロラインとシェルは銃を持った三人に守られながら、その後を必死になって続いた。


「くっ、どっちに進めばいいっすか!?」


「カンを信じろキョウカ!! こういう時のお前のセンスは一番頼りになる!!」


「無茶苦茶言うっすねリザっち!? ええい、やってやるっすよ!! 研ぎ澄まされろ! ウチのフォース的な何か!!」


 数瞬の静止からキョウカは突き当りを左に走った。

 動きは遅いものの、0021・A実体は要所要所で姿を現しては入れ替わるように追跡を続行してくる。止めどない攻勢に、銃を持った三人は流石に残弾が心もとなくなってきた。


「くそっ!! あたしは弾切れだ!!」


 ただの文鎮になったMP5クルツを敵の脳天にカチ当てつつ、リザはバックステップで下がる。


「おじさんも最後のマガジンだよ! もう半分は使ったかも!」


「こっちは残り6発です~!!」


「……ッチ、ジリ貧かよ」


 焦る後列にトドメを刺すように前方から悲鳴が上がった。


「のわー!! 行き止まりっすッ!!!」


「なっ……!?」


 すでに数をまた増やした0021・A実体が後方に迫っている。

 これを押し返す突破力は流石に今のチームにはない。


「ううん、待って! これ引き戸だよ!! あ、でも南京錠が掛かってる!!」


 シェルの一言でアルミアが目を見開き、「ここをお願いします」と告げてすぐに駆けだした。

 彼女の手にはショットガンという名のマスターキーがある。


「どいてください!!」


 ジェイスとキョウカを押しのけて前に出たアルミアは、錆びて壁と一体化しているように見える引き戸の南京錠めがけ、トリガーを二度引いた。

 爆裂するような衝撃を受けた南京錠はいとも簡単にはじけ飛ぶ。

 アルミアは取っ手を掴むと勢いよく引いた。


 どうやら立てこもれそうな部屋になっているようだった。


「皆さん早く~! 中に入ってください~!」


 すぐそこに迫る0021・A実体を背中に感じながら、なだれ込むように一同は部屋に飛び込んだ。

 アルミアは引き戸を閉じると、持っていたKSGを無理やり取っ手部分に差し込み、扉の開閉を封じた。

 すぐさま、ドンドンドン!!と大勢の人間が戸を叩くような音が鳴り響いたが、今のところはしっかりとバリケードとしての効果を発揮してくれているようだ。


「ふー……、あ、焦ったぜ……」


「ひとまずはなんとかなりましたねぇ~……」


 緊張の糸が切れてようやく安堵のため息を吐くアルミアとリザ。

 キョウカとジェイスも床に座り込んで長い一息を入れた。


「……え、っと。 これかな?」


 一足先に周囲を探索していたユージーンは電源のレバーのようなものを発見し、力いっぱい押し下げた。

 バツン!と電灯が灯り、部屋を明るく照らしだす。


 そこは少なからず古びている影響は出ているものの、いまだ“アルファ”の原型をとどめている場所だった。

 広々としたスペースいっぱいには―――ありったけの銃器と装備がコンテナに乗ってズラリと並んでいた。


 呆気にとられたユージーンが今だうるさい引き戸の上を見ると、プレートには【収集品倉庫】の文字が書かれていた。


「……キョウカちゃんのカン、本当にすごいね」


「あ、はは……いや、ウチもビックリっす」


 一同に笑みが浮かぶ。それは安心でも喜びでもない。

 ……ああ、やっとちゃんと殺せるという獰猛な狩人の笑みだった。


「―――準備しろ、掃除人(スイーパー)どもッ!! 仕事の時間だッ!!」


諸事情により更新遅れます。

しばしおまちください。

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