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『オブジェクトナンバー“0021”・2』

 兵士に促されて赤いツナギ姿のプレイヤー達が続々と大扉を通る。

 レイス達もそれにならって後に続いた。


 扉の先は広々とした真っ白な床に、鏡がぐるりと囲む異質な空間だった。

 恐らくはマジックミラーだろう。実験とアナウンスが称す通り、あの鏡の向こうにはゲージのモルモットを眺めるように研究員たちが佇んでいるはずだ。たぶん。


「何が起こるんだこれから……」


 思わず呟くと、前にいた金髪に赤のメッシュが入ったアバターの青年が振り返って来た。

 子供が泣くレベルの怖い顔に加えてどうにも苛立たしげな表情だ。はて、自分は何か気に障る事でも言ったかとレイスは首をかしげる。


「お前、事前情報なしで来てんのかよ雑魚か? 『オブジェクトナンバー“0021”』は予習必須だろうが。 勝手に死ぬのはいいけどマジ余計な事すんなよ? これ、ミス一発で即死系のステージだから。 足引っ張ったら殺すからな」


 どうにもそういう事らしい。

 よほど難易度が高いんだろうな、このステージ。


「ちょっと、やめなさいよジェイス。 マナー悪いわよ!」


 金髪メッシュの青年、ジェイスに食って掛かったのは同じく金髪だがこっちには青のメッシュが入ったサイドテールの女の子だった。

 どことなくジェイスと似た顔立ちをしている気がする。こっちは怖いというより鋭い印象があるくらいだが。


「るせえな、シェル。 黙ってろ! 俺はこういうゲームに真剣じゃねえ奴が一番嫌いなんだよ!」


「だからって見ず知らずの人に喧嘩吹っかけないで!」


 シェルとジェイスか。名前までちょっと似てるな、覚えておこう。

 ジェイスの矛先がシェルに移ったこともあって口を挟むタイミングを失ってしまったレイスは、ひとまず黙ったままスルーした。

 もちろん、反撃に食って掛かろうとしていた隣のリザをなだめつつだ。


「ん?」


 ビーッ!と再びブザー音と回転灯が乱舞すると共に背後の大扉が閉まっていく。

 いよいよかとレイスは身構えた。ざわざわと雑談を交わしていたプレイヤー達も、喧嘩をしていたジェイスとシェルを含めて一様に押し黙る。


 ガシャンと照明が落ちた。

 薄暗くなった実験室には一灯だけ明かりが残される。レイス達がいる入口辺りからちょうど真反対の一番端の位置だ。まるでスポットライトのように円錐状に形作られる光の舞台に―――たしっ、と長い足が現れた。


 ソレの全長は目測で約三メートル。


 異常に長い手足を持つ、やせぎすなシルエットの人型実体だ。

 隙間なくピッチリと身体に張り付くように着込まれた真っ黒なビジネススーツが、普通ではないのに普通のフリをしようとしているようで気味が悪い。顔にはこれも形がハッキリとわかるくらい肌に吸い付いた白い覆面を被っており、目と鼻と口元と思われる箇所にはロールシャッハテストで見る左右対称に墨をぶちまけた染みのようなデザインが施されている。


 それが耳元まで吊り上るような笑顔に見えて、レイスは嫌な気分になった。


「……ス、『スレンダーマン』なのか?」


 リザが遠くの怪物を驚いた目で見つめながら呟いた。


「チッ、てめぇも初見かよ……。 似てるけどこの0021は別物だ。 こんだけ離れてりゃまだ問題ねぇが、ハッキリ見るんじゃねぇぞ? ルールその1“顔を直視するな”だ」


 ジェイスが小声でリザの呟きを訂正してきた。あ、これが件の0021なのか。

 こいつ言動の割りに面倒見がいいぞ。


「黙って待ってろ、すぐにイベントが……」


 刹那―――0021の姿が明かりの下から消えた。


「なっ!?」


「シッ、落ち着け」


 直後に悲鳴と発砲音が響き渡った。

 俄かに切れていたはずの部屋の照明も明滅しだし、混乱の渦が波及するようにプレイヤー達にも襲い掛かる。その心理にトドメを刺すように激しい警告音とアナウンスが喚き立てた。


≪警告! 警告! 危険度の高いオブジェクトによる深刻な収容違反が発生! 職員はすぐに避難してください! 繰り返します! 危険度の高いオブジェクトによる深刻な―――≫


 ガッシャアアアンッ!!とマジックミラーを突き破って、白衣の男が部屋に転がり込んできた。

 血まみれの様子から既に事切れているのは明白だ。唐突な死人の姿にプレイヤー達の間で驚きと恐怖の声が上がる。

 鏡の向こうの空間ではいまだ激しい戦闘音と耳をつんざくような叫声がいくつも続いている。

 まさに大混乱だ。


「さっきの奴が部屋から逃げたのか……!? でもなんで」


「ルールその2を破ったからだろうよ。 んじゃ、もう会わねえだろうけどせいぜい頑張れよ」


 ルール2とは?とレイスが問いかける前に、ジェイスは落ち着いた様子で白衣の男が突き破ってきたマジックミラーの穴を通って出ていった。こちらを一瞥してシェルもジェイスの後に続いていく。


「おい、レイス!」


「ああ、俺達も行こう。 キョウカ! アルミアさん! ユージーンさん!」


 鳴り止まない警報にワクワクしている二名と戸惑っている一名を呼ぶ。

 レイスの声と付いて来いというハンドサインを見て、三人はすぐさま集まって来た。


「先輩! 先輩! これ何が起こってるんすか!?」


「ニッコニコで言うな! たぶん事故で施設が混乱している状況なんだろう」


「なるほど~、つまり脱獄チャンスですね~?」


 話が早くて何よりですアルミアさん。


「いやいやいや、でもおじさん達なにも武器を持ってないんだよ!? この状況で大丈夫!?」


「ええ、ですので当面の目的は奪われた装備を探しつつ、脱出を目指すことになるでしょうね。 ともかくここから出ましょう」


 丸腰&ノーアイテム。さっきの0021に襲われようものなら一発でお陀仏は間違いない。

 なので何でもいいので武器と装備をとにかく探さなくては。


 レイス達はジェイスに倣ってマジックミラーの向こう側の部屋に降り立った。

 そこは見るからに研究施設といった白の壁紙によくわからない機器やパソコンが明滅する監視室だった。ただし、粉砕された機械が火花を上げていたり、血糊があちこちに飛び散っていたりと凄惨な様相を呈している。

 化物が通った後という言葉が相応しい光景だった。


 何か使える物が無いか探そうとしたレイスだったが「おい! 待て! 独り占めすんな!」「通して! 私が先よ!」とやかましい声が後方から聞こえてきた。残っていたプレイヤー達もここが出口だと気づいたのだろう、数十人の赤いツナギの面々が殺到してきている。


 ここで協力してもいいが、この人数に行き渡る武器装備なんて到底望めないはずだ。

 レイスは考えを切り替え、チームに声をかけた。


「ここはいい、先に進もう」


「え、いいのかよ? まだ何かあるかもしんねぇだろ?」


「後続とトラブルになったら面倒だ。 それにまだ手を付けられてない部屋を探した方が建設的だろう」


 命が道具一つで左右されるサバイバルゲーム。それこそがこのステージの本質だ。

 ならば余計な恨みを買うのは絶対的に不利。今は多少のリスクを背負ってでも先に進んだ方がいい。


 まぁ、ぶっちゃけどこに進んでいいかも現状はサッパリわからないんだけど。


「お、先輩! こっち廊下っすよ!」


「でかしたキョウカ」


 動物的なカンを発揮したキョウカがロックの掛かっていない扉を発見した。

 さっそく行ってみると、これまた目が痛くなるような白一色の廊下だった。

 どうしてこう、秘密機関の施設は白にしたがるのか。


「っし。 何が起こるかわからねぇ、みんな気を付けて進めよ。 ここは荒野のウェスタンだぜ」


 リザのドヤ顔でしまらない宣言をする。

 何はともあれ、ゲームスタートだ。


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