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『オブジェクトナンバー“0021”・5』

 キャロラインのナビに従いながら廊下を曲がり、部屋を通り抜けながらひた走る。

 姿こそ見えないが≪ウールガイ≫が追いかけてきているのは間違いないので、ゆっくりものんびりもしていられない。

 ようやく目当ての階段を見つけ、レイス達は【レベル.1】の一階層へとたどり着いた。


 電気設備が故障しているのか、この階層は全体的に明かりが乏しく薄暗かった。

 キャロラインは予備電源が必要最低限の出力で稼働している状態だと言った。


「だ、大丈夫なのキャロラインちゃん……?」


 電線が脅かすようにショートして火花を散らす荒れた廊下にビビりながらユージーンは質問する。


「あはは……たぶんもうこの施設で大丈夫な場所なんてどこにもないと思います……」


 大変にごもっとも。

 現在進行形で毛糸の化物にストーカーされてるし。


「それでセキュリティルームは?」


「この先です、付いて来て下さい」


 キャロラインの先導に全員で付いていく。

 この階層はいかにも研究所然とした部屋ばかりだ。窓から覗く部屋にはどこも試験管やビーカーを含む実験器具がズラリと並んでいる。怪しげに青紫に光る紫外線ライトや、いかにも無菌室と言えそうな小部屋まで完備されている。

 どこもかしこも人はおらず、台風が通った後のようにボロボロになっている以外は上等な設備だろう。


 ここがいちおう【レベル.1】セクションの最終防衛ラインだとは思うんだが、あっさりやられたか早々に逃げ出したのだろう。


「他の掃除人(スイーパー)の人達もぜんぜん見かけないっすね」


「そうだな。 何気に階層一つがけっこう広いからな」


 あるいは歩き回っているオブジェクトに殺されたか……。

 今まで遭遇した二体ですらかなり初見殺し感が強い。他にもその手の特性を持った奴らがいない訳がないし、ジェイスが事前情報必須と言ったのもわかる気がする。


「ここです。 今、ロックを外しますね」


 セキュリティルームと英語で書かれた扉の前に立ち、キャロラインは横の電子パネル指で叩いた。

 なるほどパスコード式か。キャロラインがいなくても、どこかでコードを入手できれば入れるようになるのだろう。

 うん、それを踏まえればかなり運がいい立ち回りが出来ているな。後が怖いけど。


 ガシャンとまた聞きなれた解除音をさせてランプが緑に変わる。

 上手く鍵を開けられたようだ。


「どうぞ」


「サンキューなキャロライン! これでお前のこともちゃんと守ってやれるぜ」


「!! はい、ありがとうございます。 リザさん」


 リザの自信ある笑みに、彼女も微笑む様子が見て取れた。

 キャロラインも少しづつ余裕を取り戻してきたようだ。


 さて、部屋の中はまず監視カメラの映像が映るテレビが何台も並んだ監視室になっていた。

 予備電源の最中でも、ちゃんとまだ動いている。ただいくつかの画面には≪応答なし≫と真っ黒な背景にその緑字だけ浮かんでいるだけものもあった。

 オブジェクトにカメラが破壊されでもしたのだろう。


「俺はここでキャロラインさんと少し状況を調べてみる。 装備の方は任せていいか?」


 レイスはキャロラインを呼びながらオフィスチェアに腰掛け、監視カメラを操作するパネルに手をかけた。


「おうよ。 使う獲物はこっちで選んでいいんだよな?」


「ああ、リザの目利きなら間違いないだろう。 頼んだ」


 それを聞いたリザは、どんなイタズラを仕掛けてやろうかというご機嫌な表情になった。


「オッケー。 アルミア、とっておきの奴を選んでやろうぜ!」


「はいです~」


「普通のでいいから!! 普通のでお願いしますッ!!」


 叫ぶレイスの声も虚しく、リザ達は奥の倉庫へとさっさと向かった。

 略奪防止のために掛っていた南京錠をVP70で吹き飛ばしてこじ開け、横開きの扉を一気にスライドさせる。


 ユージーンが傍らのレバーを押し上げると、バンッ!と明るい電灯が倉庫の中を照らした。


「……ちょっと小ざっぱりしてんな」


「非常事態だし、そりゃあ警備隊の人達がもっていく……よね」


 ユージーンの言う通り、倉庫の中のラックや棚からは置いてあったであろう武器類のほとんどが無くなっていた。


「ま、なんかは残ってんだろ。 探すだけ探すぞ」


「了解~」


 リザはめげる事無くロッカーに向かって行った。

 それに習ってキョウカとアルミア、ユージーンも物色に取り掛かる。


 一行は使えそうな物を次々と持ち出しては、中央の机の上に並べいった。

 幸い、長物の銃器は数丁残っており弾も調達が出来た。何より弾倉ポーチやホルスターといった持ち運びの要となる軍系装備が手に入ったのが大きかった。


 アルミアはツナギ姿から、下に着ていたチューブトップとロッカーから見つけた短パンを組み合わせた軽装に切り替え、チェストリグと膝や肘をカバーするサポーターを身に付けた。

 キョウカはツナギの上だけ脱いで腰元で括り、肩から腕の機動力を重視した黒のタンクトップと警備隊が使っていたであろう滑り止めグローブをはめる。

 ユージーンは警備隊の黒一色のアーミー服と、ガッシリしたボディアーマーにヘルメットを装着し、全身くまなく防御力を整えた。

 リザはポケットの多いミリタリージャケットを羽織り、何故かロッカーに入っていた女性用の白シャツとバトルスカートと黒ストッキングの格好に変えた。

 セキュリティルームの、しかも恐らく男性隊員のロッカーになんでこれが入っていたかは謎である。


「うし、こんなもんか」


 キュッと太ももにホルスターを結び終え、リザは急ごしらえの自分の武装を見下ろした。

 やはりツナギとは動き易さもそうだが、安心感がまるで違う。


 改めて机に置かれた自分の武器も確認する。

 リザが選んだのは、ヘッケラー&コッホ社でお馴染みのMP5をよりコンパクトに仕上げた【MP5クルツ】というサブマシンガンだ。三十発入りの長い弾倉を差してあり、瞬間火力は他の比ではない。

 ただし予備弾は十分ではあるが多くは無い程度なので、過信は禁物だと自分に言い聞かせる。


 視線を上げてアルミアの方を見る。

 彼女が現在進行形で散弾を込めているのは、アメリカのケル・テックCNC社が開発した【KSG】と呼ばれるブルパップ式散弾銃だ。

 近未来的な独特のフォルムを持ち、二つのチューブ型弾倉を使用する事でコンパクトな見た目でありながら十五発近くの装弾数を実現している。


 隣のキョウカが振り回して具合を確かめているのは二本の特殊警棒だ。

 刀剣を持っていた時の型とはまた別で、フィリピン武術の“カリ”に見られる双短棍術(ドブレ・バストン)の激しい打突を繰り出しながら攻撃のイメージを固めていた。

 怪物相手にどこまで戦えるかはわからないが、堂に入った頼もしさがある。


 ユージーンが渋い顔をしながら何度も照準を合わせて調整しているのは、同じくヘッケラー&コッホ社の【G11】というアサルトライフルだった。

 世にも珍しい無薬莢(ケースレス)弾を用いた銃だが、あまりにも構造が奇抜で汎用性が無かったために少数配備されるだけで終わった不遇な代物だ。外観も縦長の箱にグリップとトリガーをくっつけただけという、見ようによっては未来的と言えなくもない姿をしている。

 三点バーストによる射撃スピードが速く集弾性が高いため、攻撃力そのものは優秀だ。


「戻ったぞ、そっちはどうだ?」


 レイスがキャロラインを伴って倉庫にやって来た。

 全員の格好をぐるりと見て、レイスは答えるまでも無いかと頷く。


「レイスのはこれだ、使ってくれ」


 リザが机に置かれた荷物をバシバシと叩く。

 レイスはその傍まで行き、中身を確認した。


「大きめのリュックサックに、緊急スプレーとファーストエイド、ん? なんだこれ? 動体探知機? へぇ、こんなツールがあるのか」


 手に持てるくらいのコンパクトなサイズだった。

 起動すると小さな画面に半円状のレーダーが表示された。どうやったらこの一定範囲内で動くものがあれば感知してくれるらしい。


「それで武器は……、武器?」


「おう! 立派な武器だろ?」


 レイスが何とも言えない表情で持ち上げたのは、大型のボンベが付いた【釘打ち機】だった。

 言うまでも無く、本来は釘をガスで発射して木に打ち付ける工具だ。


「……釘は二十五本装填、弾倉は四つ」


 試しにと壁に向かってバス!バス!バス!と撃ち込んでみたが、けっこうな威力で突き刺さったのがわかった。射程距離こそ長くは無いが、そこそこ連射が効く上にガス欠しない仕様のようだ。

 あれ、これけっこう強いな?


「レイスの方はどうだったんだよ? 監視カメラに何か映ったか?」


「ん? ああ、そうだな。 とりあえず―――」


 40人近くいた掃除人(スイーパー)が、今では18人くらいまで減っていることをレイスは伝えた。


「……マジかよ」


「オブジェクトにやられたのもそうだが、武器装備をめぐって殺し合いに発展した様子があった。 なんともコメントのしようがない」


「うっへぇ、なんでそう映画とかなら真っ先に死ぬムーヴやるっすかねぇ……」


 協力すればまだ打開策もあっただろうに。

 戦闘で疲弊した所をオブジェクトに襲われるなんて場面も、画面には映し出されていたとレイスは言う。


「脱走しているオブジェクトも見た数だけで9種はいました。 基本的には三階層と二階層を巡回していましたが、ここまで上がって来るのも時間の問題だと思います」


 レイスに次いで、キャロラインがそう報告する。

 しかも、歩き回っているオブジェクトのどれもが不気味で怪物的だった。

 簡単に倒せそうなのがまったくいない。


「……えっと、それで? どうするんだいレイス君?」


「監視カメラには上級クリアランスの職員は見受けられなかったので、足で探すしかないですね。 まずはこの一階層を手分けして探索して……」


 そうレイスが提案した所で―――スイッチを入れっぱなしにしていた動体探知機が『ピピッ、ピピッ』と何かを捉えた。


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