『プロジェクトアーカム・10』
「くっそ!! 荒野のウィエスタンかここは!!」
悪態をつくカウボーイ風の格好をしたプレイヤーのクー・ロウは手斧を無造作に放り投げ、深き者どもの一体を頭蓋をカチ割った。
ちょび髭を撫で付け、愛用リボルバーである【M19 コンバットマグナム】に弾を込めてさらに迫り来る敵を打ち倒していくが多勢に無勢だ。
既にチームメンバーは三人まで減り、互いに背中を合わせながら防衛に徹するも呑まれるまで時間の問題だろう。
「チクショウ! こんな事なら拠点で大人しくしときゃよかったぜ!」
「ぼやくな! とにかくあの『星光の円卓』とかいう、ふざけた連中を引きずり降ろさねえとランキングが乗っ取られるんだよ!!」
「んなこたわかってるけどよクー・ロウ!! というか放って置けばこいつら全部、向こうに行くんだろ!? だったらその内、ラッシュに押し負けて勝手に死ぬんじゃねか!?」
「望み薄だな!! さっきチラッと見たが、この先は長い直線の廊下になってる。 連中、そこに支給品の機関銃を据え付けてずっと弾幕を張ってやがるんだ!!」
クー・ロウの言葉にチームメンバーは苦い表情を浮かべる。
いくら深き者どもでもそんな入れ食いフィールドに誘い込まれては手も足も出ないはずだ。
「つーかどっちにしろ、俺らが飛び込んでもハチの巣にされるじゃねーか!! どうなってんだクー・ロウ!!!」
「やかましい!! まさから俺もこんな布陣を敷いてるとは思わなかったんだよ!!」
せいぜいどこかの部屋に引きこもってると思っていたが、蓋を開けてみればキッチリ破壊不能の床のある直線の廊下の一角に陣取り、前後の二方向に敵の進行ルートを絞らせて迎撃に徹している有様だ。
とりあえず、こんな“稼ぎ”が出来るような欠陥マップを考えた設計者はクソだなとクー・ロウはイラつくばかりだった。
「サイシーバーのオープンチャンネルで援軍を要請しろ! まだ近くにどっかのチームがいるだろ!!」
「無駄だぜ、クー・ロウ! だって俺達が援軍だったじゃねえか!」
もちろん、当の救援要請を出していたチームはとっくに全滅している。
「クソが!! どうしようもねぇかよ!」
何の成果もなくポイントを減らされる。その事実が確定した事にクー・ロウはギリギリと奥歯を噛みしめる。
そんな彼の耳にふと、ブロロロロとエンジンを回すような音が遠くに聞こえた。
「なんだ……?」
だんだんと音が大きくなってきたのと同時にその方向もわかってきた。思わず振り返った背後を壁からボリュームを上げるように件のエンジン音が迫ってくる。
「ッ……!? 逃げろぉッ!!」
クー・ロウの叫び声に反応した残りの二人と、クー・ロウ自身が慌てて横っ飛びに壁から離れると、そのレンガを粉砕しながら煌々とライトを照らす一台のモンスターマシンが飛び込んで来た。
「ッ! 要救助者発見! アルミアさん!」
止まった車体の上に据え付けられた砲塔がぐるりと回り、呆気にとられて足を止めていた深き者どもをことごとく機関銃で薙ぎ払っていく。
「よし、そっちの人! 大丈夫ですか! 助けはいりますか!?」
「今、殺されかけたわ!!」
車輌から降りたレイスがクー・ロウ達を助け起こしていく。
破壊可能な壁を片っ端から壊しながら進んで来たが、ここに来てうっかりプレイヤーを巻き込みかけてしまったようだ。反省、反省。
「悪ぃ、だが助かったぜ。 お? お前さんら、もしかして『パラベラム・バレット』か?」
「どうも。 チームリーダーはあっちのリザなのであしからず。 ルルイエ異本の奪還に来ました」
簡潔に目的を告げるとクー・ロウは少し驚いた顔をしてからよく来たと言わんばかりにレイスの肩を叩いた。
「そいつは朗報だ! 連中はこの先の廊下に陣取ってやがる……。 なにか手はあるか?」
「なるほど、情報提供に感謝です。 でしたらこのまま突っ込みましょうか、ついでに深き者どもも引きつれて」
クー・ロウはレイスとBBくんを見比べてまた呆れたように頭をかいた。
「正気かよお前……。 確かにコイツの見た目なら問題なく飛び込めるかもしれねぇけど……乱戦に成りかねねぇだろ?」
「まさか。 それでうっかり死ぬほど、うちのチームメンバーは柔じゃないですよ」
事も無げに、クー・ロウへの挑発とも取れる言葉をレイスは吐く。
流石にむっとしたようにクー・ロウは自身のちょび髭を撫で付けて軽くレイスを睨んだ。
「わかった。 だったら試してみようじゃねえか? ああ?」
「ええ、せっかくですのでお三方も手伝ってくれるとありがたいんですけど」
「ハッ、ここまで来てしっぽ巻いて逃げられるかよ。 ―――俺は『カウヘッド』のクー・ロウだ」
「『パラベラム・バレット』のレイスです。 じゃあ、クーロウさん達もBBくんに乗ってください」
「おう。 ……いや、しかしどこで拾って来たんだこんなもん」
「純粋に札束の暴力ですかね……」
後部の両開きドアを開けて、クー・ロウ含む三人のカウボーイをレイスは中へと案内した。
ついでに乗せておいた支給品の弾薬ボックスから弾の補充をさせ、体勢を万全に整えさせる。
「レイスくん~? それで~? ちょっとだけ撃つのをやめればいいんですか~?」
「そんな感じでお願いしますー。 出来るだけ敵を集めてください」
レイスは後部座席に戻りながら、上のアルミアへと指示を出す。
「だ、大丈夫かなレイス君……? 数が多すぎたらいくらBBくんでも進めなくなっちゃうよ?」
「タイミングはちゃんと計りますから、あとは手筈通りにお願いしますユージーンさん」
ダークスイーパー・オンラインのいつもの中途半端なリアル要素だ。
車輌のエンジンパワーを越える数の敵に取りつかれると、跳ね飛ばして進むことが出来なくなって立ち往生してしまうのだ。
不安そうな顔のままのユージーンの了解を得ながら、レイスは次はキョウカの方を見る。
「そっちも準備いいか? キョウカ。 一番槍というか特攻を仕掛けてもらう形になるんだけど」
「無問題っすよ先輩! むしろ、さっきまで座ってセクハラされただけっすからこれくらい動かないと割りにあわねーっす!」
「セクハラの件については俺に責任はないからな!?」
純粋な事故だったんだよあれは。
そもそも、次の瞬間にはガチの昇竜拳を顎に食らってほぼ死にかけたのだから相子だと思ってほしい。
とはいえ女性の身体への接触と男性への本気アッパーが等価かと言われれば、若干迷う所はある。
いや、そういう話でもないわ。
「レイスく~ん! いい感じに集まってきましたよ~」
「あ、了解でーす」
アルミアの声掛けに応じて窓から外を見ると、どこからともなく出現した深き者どもの集団がこちらに向かってきていた。
間違いなく、敵のラッシュが始まった合図だ。
「レイス!」
「ああ、わかってるよリザ! ユージーンさん! お願いします!!」
「まかせて!!」
ガコガコ!とギアを入れ替えてユージーンがアクセルを踏み込むと、BBくんは後ろに向かってスピードを上げ始めた。
ユージーンはバックミラーと目視で逐一、後方を確認しながらハンドルを綺麗に捌いていく。そのまま敵を引き付けながら廊下の直線へと躍り出た。
「全速後退!! 止まるな!!」
「う、おおおおおおおおお!!!」
ガンッ!!とアクセルを踏み込んで、お尻を廊下の先に向けたままBBくんは更にスピードを上げた。
一瞬の空白の後に、バックしていく車輌めがけて弾丸の雨が降り注がれた。
車体のあちこちから激しい火花が舞い散り、連続した金属音が鉄琴を打ち鳴らすように響き渡る。
しかしBBくんはビクともしない。BBくんの中でもっとも装甲が分厚い後方扉は、たとえ機関銃の弾丸であろうとも防ぎきるポテンシャルがあった。
そう、手痛い遠隔攻撃で敵陣までたどり着けないなら、それを通さない盾を構えて突っ込めばいい。
レイスの想定以上の防弾効果を有したBBくんは、まさにこの状況においての最高の切り札と言えた。
慌てふためいて機関銃から離れていく『星光の円卓』のチームメンバーの姿をサイドミラーでしっかりと確認し、レイスは姿勢を硬くした。
「突っ込むよ!!」
ユージーンがそう言うと同時にバキイッ!!と機械が壊れる感触とバリケードを乗り越えるバウンドを身体に感じる。BBくんがドリフトも交えながら急停車し、『星光の円卓』の本陣への到着を報せた。
「ぅおっしゃあ!!」
キョウカは気合一発、BBくんの後方扉を蹴り開けた。
視線の先には、BBくんの奇襲と迫り来る深き者どものラッシュに完全に混乱に陥った『星光の円卓』がいた。
「ど、どうなったんだよこれ!!」
「どっから来たこの装甲車!! う、撃て!」
「うわぁ! 深き者どもも来てる!!」
誰もが右往左往する渦中に、褐色の少女は飛び込んでいく。
何故ならもう、この距離は自分の間合いだからだ。
「うおおおおおりゃあッ!!」
疾風の如く、キョウカの斬撃が『星光の円卓』の一人を切り裂いた。返す刃で連撃を叩き込み、あっという間に一人をダウンまで追い込む。
背中から迫った深き者どもも最初から分かっていたように蹴りを入れて牽制し、怯んだ瞬間に居合抜きで両断した。
「よし二つ! 次!!」
集団の乱戦では無類の強さを誇る“近接最強”が更なる混沌を広げていく。
深き者どもを盾に銃弾を防ぎ、視線が逸れていた相手を背後から斬り伏せ、ナイフを構えて応戦してきたプレイヤーを圧倒する。
この場の支配者は誰かと問われれば、キョウカに間違いないと言える無双ぶりだ。
「クー・ロウさん! 軍服ワンピースを着た女の子を探してください! その子がムーちゃんです!」
「わかった! くっそ! 予想通り大乱闘じゃねえか!」
追いついてきた深き者どもも交えて、あちこちで銃撃音が敵味方関係なく入り乱れていく。『カウヘッド』の三人も自慢のリボルバーで『星光の円卓』を優先して攻撃しつつ、ムーちゃんを探す。
ユージーンはBBくんという要塞の中から援護に徹し、砲塔から飛び降りたアルミアはドラゴンの息を振り回しながら歓声を上げていた。
あのイカれたシスターについては考えないようにしよう。
「レイス、あれ!」
「む!」
リザに呼びかけられ、彼女の指さした方を見ると―――遠くにある木の扉の中へ数人を連れて引き上げていくムーちゃんの姿があった。
「追いかけるぞ、リザ!」
「おうよ!!」
ここで逃がしてなるものかと、レイスとリザは敵を蹴散らしながら追跡を開始した。




