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『プロジェクトアーカム・9』

「い~やっほ~~うッ!!」


 ぐるりと回転した砲塔が走り寄る深き者ども(ディープワン)に向けられ、40mm榴弾がポン!ポン!と小気味よく発射される。

 直後に爆炎が地面から噴き上がり、衝撃波に煽られたBBくんのバランスを脂汗を浮かべるユージーンがなんとか修正した。

 例えもへったくれもなく、チーム『パラベラム・バレット』の面々は押し寄せる敵陣の中央を切り裂くように突っ走っていた。


「多い! 多い! 多いってぇ!!」


「オッサンッ! アクセルから足、離すなよ!? 止まったらもう囲まれるしかねえぞ!!」


「ひぃえええ―――ッ!!」


 お世辞にも良好とは言えない岩場の悪路を猛スピードで駆け抜けているせいで、車内の揺れ方は尋常ではない。ボートの時もそうだったが、ゲームでなければ完全におリバースしている頃だろう。


「うはははっ! ジェットコースターみたいっす!! あ、アルミア姐さん! 左から団体様追加っすよ!」


「レイスくんお願いします―、右も肉厚な団体様でして~!」


「ナビと攻撃の兼ね役って一人だけ忙しすぎません!? ええい、やりますけどもッ!!!」


 レイスはAK-12に備え付けられたアンダーバレルグレネードの引き金に指を掛け、じっくりと偏差を読みながら深き者ども(ディープワン)の一団の鼻先めがけて発射した。

 アルミアのぶっ放す自動擲弾銃(オートグレネードランチャー)と比べれば小規模な爆発ながらも、しっかりと足止めの効果を発揮する。

 レイスはさらに三点バーストの射撃を重ねながら、左手の敵を削り落として行った。


「うわわわ、前にもいっぱい来たよッ!?」


「ハンドルそのまま! あたしに任せろ!!」


 リザは窓から身を乗り出しながら手元で何か操作すると、その手の中にRPG-7(ロケットランチャー)を召喚した。一発撃ち切り、お値段500ptの切り札的な支給武器だ。

 砲身を肩に乗せ、照準器で狙いを付けながらリザはトリガーを引いた。


 バシュウッ!!!と炸裂した後方噴射(バックブラスト)の音色と共に安定翼を展開した弾頭が白煙の尾を引きながら飛翔する。ブースターが点火した秒速200mの鉄塊はあっという間に前方から迫る深き者ども(ディープワン)との相対距離をゼロまで縮め、その先端が魚鱗のボディに突き刺さると同時に爆裂した。


「おおァアアアアア―――ッ!?」


 ロケットランチャーの爆発で巻き上がった炎の壁は今さら避け切れない。

 ユージーンは悲鳴を上げながらアクセルを踏みっぱなしにして紅蓮の中を突破した。


「ひぃいい! アルミアちゃん大丈夫!? 大丈夫!?」


「咄嗟に頭を引っ込めましたのでなんとか~。 リザちゃん~次は一言お願いしますね~!?」


「ははっ! 悪ぃ悪ぃ! つーわけで二発目行くぞ! 備えろッ!!」


 反省したようなしてないような愉快な笑い声を上げながら、リザは更に500ptを放り込んで次のRPG-7を携える。


 支給品の乱使用―――これは一重にレイスの指示だ。

 内容はシンプルに“使いたいと思ったらポイントは使え。特にボス戦は絶対に出し惜しむな”というもの。

 元々、ランキングという“結果”よりは、いかに楽しく攻略していくかの“過程”をチーム『パラベラム・バレット』の面々は重視している。ポイントを貯め込む必要はないとあえて言葉に出す事で、彼女たちの意識の枷は完全に解き放たれた。

 あとは……やりたい放題のドッタンバッタン大騒ぎだ。


「お、先輩! 音楽プレーヤーとか見つけたんで、ご機嫌なミュージックとかかけていいっすか?」


「他にやることないかなぁ!? キョウカさんんんッ!? いいよッ!! ノリのいいロックなヤツな!!」


「うははは! 了解っすー」


 こういう支給品の使用は想定していなかったが、楽しそうなのでレイスも多くは言わない。

 やがてキョウカの膝の上に今はもう骨董品屋とかで見かけるラジカセ(?)が出現した。

 激しいビートがスピーカーから流れだし、かき鳴らすハイテンションなエレキギターが高揚感を煽る。

 余談だが、これは周囲にも思いっきり聞こえてるらしく、心なしか深き者ども(ディープワン)の数が増えた。

 もういろいろと無茶苦茶だ。


「―――む、急カ~ブ~ッ!!」


「うえぇッ!?」


 進行方向に機関銃の斉射を行っていたアルミアが声を上げる。

 舞いあがった砂塵が晴れた先は、谷の側面を曲がる切り立った崖のコースになっていた。当然、ガードレールなんてものは存在しない。


「うわわわッ!! そんないきなり!?」


 進入速度が速すぎたBBくんにブレーキを掛けながら、ユージーンはハンドルをめいっぱい回す。

 しかし車体は曲がる姿勢を見せながらも慣性に引きずられて、一直線に崖の切れ間へと向かって行く。


「ッ――-やっべえぞレイス!!」


「シ、シートベルト外せ! 総員退避ぃッ!!」


 滑っていくタイヤにユージーンが歯噛みする。

 BBくんの操作は本当に簡単なアクセルとブレーキの二種類しか効かないゲーム仕様だ。

 しかも踏み込んだ所でリアルな急ブレーキが掛かるようなものではなく、緩やかに速度が落ちていくだけの乗り手に配慮した仕組みになっている。これでは車の姿勢を思うように戻せないとユージーンはすぐに理解した。

 せめて、せめて現実と同じようにギアをマニュアルで操作出来れば……、と彼はレイスからただの飾りだと説明されたシフトレバーに目をやった。


 ―――しかしてそれは神の奇跡か、イタズラか。

 シフトレバーの近くに【AUTO】と赤く点灯するスイッチと【MANUAL】と書かれたスイッチが並んでいる事に気が付いた。


「う、ぉおおおおおおおおッ!!!!」


 ユージーンは迷わず【MANUAL】のスイッチを押した。

 ガクンッ!!と車体が揺れ、ギアが軋む嫌な音がエンジン周りから響く。ユージーンはすぐさま、クラッチを踏んでシフトレバーでギアを切り替え、サイドブレーキを引いて後輪をロックした。


 ギャリリリリリッ!と地面の岩を削りながらBBくんの尻側がさらに振られ、横向きの姿勢が限りなく縦へと変化する。


「今だぁあああああッ!!!」


 サイドブレーキを外して再びギアを繋ぎ直し、ユージーンはアクセルを全開まで踏み込んだ。

 押し込まれる慣性を振り切るように、唸りを上げるエンジンはシャフトの猛回転をタイヤまで伝達し、BBくんの車体を前方へとかっ飛ばした。


「うー、ごごごごご!!」


 暴れ馬のような車体をなんとかハンドルとブレーキで制御し、5人を乗せるBBくんはなんとか崖を曲がり切った。


「ひぃ……ひぃ……、あ、焦ったぁ……。 みんな、大丈うわぁ……」


 ユージーンが振り返った先は惨憺たる有様だった。

 シートベルトを外していたレイスはキョウカに覆いかぶさる形で大変な事になっているし、リザは天井に頭をぶつけたのかスタンのバステが入って目を回している。

 アルミアに至っては砲塔の端にしがみついて落ちかけている状態だ。


 ユージーンはBBくんの速度を少し緩めつつ全員の復帰を待った。

 レイスはキョウカから車の天井に叩きつけられるようなアッパーを喰らっていた。


「え……、えーと。 もう、大丈夫かな? みんな」


「味方のパンチで死にかけましたがなんとか……」


「いやぁ、今のは危なかったぜ……」


 ようやくトラブルから持ち直した面々は安堵の息をついた。

 気持ちが落ち着くと、今度は状況をひっくり返したユージーンへの感想へと会話が移る。


「いや、でも凄かったなッ!! 流石だぜオッサン! どうやったんだ!?」


「えと、マニュアル操作に切り替えて……後輪ドリフトを、かな。 おじさん、昔にちょこっとだけこういうのかじったことあったから……。 上手くいって良かったよ……」


 ユージーンが言っているのは、大昔のゲームセンターにあった座席に乗り込むタイプのレースゲームの事だ。

 おじさんになる前の若かりし頃には彼もそれなりに腕を鳴らしたものだが、今はもう記憶の彼方だ。


「いやいや、見事なハンドルさばきだったっすよユーおじさん!! それどころじゃなくて全然、見てなかったっすけどウチらが生きてるのが何よりの証拠っす!!」


「そうですね~、振り落とされそうにはなりましたけど~」


「ご、ごめんねアルミアちゃん!? つ、次は気を付けるからさ!」


「フフ。 はい、ぜひ次も(・・)おじさまが運転して頂ければ幸いですね~」


 クスッと微笑を含んだアルミアの落ち着いた声がユージーンはじんわりと浸み込む感じがした。

 つい口から出てしまった“次”を誰も否定しない。冴えないおじさんと“次”が続く事を当たり前のように受け入れてくれている。


「そうか……うん、そうだね。 次も、頑張るよ……!」


 助け合うプレイングはこんなにも良いものなのかとユージーンは噛みしめる。

 ハンドルを握る手にも、思わず力が籠った。


「話の途中だがワイバ……深き者ども(ディープワン)だ! 迎撃用意!!」


 応ッ!!と掛け声が重なる。


「運転任せましたよ、ユージーンさん!」


「ああ、了解だよレイス君!」


 ロックなミュージックをかき鳴らしながら、鋭い走りを見せるBBくんはルルイエを目指す―――。


遅くなりまして申し訳ございません。

いつもブクマ、評価ありがとうございます。

引き続き、ダークスイーパー・オンラインを宜しくお願い致します。

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