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『エレベーターで異界に行く方法・終幕』

 束の間の休憩を終えてレイスが骨の部屋の前までやって来ると、つぐはを連れたキョウカが廊下に出てきた。

 つぐははレイスに気が付くとパッと顔を輝かせて飛び着いて来た。


「レイス隊長! よかった!」


「なんとかな……おかげで助かったよ」


 レイスも顔がほころばせながら彼女を受け止め、親愛を込めて背を軽く叩く。


「でもボロボロっすねー、先輩!」


「そっちもな、キョウカ。 ……激戦だったみたいだな?」


「えへへ、でもこの通りっす。 どうっすか? 先輩。 もうウチにだって期待していいんすよ?」


「まだ根に持ってたのか」


 二人は笑い合いながらハイタッチを交わした。


「ありがとう、キョウカ。 いい仕事だった」


「先輩もよく生き残ったっすね。 流石はリザ・パラベラムの一味っす」


「おだてるな、俺は調子に乗るタイプだ」


 お互いが無事であったことを喜びながら、三人はエレベーターへと戻って来た。

 相変わらず乗り場の口を開けたまま、異界と現実をつなぐ箱はそこにあった。


 レイスが乗り込み、キョウカが続く。

 二人が見守る中、境界線の前でしばし逡巡したつぐはだったが意を決して踏み出し―――エレベーターに乗り込んだ。


「乗れた……、乗れたよ!」


「やったっすね!」


「ああ……。 さぁ、帰ろう」


 レイスは1階と読めるボタンのスイッチを押した。

 自動ドアがゆっくりと閉じると、エレベーターは降下を始めた。

 フワリと来る浮遊感に包まれながらレイスは文字盤を見つめる。瞬きをするたびに、表示は妙な記号から正常な表記へと徐々に戻っていった。

 ああ、もう安心だとレイスは安堵した。


 脱力と共に軽く目を閉じ―――。




「はッ!!?」




 不意に意識が覚醒した。

 レイスは身体を起こして見回すと、ここが最初に入って来たマンションのロビーだとわかった。

 そのロビーのど真ん中の床で寝ていたようだ。


「なんだ、いったい……?」


 ふと、近くでキョウカが寝転がっているのに気づいた。

 レイスは急いでキョウカを揺り起こし、それに合わせてもう一人の仲間の姿も探したがどこにも見当たらなかった。


「おい、起きろキョウカ! つぐはがいない! つぐはー! どこだー!!」


「んぐぅ、なんすか先輩……はれ?」


 状況が飲み込めず、レイスは混乱するばかりだった。

 さっきまでエレベーターに三人で乗っていたはずなのに、気が付いたら1階のロビーで寝ていてつぐはがいなくなっている。

 何かのトラップか、それともまだゲームは続いているのかと考え込む。


「ここどこっすか……?」


「マンションの1階ロビーだ。 そうか、キョウカは最初からあのフロアに乱入したんだったな」


「うっす、んで……どうなってるっすこれ?」


「わからん……。 とにかくつぐはを探しに……」


 チーンと到着を知らせる音が鳴って、背後のエレベーターが開いた音がした。

 バッ!!とレイスとキョウカが武器を構えて同時に振り替える。


「お? なんだよ、レイス! こんな所にいたのかよ!」


「あらら~、今までどこにいたんですか~? リザちゃんがずっと連絡してましたよ~?」


 まるで一仕事終えた後のようなリザとアルミアがエレベーターから降りてきた。

 よくよく見れば、レスラーのハリケンや他のプレイヤー達も一緒だ。


「リザ……、アルミアさん……。 そっちこそ今までどこに!?」


「どこって、普通にマンションのあっちこっちでゾンビ共を蹴散らしてたぞ?」


「はい! あぁ、予想通り最っ高の戦場でした! もう一生、私はショットガンを離しません!!」


 恍惚とした表情でアルミアはマンションでの戦いを熱く語る。

 しかしこれもただレイスを戸惑わせるだけだった。

 何故ならレイス達は一度たりともゾンビのエネミーには遭遇していないのだ。


 二人とまったく話が噛み合わない。

 一体、どこのマンションの話をしているんだと言いたいくらいだ。


「まぁ、どっかで何かやってたなら別にいいけどよ。 つぐは(・・・)はこの通り、こっちで救助したからもう安心していいぜ?」


「―――は?」


 つぐはをリザとアルミアが救助した?

 思わずそちらに目をやったが、立っていたのはレイスが知っているつぐはではなかった。

 もっと髪が短く、活発そうな格好の悪ガキっぽい女子だった。

 だが周りのプレイヤー達は彼女をつぐはと呼び、そう扱っている。


「どういう……ことだ?」


「んー、先輩。 ちょっと思ったんすけど」


 おもむろにぼけーと状況を見ていたキョウカが口を開いた。


「よくよく考えたら、あの子って自分から“つぐは”って名乗ってなかった気がするっす。 ウチらがそう思ってただけで」


「なん……」


 言われてみれば確かにその通りだ。

 それに加えて、自分たちはあの子をつぐはとも呼んでなかった気がする。


 じゃあ、あの子は誰だったんだ?


「あとっすね、あのマンションで戦ってる時なんすけど……、多少は緩和されてたんすけど、痛かった(・・・・)んすよねー。 普通は衝撃を感じるだけで痛みってないはずじゃないっすか? なんだったのかなーって」


「待て待て待て待て! 情報過多すぎる! ちょっと考えさせてくれ!!」


 わけがわからない。

 なんだ?リザとアルミアを含めて他のプレイヤーがいないマンションに自分たちは居て?

 つぐはではない少女を怪異から助け?

 そしてゲームシステム上あり得ない動作の中に晒されていた?


 これに説明をつけようなんて思ったらそれこそ……。


「……本当にエレベーターで異界に行っていたとしか考えられないじゃないか」


 与太話だとレイスは頭を振って浮かんだ想像を思考から消した。

 もしも、あの場で死んでいたらどうなっていたのかなんて考えたくもない。

 やはり混線してさらに別のステージに飛ばされていたのだろうとレイスは自分に現実的な説明をつける。


「……、とりあえず依頼は」


 と、レイスが思考の海から戻ると。


「へー、近接武器を使うのか! おもしれーな」


「別の場所から転移するなんてことあるんですね~。 キョウカちゃんも大変でしたね」


 なんかものっそい、打ち解けてた。

 フレンド交換までもう済ませているくらいに打ち解けていた。


「……、リザ? アルミアさん?」


 おずおずとレイスが話しかけると、二人は満面の笑みでキョウカを中心に振り返って来た。


「おうレイス! こいつ気に入ったぜ! キョウカも今からあたしらのチームだ!」


「はい、私も大賛成です~。 とっても可愛らしいですからね、キョウカちゃんも。 で、いいですよね? レイスくん。 答えはもう決まったようなものですけど」


「うっす! 今日からお世話になるっす!!」


「えぇ………」


 話が早すぎる……。

 人がいろいろ頭を悩ませている内にこの三人娘はホントに……。


「うし! 【ARTEMIS(アルテミス)】で戦勝祝いだ! いくぜー!」


「楽しいお話、聞かせてくださいねキョウカちゃん~」


「うっす! アルミア(ねえ)さんの期待に応えるっす!」


 なんだよアルミア姐さんって。

 レイスは頭を掻きながら、バンに戻る三人を追いかけた。


「あ、そうそう先輩」


 唐突にキョウカがレイスへ振り返った。


「なんだ? キョウカ」


「あの子はきっと大丈夫っす。 ウチのカンはよく当たるっすから」


「………、なんだよそれ」


 訝しむレイスだったがキョウカの浮かべた笑みは、何か確信が籠った表情だった。

 それだけは少し信じてもいい気がした。

 



※※※




 レイス―――現実世界での光太郎は気にしないと思いつつもやっぱりあの『エレベーターで異界に行く方法』のステージで起こった、一連の出来事について考えていた。

 特に自分たちが助けたあの女の子の行方、それだけがどうしても引っかかっていた。

 あの子がつぐはではなかった以上、別のNPCとも考えられない。つまり………。


「お兄ちゃん? どうしたのそんなソーシャルゲームのガチャにあと1万円投入すべきかどうかみたいな顔して」


「単純に難しい顔って表現でいいんだぞ、妹よ」


 明里はソファの隣に座りながらテレビのチャンネルを変える。

 兄貴の悩みについてはどうやら聞くだけ聞いてみただけで、さして興味はない様子だ。


「なぁ、明里。 ゲームの中で会った女の子を探し出す方法って何か思いつかないか?」


「お兄ちゃん、ゲーム内でもストーカーは普通に犯罪だよ」


「そうなんだけど、そうじゃなくてな……?」


 犯罪に片足突っ込もうとしているわけではなく、謎の真相を確かめたいだけだ。

 特に、あの子が無事脱出したのかどうか、それともまだマンションに囚われているのか……。それが知りたかった。

 ポチポチと明里が変えるチャンネルはやがてニュース番組に行きついた。


【―――未明、三日間行方が分からなくなっていた女子児童が、昨日マンションのロビーで倒れている所を発見され】


「止めろ、明里」


「え?」


 ガタッと腰を上げて明里からリモコンを奪い、光太郎は真剣な表情でテレビの音量を上げた。


【命に別状はなく意識もハッキリとしているとのことです。 また若い男女二人が女子児童を救ったとの証言もあり、警察は詳しい事情を聞くと共に捜査を続ける方針です―――続いてのニュースは】


 じっと光太郎は黙ったまま、流れる映像を見据えた。


「お兄ちゃん? ホントどうしたの?」


 今度は真面目に明里は光太郎を心配していた。


「なんでもない。 ただ、さっきの話は解決したってことだよ」


「???」


 疑問符を浮かべる明里の頭を笑ってぐしゃぐしゃと撫でながら、光太郎はようやく清々しい気持ちでゲームをクリアした気分に浸る事が出来た。

 深くは考えない。きっと世の中、そういう不思議な話もあるのだろう。


 事実はどうあれ、名前も知らないどこかの少女が今日の朝日を迎えられた。

 それだけでも、光太郎はとても喜ばしい事だと思うのだった。


【エレベーターで異世界に行く方法】

初出は不明。エレベーターの階層移動の順番は同様だが、一人でやることと5階の女は乗せることが本来の条件。2009年頃にはネット上でこの方法が流布されている。


【NNN臨時放送】

深夜のテレビ放送終了後に突然ゴミ処理場の映像と共に『NNN臨時放送』というテロップが流れる。そして画面下から人間の名前がスクロールし、抑揚のない声がそれらを読み上げ、最後に「明日の犠牲者はこの方々です。おやすみなさい」という言葉と共に終了する怪異。

2000年頃に書き込まれた怪談が発端とされている。


【ベッドの下の男】

アメリカ発祥の都市伝説。日本では1994年頃からまことしやかに囁かれている。

鎌や包丁など様々なバリエーションが存在する。


【ひとりかくれんぼ】

別名「ひとりおにごっこ」。2006年4月頃に2ちゃんねるオカルト板で紹介されてから一気に広まった降霊儀式。複数人でやるものや、複数のぬいぐるみを使用するバリエーションなども存在するらしい。作中の儀式手順は意図的に省いている。


【さとるくん】

2000年代前半頃に流行した怪談。メリーさんやこっくりさんの電話に連なるバリエーションの一つとも言われている。またさとるという名前は人の心を読む妖怪『サトリ』から来ているとの話もある。


【フィリベ・アスペア】

フランス革命時代、病院の衛兵だった彼はパリの地下にあるカタコンベに酒を取りに行こうとして迷い込み、11年後に遺体で発見された。その後も、カタコンベに入った人間の耳元で囁くなど幽霊としてその場に留まっていると噂されている。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初はゲームをやっていると思うって読んでいたら最後にゲームじゃないとわかって背中がゾワゾワしました。とっても面白かったし無事に異界からみんな出て来れてよかったです。(`・ω・´)
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