『オブジェクトナンバー“0021”・11』
数十秒は全速力で駆け抜け、安全そうな部屋にたどり着いた一行はようやく足を止めた。
「放せッ!! 放してよッ!! レイスを助けにいかなきゃッ!!」
「……落ち着いてください、リザちゃん~。 残念ですけどもう手遅れですから~」
「ッ、そんなことは!!」」
暴れていたリザがフッと左上を見やる。
恐らくはウィンドウを呼び出してパーティ一覧を確認したのだろう。
ただそれを見た直後、リザの食って掛かるような勢いが見る間に萎んでいった。
アルミアも同じ画面を見ていたので気持ちはわかる。
レイスのステータスが赤黒く染まり、そのど真ん中に堂々と『DEAD』の文字が躍っていたのだ。
レイスは死んだ。
あっという間のことだった。
まぁそれはそれとして、今頃は拠点のベッドで復活して恨み節の一つでも叫んでいる頃だろうという事もアルミアはわかっていた。
問題はこちらのリザだ。わりと尋常ではないレベルで精神的ダメージを負っている。
ビッグマンがやられた『きさらぎ駅』の時もそうだったが、今回はその三倍はいくだろう。
頭では無事とわかっていても、気持ちがどうしても追い付かないのだ。
リザ・パラベラムにとっては、この世界が他でもないリアルなのだから。
短くも深い繋がりを続けてきた相棒の喪失が堪えないはずがない。
だからこそ“アルミア”として精一杯のフォローをしなくてはと、彼女は思っていた。
そう思えるだけ、アルミアもこのチームを気に入っていた。
「レイスくんなら、弔いもそこそこに次の手をすぐに考えると思いますよ~? 彼、そういうとこは案外ドライというか合理的ですからね~」
「………」
「リザちゃんもそうなれなんて流石に言いませんけど~。 でも、やるべきことは見誤らないで下さいね~?」
スッとアルミアは指さす。
そこにはレイスを失って不安そうにするユージーンとキョウカ。
互いに意見を交わしながら難しい顔をするジェイスとシェル。
そして心神喪失一歩手前までいってるくらいに顔を青くしたキャロラインがいた。
いずれも混乱の傷は深い。
「あなたは私たちのリーダーなんですから~。 わかってますよね~?」
もしもここにレイスがいれば「なに励まそうとするテンションでトドメ刺しにいってるんですか」と苦言を呈していただろう。ようはリーダーの責任に賭けて残りのメンバーを守れ、感情に振り回されてる場合かとそういう意味に聞こえるからだ。
当のアルミアは「リーダー頑張って!」くらいにしか思っていないのがさらにたちが悪かった。
アルミアという女、人の気持ちを汲むのがド下手くそだった。
「―――そう、だな。 ……悪ぃ、あたしがしっかりしねぇといけねぇんだった」
しかし、こんなセリフでも打てば響くのがリザ・パラベラムである。
苦虫を噛みつぶしたようなしかめっ面をしつつも、幾分かは気持ちを落ち着けたようだった。
燻ぶるものをなんとか飲み込んでやっと、という雰囲気ではあったが。
「うしっ……!! キャロライン! ジェイス! あの覆面野郎について知ってること、全部教えてくれ!! 対策練るぞ!!」
パンッ!と自分の頬を両手で張って気合を入れたリザは勇ましく立ち上がった。
声を掛けられた二人は少し驚いたようにリザに目を向け、やがてばつが悪そうにしながらやって来た。
「……すまねぇ、俺の判断ミスだ。 なりふり構わず0021のルールは全部共有しておくべきだったぜ」
いざ本当に犠牲が出ると、ジェイスはひどく気にしたように謝ってきた。
なまじレイス含むリザ達はかなり真剣にジェイスとシェルの護衛に取り組んでいたこともあり、彼なりに恩を感じる所もあったのだろう。
すっかり反発的な態度は鳴りを潜めていた。
「わ、私も……しっかりと話していれば……。 本当に取り返しがつかないことをしてしまって……ご、ごめんなさいリザさん」
深々と頭を下げるキャロラインにリザは笑みともつかない複雑な表情をする。
相手はNPCだ。ジェイスはまだしも、彼女は役割をこなしているに過ぎない。
「……いい、とは言えねぇ。 でも、あたしら全員が五体満足で無事に脱出するためには二人の協力が不可欠だ。 こっからは隠しごとなしで頼むぜ」
「もちろんだ」
「はい、です……」
わかっていてもつい口から棘が出てしまう。
少なくとも情報が揃っていれば、こちらの貴重なブレインを失わずにすんだことは明白だ。
だが、それを掘り返していても事態は絶対に好転しない。レイスならそう割り切るだろうとリザは思った。
リザは気を引き締めなおして言葉を選びながら、キャロラインとジェイスから聴取を行った。
今一度、情報を精査し、対応策を考えるためだ。
「あ、見張りはウチでやっとくっすからそっちは任せるっすよリザっち」
「……わかった。 ならアルミアとオッサン、んでからシェルもちょっとこっちで知恵貸してくれ。 あたしだけじゃまとめ切れねえ」
「今、遠回しにウチのことアホって言ったっすね?」
「………、そんなことはねぇぞ?」
「フッ、大丈夫!! ウチは自分がアホの部類だと自覚してるっす!!」
なんの話だよとツッコミが遠くから聞こえた気がした。
ひとまずキョウカを除くメンツで意見を突き合わせ、あらかたまとめた内容は以下の通り。
ひとつ―――“0021の顔を近距離で見てはいけない”
「こいつをやっちまうとその場で麻痺したみたいに動けなくなる。 催眠みてぇな技能なんだろうな……だから接近戦はかなり不利どころか、まずできねぇと思ってた方がいい」
「真偽のほどはわかりませんが、気に入った対象に率先して仕掛けようとする傾向があるようです。 そうして傷つけずに確保した獲物に覆面をかぶせるんです。 ……当然、意識はあるのでそのまま」
「オッケー、だいたいわかった」
ひとつ―――“0021の名前を呼んではいけない”
「これは知っての通りだな。 名前を言った奴を執拗に追跡してくるようになるし、どこに隠れても瞬間移動で捕まる厄介な特性だぜ……」
「はい、発見の経緯は通報があったエリアで0021の名前が書かれたメモを“アルファ”の鎮圧部隊が発見して読み上げた瞬間に現れたとか……。 危険しかないので絶対に言わないで下さい」
ひとつ―――“0021は声帯を模倣する”
「リザが見つけたこの罠満載のレポートのここの部分だな、0021は自在に声を変えられる」
「とはいっても、オウムが人間の声を再現するようなものなので複雑な会話はできません。 せいぜい単語と少しの文を言える程度でしょう」
「ふぅん……じゃあ、どう使うんだ0021は?」
「ああ、『助けて―――ッ!!』ってセリフを繰り返し啼きやがるんだ。 知ってる仲間の声でな」
「………」
「そうして生存者をおびき寄せて、覆面INだ。 賢い野郎だぜ」
「0021・A実体も同じ声帯模倣を使えます。 騙されないよう気を付けて下さい」
レイスが聞けば絶句していたであろう重要情報の数々だった。
おおよそ、人を襲うことにかけては右に出るものはいない程のてんこ盛りトラップ群。
遭遇しなかっただけ、ホントに運が良かったとリザは呻く思いだった。
「それで? あいつはどうやったら倒せる? いや、倒せないままでもアイツのテリトリーを出る方法がわかりゃそれでいいんだけど……」
「そこなんだよな……」
ジェイスはガリガリと頭をかく。
隣のシェルも苦笑いを浮かべている。
「どっちにしろ、0021は何とかしないといけないんだよリザちゃん」
「どういうことだ? シェル」
「このテリトリーを収束させるには、0021を倒さないといけないの。 だよね? キャロラインちゃん」
「……はい。 0021の広げる領域は母体の死亡によって収束します」
「いやいやおかしいよ……。 そ、その情報はつまり、0021をやっつけないとわからない事実じゃないか。 矛盾してるとおじさん思うんだけど……」
「殺しても復活するんです……0021は」
ユージーンの指摘に鋭く言葉を重ねたキャロライン。
一行の間によりいっそう、冷たい沈黙が流れた。
「ですが、消耗しているのかわかりませんけど活動はしばらく停止します。 過去の事例ではその間にもう一度、確保、収容した形になります……はい」
「倒した方法は?」
リザはずいっと前のめりにキャロラインに迫る。
彼女は下唇を噛むようにしばし黙り、やがて言いにくそうに口を開いた。
「……TNT爆薬を抱えた隊員がもろとも自爆して終了させました」
自爆特攻か……、さぞ美しいラストシーンだったんだろうなとリザは思った。
「ふーん。 ならよかったですねリザちゃん~?」
「ああ―――」
アルミアの言にリザは頷いた。
「物理で殺せるならこっちのもんだ」
ニマッとリザの口角がつり上がった。
感想いつもありがとうございます。感謝と嬉しさでいっぱいの気持ちです。
何度も何度も読み返しては執筆の糧にさせて頂いております。
これからも末永く、チームパラベラム・バレットをよろしくお願いいたします。




