『プロジェクトアーカム・11』
「あれ? 先輩とリザっちは?」
「どうやら敵の大将を追いかけていったみたいですね~」
「なるほど、大詰めというやつっすね!」
キョウカは支給品から巨大な風車を思わせる風魔手裏剣を呼び出し、一回転の遠心力を加えながらブン投げた。空飛ぶギロチンと化した風魔手裏剣はブーンと風を切り裂きながら深き者どもの集団を綺麗に薙ぎ払っていく。
「な、何なんだよ! この野郎!!」
ようやく遮蔽物に隠れるくらいの判断力は取り戻した『星光の円卓』のチームメンバー達は暴れまわるキョウカとアルミアに思わず叫んだ。
その中でも、自分は強いプレイヤーであると自負していたユウタはプライドがズタズタになる思いだった。
せっかくムーちゃんと一緒にイベントトップを取るはずだったのに、この真夏のサムライとイカれたシスターのせいで何もかも無茶苦茶だ。
ムーちゃんが連れて行った三人を除いて、ここにはもう四人しかいない。
(でも、やるしかねぇ……。 ムーちゃんに「ここは任せましたよー」と言われたんだ。 やるしかねぇ!)
既にリザとレイスが扉の向こうに追いかけて行った事に気づかぬまま、ユウタは奮起した。
支給品のカタログを開き、安くないポイントを投げ打ってその武器を召喚する。
「お前らぁ!! 援護しろォ!!」
かつてビッグマンが持っていたミニガンより一回り大きいガトリング砲を携え、ユウタが遮蔽物から打って出る。
ユウタの声を聞いたメンバーの各々はキョウカとアルミアに邪魔をさせないよう弾丸をバラまいた。
「「ッ!」」
二人の行動も速かった。
深き者どもを盾にした程度では易々と貫通する大口径弾の嵐の間を縫うように、アクロバットに身体を翻しながら柱や岩場に飛び込む。
「ああああああああッ!! 逃げんじゃねぇえええええ!!」
バルルルルルルルッ!!!と絶え間ないマズルフラッシュにユウタの歪んだ顔が照らし出される。
一つの遮蔽物に隠れていてもいずれは破壊されると分かったキョウカ達は足を止める事無く、次々に盾を変えながら攻撃を回避していく。
「キョウカちゃん、何か手はあります~?」
「え゛!? アルミア姐さんに何か策があるもんだとばっかり!」
「あら~」
言動こそけっこう呑気していたが、状況は切迫していた。ここが閉鎖空間である以上、そうそう逃げ続けられるものではないし、あのガトリングも支給品で手に入れたものなら装弾数はかなりのものになるはずだ。
壁に跳弾する火花と瓦礫を掻い潜りながら、キョウカとアルミアはそれでも走り続ける。
「おらぁああああああ!!! うらぁあああああ!!」
ユウタは銃口で追い続ける。
しかしそれは、まだ生き残っている面々から目を離したことに他ならない。
「ユージーン! 今だ!!」
「了解! クー・ロウさん!!」
ブオオンッ!!と息を吹き返したBBくんのエンジンが廊下に響く。
タイヤが勢いよく回転した鉄の塊は瓦礫から勢いよく飛び出し、そのまま後部を振りぬくようにドリフトする。
「なにィ!? ごぁあッ!?」
気が付いた時にはもう遅い。
ドリフトした車体をハンマーのように叩きつけられ、ユウタはガトリング銃を持ったまま優に5メートルは吹っ飛んだ。
「ユウタ!?」
「マジかよ!!」
予想外の奇襲に『星光の円卓』の残ったメンバーは狼狽える。
「ナイスタックル! タッチダウンだ! イーハー!」
そして、いつの間にか乗り込んでいたクー・ロウが車輌から飛び出し、至近距離のメンバーめがけてコンバットマグナムを撃ち込んだ。
「ぐあ!!」
「く、くそ!! やられた! やられたぞ!!」
一方的な攻撃から再び乱戦へと立ち戻る。
クー・ロウはそのままBBくんで遮蔽を取りながらコンバットマグナムのトリガーを引き、ユージーンも車内からMR762で顔を出そうとした敵めがけて牽制弾を撃ち込んでいく。
「畳み掛けるぞユージーン!」
「ッ! 待って、危ない!」
そう喜色の笑みを浮かべて帽子を直したクー・ロウに、いつの間にか迫っていた深き者どもが飛び掛かった。一匹が組み付いた所に、さらに二匹、三匹と馬乗りになる数が増え、鋭い爪を振り上げてクー・ロウをメッタ刺しにしていく。
敵から目線を外していたのはこちらも同じことだったのだ。
「ク、クー・ロウさんッ!!?」
唐突なクー・ロウの死に戻りにユージーンは恐怖した。
見れば他の『カウヘッド』のメンバーも深き者どもの波に呑まれて姿を消していた。
本当に、いつの間にこれだけ連中の数が増えていたんだとユージーンは驚愕するしかなかった。
「ああ……、ヤバイかも!」
BBくんの周囲も取り囲まれつつある。
すぐには装甲を打ち破られる事は無いにしても、じり貧は必至だ。
『星光の円卓』もプレイヤーより深き者どもへの対応を優先し始めているくらいには形勢が一気に傾いていた。
「ア、アルミアちゃん!? キョウカちゃん!?」
ユージーンが二人の安否を確認するように叫んだ。しかし、返事は一向に聞こえてこない。
もしや、既にもう……と最悪のパターンを想像する。
……失敗した。
せめてBBくんから出て一緒に行動していればこんな事にはならなかったかもとユージーンは悔しい思いが募る。後の祭りとはわかっていても、ユージーンはリザとレイスのために最後まで戦おうと銃を握りしめ、ドアハンドルに手を掛けた。
瞬間―――視界の向こうに居た深き者どもの集団が弾け飛んだ。
「はい?」
目が点になるユージーン。
比喩でもへったくれもなく、真面目に深き者どもが薙ぎ払われるように吹っ飛んだのだ。
銃撃でもましてや爆発でもない。一体何が起こったのかと目を凝らすと、背中合わせに立ち回る二つの影が見えた。
「いや~、近接武器もいいものですね~! 直に倒す感覚が味わえます~」
「でしょー? 特にこういう相手には戦いやすいんっすよー!」
アルミアとキョウカがそこに居た。
しかし、その手に握られていたのはまったく別の武器だった。
ブォンッ!!と風を斬ってアルミアが繰り出すのは、剣と呼ぶにはあまりにも無骨な鉄塊。肉厚な刃に彼女の身の丈を越えるサイズ感。支給品になんでそんなものがあったのかまったくわからないが、振り回されているのは間違いなく例の大剣だ。
「えぇぇえ………」
ホントにあったんだバスターソード……とユージーンは白目を剥きそうになった。
対するキョウカが三国志の英傑もかくやという勢いでブン回しているのはカヤックやカヌーで使うパドルだ。
ただしその両端になぜかチェーンソーが括りつけられており、まるで両刃剣を扱うように両手と全身を回転させながら、巧みに攻撃を繰り出している。
確か、どこかのゾンビ映画で登場した“パドルソー”という武器のはずだ。見た目からもわかる通り、最高に頭が悪いフィクション武器として名を馳せている。
それを現実のものとして、しかも完璧に使いこなしているキョウカにユージーンは軽く引いた。
「1万pt通りの性能ですね~。 これ普段からも使いたいところです~」
「そっすねー。 お手紙でも出してみるっす」
バスターソードが振り下されれば深き者どもは宙を舞い、パドルソーが閃けば嵐が通り過ぎたように綺麗さっぱり消し飛ばされる。
まったく別のゲームが始まったのかと錯覚しそうな光景だった。
あれだけ居た群れがみるみる内に殲滅されていく様子は、まるでそういう半漁人の村がことごとく根絶やしにされていく悪夢の一夜のようにも見える。
もうどっちが悪役なのかユージーンにはわからなかった。
「あ、あのー……」
ルルイエ無双をする二人を車内から眺めていたユージーンに不意に声が掛かった。
見ればBBくんの傍に、生き残った『星光の円卓』の青年たちが完膚なきまでに打ちひしがれたような表情で集まっていた。
ユウタに代わる代表者の青年がユージーンの前に進み出ると、深々と土下座の姿勢を取った。
「今までの事、すみませんでしたユージーンさん……!! それであの……降参します!! 降参しますからあの二人に口添えをどうか!!」
「あ、あんなので斬り殺されたくねぇ!! おおお、お願いします!!」
「お願いします! お願いします!!」
生き残った残り二名も一斉に武器を捨てて同じように土下座スタイルをかました。
「ああ……うん。 あれ見たら、ねぇ……」
もうユージーンは優しく苦笑いするしかなかった。




