『オブジェクトナンバー“0021”・1』
―――『オブジェクトナンバー“0021”』
とある秘密施設へ潜入調査を行う今回のステージは、かなり報酬が良かった。
あれからいくつかのステージもこなして自信を付けた『パラベラム・バレット』は、もう一段階上の装備を求めて金策をしている真っ最中だった。
そんな中で、キョウカが見つけてきたのがその依頼だ。
世に蔓延る超常存在を収容して研究を行い、人類の平和を守ると共に危機を救う秘密機関“アルファ”。
その基地へと潜入し、タイトルにもある『オブジェクトナンバー“0021”』の資料を奪取するのが目的となる。
思い返せば、報酬の良さと任務内容のシンプルさを疑って掛かるべきだった。
秘密機関アルファに先んじて潜入していた工作員に手引きして貰うために、寂れた港へと向かった『パラベラム・バレット』の面々を待っていたのは―――大人数の特殊部隊と、自分達へと向けられた銃口の数々だった。
どういうことだ!?と驚く自分達に、合流するはずだった工作員は不敵にこう言った。
「騙して悪いが、こっちも仕事なんでね?」
レイスは装備を奪われ、拘束される最中で一つ教訓を学んだ。
“やたら割りのいい仕事は、絶対に受けるな”だ。
※※※
「うおぉおおおッ!! 出せー! 出しやがれっすーッ!!!」
ガンガンガン!!と金属を叩く音と嫌に元気な女の子の声を耳にしながら、レイスはゆっくりと意識を浮上させた。
はて、拘束されてから一体何が……。
「あ、レイス君も起きたんだね?」
ユージーンがなんとも言えない微妙な笑みを浮かべながら三角座りをしていた。
「……ここは、どこですか? あれから何が?」
少し広めの部屋である事はすぐにわかった。
しかし、部屋というにはあまりに簡素な造りだ。打ちっ放しのコンクリート壁でぐるりと囲まれた光景は身体に刺さるような冷たさを覚える。比喩もへったくれもなく、独房そのままだ。
「わかんねぇ。 あたしらも気が付いたらこの部屋だった。 装備も銃も根こそぎ持ってかれたぜ、クソが」
「リザ……」
寝転がった姿勢で不満タラタラな表情をしている我らがリーダー。
その姿は何故か、深い赤色のつなぎ……言わば作業員が着るような格好になっていた。
見下ろせばレイスも同じような服装になっているし、ユージーンや開かない鉄扉を叩いているキョウカ、いまだ鼻ちょうちんを浮かべながら爆睡しているアルミアも例外なく同じだった。
レイスは自分の身体を探って何か持ち物がないか確認したが、まったくの丸腰である事がわかっただけだった。
「あはは……。 完全に捕まっちゃったよねぇ、これ」
「そうですね……」
レイスは胡坐をかきながら状況を考察する。
拘束してきた特殊部隊の連中は、騙してきたあのNPCと同じく秘密機関アルファが抱えるチームだろう。あの依頼も自分たちを誘い込む餌だったのは明白だ。
こっそりとオプションで受領中の依頼内容を再確認してみると、達成目標が“調査”から“脱出”に変わっていた。本当にやってくれるな、この黒幕は。
「ひとまずは状況が動くまで待機か……、そろそろアルミアさんも起こした方がいいんじゃないか?」
「いや、起きねぇんだよアルミア」
リザがアルミアの肩を揺するが頭をがっくんがっくんさせるだけで起きる様子はまったくない。
「寝つき最強勢かよ」
システム上どうなってるのかまったくわからないが、現実でも彼女はこんな感じなのだろうなとレイスは思った。
「くっそー! ビクともしねーっすッ! いつもならドアの金具くらいパンチ一発で壊せるんすけど」
「それはそれで問題だよ」
人類として割とあってはならない挙動だぞキョウカ。キックですらないし。
「外は普通に廊下ーって感じだったっすね。 同じドアがいくつも並んでたんで、ウチらみたいにとっ捕まってる人が他にもいるんじゃないんすかね?」
「いよいよもって牢屋か……」
しばし無言のまま、アルミアを除く四人は開かない鉄扉を眺める。
念のため自分も外を見ておこうかと、扉に唯一開いたのぞき穴にレイスが向かおうとした所で、ビーッ!というけたたましい警報音が鳴った。
「な、なんだ!?」
思わず立ち止まると、廊下のスピーカーからかアナウンスが流れ出した。
『IRクラスのスタッフは直ちに起立してください。 まもなく実験を開始致します。 職員の指示に従い、迅速に行動してください。 繰り返します―――IRクラスのスタッフは直ちに』
「……IRクラス?」
「もしかしなくてもあたしらのことじゃねーの?」
この独房に放送されているなら恐らくそうだろう。
クラスとか、職員とか、実験とか、嫌な予感がする単語のオンパレードにレイスは息を呑んだ。
「ふわ~、やかましいですね~……なんれすか~?」
アルミアもようやく起きた様子だ。
説明はユージーンに任せて、レイスは徐々に人の足音や声が聞こえ出した扉の方を注視した。
キョウカやリザも、レイスと同じように身構える。
やがてガシャン!と太い金属のバーがスライドし、扉のロックが外れた。
重厚な鉄扉が開いた先に立っていたのは、例の特殊部隊の人間だ。
黒のミリタリースーツに関節や急所を覆うボディアーマー、目だし帽をかぶって暗視ゴーグルがついたヘルメットをかぶっている。
手にはアサルトライフルを握り、銃口こそ向けては来ないもののトリガーには指を掛けていた。
「出ろ」
有無を言わせぬ迫力があった。
こちらとしても従うしかない。
リザを先頭に、レイス達は独房から廊下に出る。
そこには同じく特殊部隊のチームが並び、加えて深い赤色の作業着の人間が複数人居た。
反応を鑑みるに、自分達と同じプレイヤーだろう。いずれも不安そうな表情を浮かべている。
「IRクラス、全員二列に並べ」
左右から監視される中で、ゆるゆるとプレイヤー達は列を作っていく。
まるで囚人を扱うような粗雑さだ。
レイスはざっと自分たちを含むIRクラスの人数を数えた。
おおよそ30名から40名程度だろうか?一ステージに参加する数としてはかなり多いように思う。
「歩け」
短い命令に不満はあったが、抵抗すれば即座に撃たれるだろう。
言葉を交わさなくとも危機的状況である事は全員がわかっていた。そのまま作業着の集団は先導されるままに廊下を進んでいく。
いくつかの鉄格子の扉と監視所を抜け、少し綺麗なホールへと出た。
ただし、上のキャットウォークのような場所にはやはり特殊部隊の格好をした兵士が見回っている。
さながら、実験場のような場所だなとレイスは考えた。
その予想を裏付けるように、黄色と黒の警告色で縁取られた大きな扉が見えてきた。
先導する兵士の合図で赤色の回転灯が光り、ブザー音が何度も響き渡る。
「……ああ、嫌な予感がする」
一度、閉じたらそう簡単には開かないとわかるシェルターのような大扉が口を開けた。
レイスはもう腹を括るしかなかった。




