『オブジェクトナンバー“0021”・10』
「大当たりだ。 でかしたリザ」
レイスは早速ページを開いてファイルの内容を確認した。
エセ英語が変換され、日本語の長い文章が羅列されていく。
『オブジェクトナンバー0021:スマイルフェイス』
クラス‐Thanatos
【収容プロトコル】
・オブジェクトナンバー0021はサイト“アルファ”の【レベル.1】第二階層668特別監房に収容されています。監房内は照明を落とし、暗視カメラを使用した24時間の監視体制を行います。職員は必ず監房内に0021がいることを随時チェックしてください。0021の姿が見えないと判断した場合は、直ちに保安部署へ連絡してください。
また0021の■■■■■■■は禁じます。
【オブジェクトアウトライン】
・オブジェクトナンバー0021は身長約3メートルの人型実体です。
筋肉量の少ない痩せぎすの体型でスーツのような衣服を着用しています(これは表皮であり布類ではありません)。手足が異常に長く、それぞれ約1.8メートルからほどの長さがあります。
顔面には白い覆面をかぶっており、表面にはロールシャッハテストに使用されるような黒色の左右対称図が描かれています。笑みを浮かべたような図柄のまま、変化することはありません。
覆面は表皮に張り付いているため、0021の素顔は依然として不明です。
通常0021は大変大人しく、独房の中央で静止しています。
しかし0021の■■を■■■場合、直ちに行動を開始し対象者を執拗に追跡しようとします。
この時、0021は瞬間移動と思われる能力を発揮するため、阻止はおろか妨害することも困難です。
どのような方法で対象者を探知しているかもわかっていません。
0021は対象者を捕獲すると≪編集済み≫した後に、どこからか自身と同じ覆面を取り出し、対象者の頭部にかぶせます。覆面は対象者の皮膚に固着し、外すことはできなくなります。
この時、猛烈な痛みを伴うらしく、対象者の意識が残っていた場合は≪記述削除≫。
その後、覆面を被せられた対象は『0021・A 実体』として復活し、活動を開始します。
0021・A実体は0021と違い、無差別に人間を攻撃します。動植物や無機物に対してはこの反応は見られず、常に人間のみを狙っているようです。
捕獲された場合は0021と同様に覆面を被せられ≪記述削除≫。
0021・A実体は際限なく増殖するため、発見次第直ちに終了処分を行ってください。
0021は一体目の0021・A実体を作成した後は再び静止状態へ移行します。
その後、半径1キロメートル内の空間を捻じ曲げ、自身のテリトリーを生成します。
このテリトリー内は複雑な迷宮に変貌し、またランダムなタイミングで内部構造が変化するようになります。
テリトリーは数時間おきに領域を拡大するため、早期に対処してください。
【特記事項】
※0021の顔を至近距離で見ないでください。
※0021は知性を持ち、我々を■■■■ために声帯を■■■します。
※0021の■■を■■■■■■■■■■■。
―――二度三度、繰り返し読み返してレイスは眉間に深いシワを寄せた。
「ホラー映画のえげつない要素全部乗せもいいとこだな……。 しかも肝心なところは何もわからないし……」
資料から読み取れる内容をまとめると以下の通り。
1.0021は何かすると追いかけてきて覆面を被せられて仲間にされる。つまり死ぬ。
2.0021に仲間にされたやつは片っ端から人を襲って覆面を被せてくる。そのまま増える。
3.0021は脱走すると自分のテリトリー(迷宮)を作る。ヤバイ。
4.そのテリトリーは時間経過でデカくなる。世界がヤバイ。
「ダンジョン生成とモンスター生成を同時にやってのけるボスなぁ……。 倒し方も載っていれば万々歳だったんだけど……」
地味にこのバインダーに挟んである資料、何枚か紙が抜けているのだ。
いっそダメもとでキャロラインに聞いてみるかとレイスは考えなおす。
「あ、キャロラインさんちょっといいですか?」
「あ、はい。 なんでしょうかレイスさん」
「実は例のオブジェクトナンバー0021。 スマイルフェイスの……」
「ッ!? よせ!!! レイスッ!!!!」
瞬間、ジェイスが悲鳴を上げた。
キャロラインも「あっ」と口を開けて固まる
「ルールその2だッ!! ―――アレの名前を呼ぶなッ!!!」
……レイスはどっと冷汗が吹き出るのを感じた。
背中に鳥肌が泡立ち、先の文章の伏字の内容を察してしまう。
恐らく、0021の“■■”を“■■■”場合、直ちに行動を―――だ。
事前情報にも出るほどの致命的な行動を、レイスはたった今、犯してしまった。
騒然とした状況の中、チームメンバーたちの視線がレイスに集まった。
誰も彼も驚愕した表情を浮かべて、見上げるように目線を天井近くに向けている。
ああ……とレイスは何とも言えない複雑な笑みを浮かべるしかなかった。
「……初見殺しすぎでしょ、この罠」
ドズンッ!!と棒状の何かで背中を突かれた衝撃が走った。
見下ろせば、自分の胸の中央から赤黒い染みを滲ませた細い腕が生えている。
「ぐ、ぁああああああああああッ!!!!!」
足が地面から離れ、グインッと上に持ち上げられた。
視界が一気に真っ赤に染まり、レイスは自分が一撃でダウン状態に持っていかれたとわかった。
次に見たのは、あの笑顔を浮かべたような左右対称の黒い染み。
レイスの胸をその腕で貫いた、オブジェクトナンバー0021ことスマイルフェイスがそこに居た。
「レイス―――ッ!!」
リザ達が銃口を向ける。
自分を救おうとするメンバーを、レイスは声を荒げて静止した。
「は、早く逃げろぉッ!!! が、ぐ!! 俺は、もう駄目だッ!! 急げぇ!!」
喀血しながらじたばたとレイスは藻掻くが、腕を引き抜くことは叶わない。
そうこうしている内に、死亡までのカウントもみるみる減っていく。
どの道、回復アイテムは誰も持っていない。
ダウンした時点で復活の目はもうないのだ。
「行けぇ―――ッ!! 行ってくれぇええ―――ッ!!!」
レイスは少しでも時間を稼ぐべく、至近距離に見える0021の顔面に釘打ち機を撃ち込む。
腕に刺されたまま、不安定に振り回される中での攻撃だが辛うじて命中していた。
効果らしい効果は残念ながら認められなかったが、ヘイトそのものは引き付ける事が出来た。
「レイスッ!! やめろッ! 放せアルミアッ!! 助けないと!! おいッ!!」
「すみませんリザちゃん、ここは逃げの一手ですから」
視界の端で、暴れるリザがアルミアとキョウカに抱えられながら連れられて行った。
先導しているのはジェイスとシェルだ。絶句して放心していたキャロラインはユージーンが手を引かれている。
ああよかった、ちゃんと言うとおりにしてくれた。
全員の姿が見えなくなった頃合いで、レイスは強かに地面に叩きつけられた。
「がっ、はッ!!」
ズルリと乱雑に胸から腕を引き抜かれ、そのまま押さえつけられる。
もう暗くなってきた瞳の向こうで、こちらを見つめる動かないはずの笑みの模様がより深く笑ったような気がした。
次に何が起きるかはわかっている。0021は新しい覆面を取り出すと、ゆっくりとレイスの頭に近づけていった。
「……ク、クソッタレめ」
死ぬときはホントにあっけないな、という感想と共に虚しい罵倒が口から洩れる。
抵抗できぬまま、しゅるりと布が顔に覆いかぶさられていく感覚に恐怖しながら今度こそレイスはゲームオーバーになった。
残り人数―――7人。




