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『オブジェクトナンバー“0021”・7』

 出迎えたのはやはり、不満顔全開のジェイスとほっとした様子のシェルだった。


「二人とも、どうしてここに……?」


 もっともな疑問をレイスは投げかけた。


「フンッ、たまたまだっつの。 ったく、放っておけと言ったのにコイツは……」


「いいでしょ別に!! 競争してるわけじゃないんだから!!」


 確かに、このステージは生きて出る事が勝利条件だ。競争という競争は別にルールにはない。

 あくまで気持ちの問題程度だろう。


「まぁ、そっちの研究者はなんか有用そうだしなぁ……。 おい、初見ども。 あの≪ウールガイ≫を仕留めるから手ぇ貸しやがれ」


「だから言い方!!」


 一向に態度を変えないジェイスにシェルが怒る。

 このやり取りがデフォルトなのだろうなとだんだんわかってきたレイスはもう口を挟まなかった。

 むしろさっさとその≪ウールガイ≫を仕留める作戦を教えてほしかった。


「とりあえず足が速い奴は囮な、銃持ってる奴は俺についてこい」


「いやもう少し具体的に……」


「急げよ? もう来るぞ!」


 ジェイスが指さした先を見ると、二体の≪ウールガイ≫が融合して一体に戻るところだった。

 恐らく顔と思われる部分がカクカクと不自然に揺らぎながら、じろりとこちらに視線を合わせてきた。

 目はもちろんないのだが、そう感じた。


 ヤバイな、と全員が直感する。


「キョウカ! リザ! 囮を頼む! ユージーンさんとアルミアさんはジェイスに! キャロラインさんは俺が!」


「「「了解!」」」


 レイスの素早い指示で一斉にチームは動き出す。


 キョウカは早速、廊下の脇にあった消火器を手に取るとグルンと遠心力をかけて≪ウールガイ≫へぶん投げた。金属の塊をぶつけられ、痛そうに怯んだ所に、続くリザが単発射撃を浴びせかける。


「来やがれ毛玉野郎!!」


「そーらこっちっすよー!!」


 元気のいい少女二人の挑発を耳にしながら、レイス達とジェイスは廊下を走る。


「どこに行くんだ!?」


「お目当ての部屋だ。 そこでトドメ」


「前は失敗したけど、この人数なら大丈夫よ」


 それはいらない情報だとレイスは苦い顔でシェルを見た。当の本人はどこ吹く風だったが。

 角を一つ二つ駆け抜け、実験室のような部屋の前まで来た。

 両開きのドアをジェイスが蹴り開け、雪崩れ込むように突入する。


 中は薬品棚と実験机、そしてよくわからない器具があちこち置いてあるような場所だった。

 そして中央にはまた別の部屋があり、こちらからガラス越しに見ることが出来る。

 見た目の予想だが、危険な薬物やウィルスを調べるために使う防護室のようにレイスは感じた。


 ジェイスは入ると同時に真っすぐ歩いて、防護室へ続く重厚な鉄扉の前まで来た。

 横のパネルのスイッチを押すと、扉はゆっくりと上にせり上がるように開いていく。


「よし、電気は問題ねぇか。 運が良かったな」


「ここ予備電力が入ってない時もあるしね」


 どんどんさらっと恐ろしい情報を出してきてくれる。

 

「それで? この部屋でどうするんだ?」


「見りゃわかんだろうが。 囮がこの防護室に誘導して、銃で足止め。 扉を閉めて閉じ込める」


 ガコンと、今やっと開き切った鉄扉を見上げてレイス達は眉をひそめる。


「え……、そ、それだけなの?」


「あいつら身体をバラして隙間から出てきますよ~? 意味ないんですけど~」


 そう、鍵をかけてもあいつは扉を通り抜けてくる。

 封鎖という封鎖は意味を成さないのだ。


「ハッ、これだから初見は。 まぁ、今に分かる」


 ジェイスが凄惨な笑みを浮かべると同時に、部屋に来るための廊下の方から銃声と怒号が響いた。


「おい! もうそっち行っていいか!! 弾が切れそうだ!」


 リザの必死な声を聞き、レイスはジェイスを見ると彼は頷いた。


「いいぞリザ!! キョウカも連れて急いで来い!!」


「よっしゃぁ!!」


 二人と≪ウールガイ≫はすぐに姿を現した。

 転がるように全力疾走してくるリザとキョウカの後ろからは、四つん這いの姿勢でクモのように這ってくる赤糸の化け物。二足歩行の時よりずっと早い。


「ヒッ!」


 悲鳴を漏らすキャロラインと同じく、ユージーンやレイスも息を呑んだ。

 遊びなしの本気で殺しに来ている。よほど二人の挑発が効いたらしい。


「いいか、逃げる奴は先に反対側の扉から防護室を出ろ。 足止め役は残って攻撃。 んでその間に扉を閉めにかかるから、上手く逃げろよ?」


 ジェイスは事もなげに言ってのけるが、当の攻撃役のユージーンは「え?」という表情を浮かべていた。アルミアもいつも通りのニコニコ顔が一瞬、固まった。


「キャロラインさんは先に!」


「は、はい!」


 レイスがキャロラインを部屋の外へ連れ出すと同時に、キョウカとリザが防護部屋に飛び込んで来た。


「撃てッ!!」


 ジェイスの有無を言わさぬ指示が飛ぶ。

 レイスが振り返る頃には防護室から重なる銃声がいくつも鳴り響いた。

 ショットガンのコッキングで排出された薬莢が床を叩き、G11の銃口から繰り返し閃光が瞬く。


「おじさま! 腕と足を狙って!」


「わ、わかったよアルミアちゃん!」


 それぞれが綺麗に攻撃個所を撃ち分け、四つ足で動く≪ウールガイ≫の体勢を崩して見せる。

 キョウカとリザが部屋から出たのを見送ると、ジェイスはシェルも外に押しやり鉄扉のスイッチを叩いた。

 警報音と共に、徐々に上がった扉が下降を始める。


「撃ち続けろ!! 外に逃がすな!!」


 そうジェイスが叫ぶ。

 頭のいい赤糸の化け物は、自分が閉じ込められようとしていることを素早く察知した。

 踵返して入って来た扉から逃げようとするところにアルミアが滑り込む。


「通行止め、で~すッ!!」


 腰だめからの連続二連射が踏み込んでいる片手を吹っ飛ばして≪ウールガイ≫を転倒させる。


「こ、これもどうだ!!」


 続くユージーンは薬品棚を掴むと、転んだ≪ウールガイ≫の上へと引き倒した。

 それなりの重量を持った質量物に押さえつけられ、≪ウールガイ≫はジタバタと赤い糸を触手のように振り回す。

 もうそろそろ出ないと危ないと判断したユージーンはG11の銃口を向けながら、下がる鉄扉の下をしゃがんで通り抜けた。


「アルミアちゃん! もう出た方がいい!」


「了解で~す」


 的確なタイミングだとアルミアも判断し、身を翻して鉄扉へ向かう。

 半分を越えて狭くなった隙間に、持っていたKSGを投げ込み、自身はフッと身体を落として勢いよくスライディングしてすり抜けた。


 鉄扉が閉まり、防護室は完全に密閉される。

 棚を引きずり倒し、起き上がった≪ウールガイ≫は怒りに打ち震えるように触手を激しく蠢かせた。

 それをガラス越しに眺めるジェイスは口の端を吊り上げながら眺め―――スイッチを入れた。


『滅菌プロセスを開始いたします』


 簡素なアナウンスが流れると同時に、防護室が火炎で満たされた。

 

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