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『プロジェクトアーカム・終幕』

「あー、疲れた……」


 ぐったりと【ARTEMIS(アルテミス)】のカウンターに身を投げ出したレイスが魂が抜けるように呟いた。


 ゲリライベントの『プロジェクトアーカム』は、多少の混乱はあったものの蓋を開けてみれば掃除人(スイーパー)サイドの大勝利に終わった。

 貢献度ポイントに関しても、弱体化したクトゥルフにダメージを与えれば与えるほど大量得点が加算されるボーナスタイムのおかげで、収支はむしろプラスになったプレイヤーが多かったらしい。

 皆、ホクホク顔でランキング報酬の話に花を咲かせていた。


「ずいぶんとまぁ、大活躍だったみたいにゃあレっちゃん? 生配信の反響すごかったにゃ」


「ええ、まぁ、おかげさまで……」


 チェシャのなんとも言えない笑みにレイスも苦笑いで応える。


 むしろ反響がありすぎた(・・・・・)

 このイベント中、一人のオッサンを中心に巻き起こった一つの戦いは『パラベラム・バレット』の名をさらに広めるには十分すぎるエンターテイメントぶりだった。

 あろうことかムーちゃんまで敵役(ヴィラン)として大ウケしてしまい、その悪党ぶりに惚れ込んだ人々からフレンド登録依頼が殺到したらしい。

 彼女は『星光の円卓(ライト・オブ・ラウンズ)』を解散して、新たに『暗黒の円卓(ダーク・オブ・ラウンズ)』を新生するそうだ。

 転んでもただでは起きないとはこの事だろう。


「なんかイーサンさんの所もすごかったみたいですね。 あれも運営側は想定してたんですか?」


 なんとあの人、ショゴス・ロードを持ち帰ったそうなのだ。

 普段は拠点で会話できるNPC(コンパニオン)として活動し、必要であればイベント中に見せた【ショゴスーツ】モードで一緒に攻略が出来るようになったとか。

 自動攻撃&自動防御、物理攻撃をほぼ無効化する耐久性能に、三次元戦闘も可能な触手移動を兼ね備えるスーパースーツだ。

 その見た目からイーサンには新たにアメコミヒーローの称号が増えた。


「いんにゃ? あんまりにあのショゴス・ロードとイーサンの関係を引き離すのが忍びにゃいと叫んだプログラマー集団がリアルタイム更新しながら死ぬ気で作り上げたにゃ」


「化物ですかそのプログラマー達」


 あのスーツ形態やらなんやらのプログラムを、ものの数時間で仕上げたのかよ。


「まーまー、出来ちゃったんにゃから今さら言う事ないにゃ。 それよりも先にこっちのお祝いにゃ!」


「お祝い……」


 フイッと後ろのテーブル席を見るレイス。

 そこでは新たに【ARTEMIS(アルテミス)】に出入りする事になった壮年のオッサン。

 ユージーンが盛り上がる三人娘を相手に四苦八苦していた。


「やっぱオッサンはスナイパーに向いてるぜ! 次は10km狙撃だな!!」


「そうですね~。 一度、ガンディーラーに一から調整してもらった方がいいかもしれません~。 あ、対戦車ライフルとか興味ないですか~?」


「ユーおじさん! ヘリとかジェット機とか操縦出来ないっすか!? ビークル役とか絶対カッコイイっすよ!!」


「あ、ああうん……えっと……そうだね?」


 助けて、とユージーンが目で訴えてくる。

 第三者視点で見れば革ジャンの厳ついグラサンが女子三人を侍らせてる姿なのだが、委縮しまくってるユージーンではいまいち迫力が無い。

 そろそろ助け舟を出すかとレイスは飲み物を取ってテーブル席へと移った。


「はいはい落ち着け落ち着け、ユージーンさんが困ってるだろう?」


 軽く指摘してやると三人娘は顔を見合わせ、肩を竦めながら離れた。

 ようやく安堵したユージーンは、お茶を口に入れて気持ちを整える。


「―――今日は本当にありがとう皆。 助けてもらっただけじゃなくて、すごく楽しい時間まで過ごさせてもらった。 感謝の言葉しかないよ」


 大人らしく、様になったお辞儀をするユージーン。


「それで……よければなんだけど……」


「もちろんだぜ。 もうこの五人で『パラベラム・バレット』だ。 異論は認めねえぞ?」


 リザが先回りしてユージーンの申し出に答える。

 顔を思わずあげたユージーンは、くしゃっとした喜びにの笑みを浮かべた。

 アルミアもキョウカも、そしてレイスも反論なんてもちろんなかった。


「ありがとう……。 はは、やっと娘にも自慢できそうだ。 お父さん、仲間と一緒に怪物と戦ってるんだよーって」


「しかも凄腕のドライバーですしね。 キョウカが言ってたように他の乗り物もチャレンジしてみたらどうですか? それこそ娘さんに聞いたりとか」


「ああ、いいかもね。 戻ったら聞いてみるよ!」


 レースゲームやフライトシュミレーション。男の子向けのジャンルだが、ちょっとしたきっかけにはいい話題だろう。

 本来は娘さんとの会話づくりのために始めたゲームだ。その目的がようやく果たされる時が来た。

 あとはユージーンさんの頑張り次第だが、この様子なら何も問題は無いだろう。


 何故なら、彼はとても楽しそうに見えたからだ。


「しゃあ! 報酬もたんまり入ったし! 今日は飲むぜー!」


 ジュースをな。

 間違っても酒ではないぞリザ。


「新人歓迎会ですね~。 ガンショップにも皆で行きましょう~!」


 前後で文が繋がってないんですがアルミアさん。


「あ、先輩! 生放送の後追いで見たんすけど、あの格闘術なんすか!? ちょっとウチと手合せしていろいろ試したいんすけど!!」


 そしてすごい流れ弾が飛んできた!?


 ―――騒がしく愉快な会話が【ARTEMIS(アルテミス)】に響き渡る。

 バーテンダーのチェシャはこれからの事を考えて……ほんの少し面倒そうに眉をひそめ、いっぱいの期待を込めた優しい表情で彼らを見つめていた。


 このチーム『パラベラム・バレット』が暴れ出すのは、また次の話である。


【アーカム計画】

1978年に発表されたロバート・ブロックのSFホラー小説。

現代から近未来に掛けて三部で構成される。クトゥルフ神話史に名を残す名著として知られている。

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