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『オブジェクトナンバー“0021”・8』

――――ギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!


 どこから声を出しているかもわからない断末魔が、炎の中から上がる。

 ガラス越しでも熱を感じる実験室の中は、地獄のような高温になっていることがゆうに想像できた。

 レイスはのたうち回りながら焼却されていく≪ウールガイ≫を見つめながら、今度こそこれはトドメを刺したと確信した。


『滅菌プロセス完了いたしました。 入室可能になるまで三分お待ちください』


 ガシャンと噴出口が遮断され、先ほどまでの炎の嵐が嘘だったように消える。

 揺らめく陽炎と黒コゲになった室内には、もはや活動できる物体は存在していなかった。


「けっこうあっさりいったじゃねぇか。 まぁまぁやるな」


「ど、どうも」


 フンと鼻を鳴らしたジェイスに、レイスは曖昧にうなずいた。

 あまりにも暴力的すぎる滅菌処理にドン引きつつ、改めて状況を確認する。

 ≪ウールガイ≫の討伐は完了した。しかしながら……。

 

「今のでかなり弾は使っちゃったね……。 おじさんはあと予備の弾倉が1つってくらいだよ」


「そうですね~、私も装填してる分で全部です~。 11発くらいですね~」


 手持ちの銃の具合を確かめながら、アルミアとユージーンはそうレイスに報告した。

 二人にはまだ拳銃やマグナム銃といったサイドアームがあるので、想定よりまだもう少しは戦えるだろう。


「悪ぃ、もうこいつで最後だ」


 弾倉をMP5クルツに差し込み、乱暴にボルトを解除するリザ。

 さっきの今で撃ちすぎだと苦情を申し入れたいが、囮役を任せた手前さすがに言えない。

 ちなみにキョウカの方は普通に元気だった。肉体が武器ってすごい。


 レイスは四人にキャロラインや実験室の再確認を任せ、ジェイスとシェルの方へ向かった。


「ありがとうございますジェイスさん、シェルさん。 おかげで助かりました」


「お、おぉ……なんだよお前……。 急に敬語とか気持ち悪ぃな」


「さっきまではロールプレイでしたので、不快に思ったなら申し訳ありません」


 ロールプレイスイッチを切り、再度お礼も兼ねてレイスは自分たちの自己紹介をする。


「―――というわけで我々はキャラクターを演じながら……いえ、もうほとんど素みたいなものですが、そんな感じでプレイをしている集団です」


「きゃー! やっぱりそうだったんだ! 最初に会った時、もしかしてーって思ってたの。生の『パラベラム・バレット』に会えるなんてラッキーだわ!」


 シェルは喜色満面の笑みを浮かべる。

 レイスからしたらそこまでの知名度になっている事に驚きだった。

 確かにイーサンとは『プロジェクトアーカム』以降も一緒にプレイする機会はあったし、無い話ではないが、そこまで暴れまわった覚えもなかった。

 せいぜい、ユージーンが3キロメートル狙撃を成功させたり、アルミアが銃ではなく聖句で悪魔を祓ったり、キョウカが亡霊騎士と一騎打ちして勝ったり、自分とリザが30匹くらいのクリーチャーの包囲を殲滅したくらいだ。


「え、こいつらそんな強ぇのか? ナヨっとしたツラなのに?」


「ちょっとお兄ちゃん!? 失礼よ!!」


「ちょ、おま! こっちでお兄ちゃんはやめろって言っただろうが!」


 なるほどリアル兄妹なのか。どうりでアバターもそっくりなわけだ。


「ところでジェイスさんとシェルさんはこれからどうしますか? 見た所、武器もお持ちじゃないようですが」


 そう、遭遇した時から気になっていたがこの二人は最初に会った時のツナギ姿のままで、手には何も持っていなかった。一番乗りで出ていったはずなのだが、どういう理由なのだろう?


「チッ、くじ運が悪かったんだよ……。 最速でコイツを取りに行かなきゃいけなかったんでな」


 そう言いながら彼が掲げて見せたのは一枚のカードキー。

 顔写真と所属に並んで刻まれいるのは一筋の青い線(・・・)


(ブルー)クラスのカードキーッ!?」


「そういうこった」


 ジェイスは勝ち誇ったように笑うとポケットにカードを仕舞った。


「おーっと、言っておくが―――」


「ねぇ、レイスさん! 私たちと協力しない?」


「ちょぉッ!! シェルてめぇ!!」


 見事に兄貴のかっこつけたムーブを叩き切ったシェルはそう提案してきた。


「こっちはこのカードキーで上の階層まで連れて行ってあげる、代わりにそっちは私たちをしっかり守る! どう? ウィンウィンでしょ?」


「俺としては願ってもないことです。 ジェイスさんはどうしますか?」


 努めて冷静にレイスは意見を求めた。こちらで勝手に決めてしまうのは流石に悪い。

 ジェイスは「ぐぬぬ」と苦々しい表情を浮かべたが、やがて渋々頷いた。


「……俺達の銃が見つかるまでだ、いいな?」


「わかりました」


 レイスはそのまま了承した。


「こちらからは、できればロールプレイ……いえ、ゲーム用語をあまり使わないでいてくれると会話がスムーズになりますとだけ。 せっかくですので、なりきって楽しんでいただければ幸いです」


「マジかよ、めんどくせぇな……」


「お兄ちゃんはそのままで十分キャラ立ってるから心配しなくてもいいよ?」


「お兄ちゃん言うな……」


 お二人ともともめちゃめちゃキャラ立ってますよ、とレイスは思った。

 頭をまたレイスに切り替え、釘打ち機を手元に抱えながら目を向ける。


「じゃ、よろしく頼むぞ。 ジェイス、シェル」


「はーい!」


「はぁ、ったくどうしてこうなったよ」


 こうしてレイスは新たに二人の仲間を加え、キャロラインを含むと8人という大所帯のチームとなった。




※※※




「おおおぉっ! 間違いなく上級クリアランスのカードキーです!」


「ったりまえだ、苦労して取って来たんだぞ」


 キャロラインはジェイスのカードキーを見て、先ほどまでの悲痛な表情が嘘のように明るくなった。


「それで、上層に行く隔壁はどこにありますか? キャロラインさん」


「は、はい! すぐ案内しますレイスさん!」


 レイス達はキャロラインの道案内に従いながら一階層のフロアを進む。

 何か使える物がないか要所で確認したものの、目ぼしいアイテムは見つけられなかった。


 上の階層に期待しようとジェイスとシェルは顔を見合わせていた。

 フロアの中央に差し掛かったくらいに来ると、巨大なエレベーターが目の前に現れた。


「これが階層移動に使うエレベーターです」


「なるほど、一気に【レベル.5】まで上がれたりは?」


「もちろん出来ます。 そのための(ブルー)ランクですから!」


 キャロラインはさっそくカードキーをパネルに差し込むと、端末の蛍光灯が赤から緑へと変わった。

 ゴウンッと重厚な金属音がすると、エレベーターの扉がゆっくりと横へと開いた。


「さぁ! どうぞ皆さん!」


 キャロラインは嬉しそうにバッ!と手を広げて見せる。

 レイス達は顔を見合わせしばし逡巡した。誰も口に出さなかったが、全員がきっと同じことを思っていただろう。


 ―――なんか嫌な予感がする、と。


「……よし、行くぜレイス」


「そうだなリザ。 立ち止まってても仕方ない」


 意を決してエレベーターに乗り込む。

 ゆるゆるとした足取りで、アルミアやキョウカ、ユージーンも続いた。


「チッ、階段じゃなくてエレベーターとか知らねぇパターンだぞ……マジかよ」


「ぼやかない、ぼやかない。 私は逆にたのしくなってきたわ!」


 兄妹の二人も、互い違いな感想を抱きながらエレベーターに乗った。

 全員が乗ったことを確認すると、キャロラインは箱の中側の端末にまたカードキーを入れて、ボタンを押した。

 向かう先は一気に【レベル.5】だ。


 すぐに鉄扉は閉まり、重力がじんわりと掛かる浮遊感が来る。

 上に向かって移動しているのは間違いない。

 文字盤の数字がチカチカと形を変える様子を全員が無言で眺める。


 このまま無事にいけるかとレイスが思った刹那―――ゴオンッ!!と大きな振動がエレベーターを襲った。


「うお!?」


「な、なんだ!? 地震か!?」


 戸惑う一行が乗るエレベーターは緩やかにその動きを止めた。

 皆一様に何かを察し、扉の方へと銃口を構える。

 舌が渇くような緊張感の中、次の動きを待った。


 やがてまた、エレベーターの鉄扉が横へと開いた。

 もちろん目当ての【レベル.5】の階層ではない。それどころか……。


「おい……ここどこだよ」


 ジェイスが呟く通り、目の前に広がっていたのは―――赤錆びた鉄と湿り気で満ちた、変わり果てた廃墟のような階層だった。


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