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『プロジェクトアーカム・5』

 さてこれはどういった事情だろうかとレイスは顔を引きつらせる。

 自分はどうやらこの只ならぬ雰囲気だった掃除人(スイーパー)チームの真っただ中に落ちてきたらしい。

 それも全ての銃口がこちらを向いているという状況だ。このすぐ横にいる人の良さそうなオジさんが何をやらかしたらこうなるのかレイスはちょっと想像できなかった。


「こ、こいつ! ムーちゃん! きっとこいつだよ!! 俺達より先に勝手にルルイエを調べてポイント稼いでたクソ野郎は!!」


「はい……?」


 にわかに喚き出した不自然な顔付きの微ファットな青年の姿に、レイスは呆気にとられた。

 勝手にもなにも、許可を貰う必要があるなんて聞いてないし、そもそもあっても困る。いったい何を言ってるんだろうコイツはという感想しか出てこなかった。


「ユ、ユージーンさんを助けに来たんですね!? そうはさせませんよ!!」


 白ポンチョの眼鏡の少年もグリースガンの銃口を構え直しながらいきり立つ。

 なるほど、このオジさんはユージーンというのか。


 うん?この顔でユージーン……ユージーン……。


「もしかして……雄二さん?」


「え、その声、……光太郎くん?」


 お互いに顔を見合わせ「「あー……」」と納得する声が重なった。


 そうとわかれば話は早い。

 恐らく悪いのは取り囲んでいるチームの方だとレイスは瞬時に判断した。

 性格上、雄二が他人様に不届きを働くようなことは絶対にない。“善人”という言葉に足が生えて歩いてるような人なのだ。裏を返せば人が良すぎて騙されやすいタイプだともレイスはわかっていた。


「や、やっぱりグルだ!!」


「まとめて殺せ!!」


 やっべ、今のやり取り聞かれたか……。

 今更、AK-12を構え直したところで撃つ前にこっちが蜂の巣にされるのは目に見えている。

 レイスは渋い顔で両手を上げたまま数歩下がって、スペースを開けた(・・・・・・・・)


 瞬間、上から爆ぜるような銃声が響き渡ると、囲んでいた掃除人(スイーパー)達の銃が一斉に弾き飛ばされた。


「なッ!?」


「うおぉ!?」


「ヒッ!!」


 レイスと同じように落下しながら、針の穴を通す精密射撃を叩き込んだリザとアルミア。二人はそのままオマケのキョウカと一緒に猫のように身を翻しながらシュタッ!とレイスの前に着地した。

 相変わらずプレイヤースキルが意味わからない。


「なんであの高さから落ちて怪我しないかなぁ……?」


「あたしらは飛び降りてんだよ。 落ちてんのはお前だけだ」


「ぐうの音もでねぇ」


 こっちだって好きで落っこちてるわけではないのだが、反論できる要素は皆無だった。

 なにはともあれ、形成は一気に逆転した。ユージーンへ向けられていた銃は残らず石畳に転がり、こちらはピッタリと狙いを合わせている状態だ。


「ん~、念のためサイドアームも用意しておいてよかったです~」


 アルミアの右手には見た目も珍しい新武器のマグナムリボルバー【MP-412】が握られていた。

 回転弾倉を含む前方フレームを折り曲げる事で排莢する、独特の構造を持った中折れ式拳銃だ。プロトタイプこそ国際武器博覧会に展示されたものの、実際に製品化されて市場に出回ることは無かった幻の銃でもある。


「アルミアさん、ちなみに持ってる武器ってそれで何丁目ですか……?」


「えーと、ひー、ふー、みー、五丁目でしょうか~?」


「まだ一丁どっかに隠し持ってるんですかッ!?」


 ショットガン二種に火炎放射器にマグナムリボルバーと来てあとなんだろうか?

 それにしてもラインナップの火力がアホ高い。


「あははは、動画で見たより愉快な方々なんですねー『パラベラム・バレット』の皆さん?」


 クスクスと唇に手を当てて上品に笑うムーちゃんと呼ばれた女の子。

 見た目で言えばリザ達とも引けを取らない美少女だ。機能性より見た目の可愛さを重視したふんわりとしたスカートの衣装がより女の子らしさを引き立てている。


「―――『パラベラム・バレット』ってなんだ?」


「あ~、私達の通り名みたいなものですよ~。 チーム名は決まってませんでしたから~。 他にも『ちんどん屋集団』とか『特攻少女☆リザチーム』なんてものもありますよ~」


「へー、んじゃあ『パラベラム・バレット』採用で」


 なんか採用された。


「じゃ、改めて『パラベラム・バレット』のリザから質問だ。 ―――てめぇら、このオッサンに何やってやがった、あぁ?」


 ドスの効いた声色でリザが低く唸る。

 上から見ていて、事情はある程度察したのだろう。ガラは悪いが不道徳をよしとしないリザからしたら、よってたかって一人を囲むような陰湿な連中はもっとも気に入らない人種だ。


「はい、皆さんのお仲間のユージーンさんが私達の『聖光の円卓(ライト・オブ・ラウンズ)』に潜入していたことはもうわかっていますよー。 ですので、その見つけたネズミを処刑をする所でしたー」


「は? 仲間?」


「か、勘違いだよムーちゃんさん! 確かにこっちの彼とは知り合いだけど、今さっき会ったばっかりなんだから!」


 弁明するユージーンだったがそれは何の意味も成さない。

 何故ならムーちゃんはただのパフォーマンス、ひいては大義名分を掲げる為だけにこのセリフを言っているのだ。


 つまり私達は悪くない(・・・・・・・)、と。


 リザはその悪意を敏感に察知し、ブレイクエッジを握る手に力を込める。

 後ろから見ていたレイスもあえて止めるような真似はしなかった。ユージーン、つまり雄二がこうしてひどい目にあっていた報復としては適切な対応だと考えていたからだ。

 ようするに、レイスもけっこう頭に来ていた。


「ああ、そうそう。 ところで気が付いてますか?」


 余裕を崩さないムーちゃんの目がキュッと鋭くなった。


「このフィールドの床、破壊可能オブジェクトみたいですよ?」


 かつん、と硬い音がしたかと思うとムーちゃんのスカートの中からピンが抜かれた手榴弾が落ちた。彼女はそのままサッカーでボールをパスするように、レイス達の方へと緩く蹴り飛ばす。


「ッ!!?」


 両手は身体の前で組まれている。一体どんなトリックで手榴弾のピンをこの一瞬で抜いたのかレイスにはわからなかった。

 ほんの数秒にも満たない内に、先手を許してしまった事態にレイスは焦る。


「逃げろぉッ!!!」


 リザが叫ぶのと手榴弾が爆発するのは同時だった。

 蹴り返そうと一歩前に出ていたキョウカがまず爆風に巻き込まれた。恐らくムーちゃんはその対応も考慮して炸裂までの時間を計算していたようだ。


「くッ!!」


「うわああ!?」


 身体を投げ出すように後ろへ倒れ、最小限の被弾範囲で対応しようとしたアルミア。転がって下がろうとしたリザの所に盾になるために飛び込んだレイス。悲鳴を上げて手で顔を覆ったユージーン。


 彼らの僅かな抵抗をまとめて呑み込むように、手榴弾の爆発で亀裂が入った床は砕け散り、真っ逆さまに下へと墜落させた。


 どちらにしても、あの至近距離で爆発を喰らってはダウンは必至だろう。階下でなんとか回復アイテムで復帰できればとレイスは視線を下に向けた。

 そして無情にも、眼前に迫ってくる海面(・・)を目の当たりにして、レイスは死に戻りを悟った。



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