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『エレベーターで異界に行く方法・11』

「でえええやぁッ!!」


『むourィッ!!』


 サーベルの攻撃を擦り上げながらいなし、左手のバールであばら骨を深く打ち据える。

 ザコの骸骨なら一撃で骨を砕くことが出来た打突だったが、この衛兵相手では硬い手応えを感じるだけだった。


「か、カルシウム足りてるっすね……?」


 まさかの耐久力に驚くキョウカに骸骨衛兵の膝蹴りが襲い掛かる。


「がっは!」


 咄嗟に片手の鉄パイプでガードを入れて直撃は避けられたが、まるで機械に蹴られたような手痛いインパクトを受けてキョウカが地面に転がった。


 距離が開いたのをいいことに、骸骨衛兵が再びマスケット銃を構えようとする。

 この場所は遮蔽物が無く自分に有利なフィールドである事、そして目の前の敵は接近戦しか仕掛けて来ない事を骸骨衛兵はしっかりと分析していた。


「ッ!! させるかぁッ!!」


 しかしキョウカもまた近接戦闘のエキスパートだ。遠距離攻撃の対策は身体に叩き込んである。

 転がった姿勢のまま、バールの鋭く尖った面を先端に槍投げのように素早く投擲した。


 ズドオッ!!と銃を持った二の腕の関節部分にバールが突き刺さり、持ち上げようとして突然に曲がらなくなった腕に戸惑う様子を見せる骸骨衛兵。


()ッ!!」


 キョウカは胸が地面に触れそうな程の前傾姿勢で疾走し、両手で握った鉄パイプを斬り上げるように一閃した。

 狙うは突き刺さった長バール。強かに弾き上げられたバールは刺さった部分を支点にグルリと回転し、骸骨衛兵の腕を関節部から捻じ切った。


『Un tェl いdiぉtッ!?』


 バールごと宙を舞った自分の腕とマスケット銃を見て骸骨衛兵は叫ぶ。

 言葉はわからないが、こんな馬鹿な!?と言っているようにキョウカは聞こえた。


「はぁあああッ!!」


 追撃の鉄パイプが加速を掛けて衛兵に迫る。

 このチャンスを逃せば態勢を立て直されるとキョウカのカンは告げていた。

 一撃、二撃、三撃とサーベルを構えられるよりも速く殴りつけ続ける。怪物といえども所詮は人型、バランスを崩さずにいられるダメージにも限度がある。


「このッ!! いい、加減!! 倒れろっす!!」


 顎を打ち上げ怯むように下がった骸骨衛兵めがけ、踏み込みと共に兜割りを振り下ろす。


『Stぅpiでeッ!!』


 それを待っていたと言わんばかりに衛兵はサーベルを捨て、その手で鉄パイプを正面からガッシリとキャッチした。


「オゥ……マジっすか」


 刃物であればこんな心配は無かっただろう。

 だがキョウカの持っているの物はどれだけ言葉を尽くしても、結局はただの鉄パイプであり金属の棒だ。掴もうと思えば掴める代物だ。


『Mェrでeッ!!』


「うわわわわわッ!?」


 骸骨衛兵が鉄パイプをハンマー投げのように振り回し始め、手で掴んだままのキョウカも一緒になってブン回される。

 遠心力も込みとはいえ、人間一人を片手で浮かせるパワーにキョウカは改めて慄く。

 このままどこにぶつけられても致命傷は免れない。


「うわ―――ッ!!?」


 たまらず手を離したキョウカは重力とスピードに乗って地面に投げ出され、壁の端まで滑走していった。

 まだ加速が完全に乗り切っていない内でもこの吹っ飛ばされ方だ。危ないところだった。


「痛ってー……」


 あれ?痛い?と違和感を覚えたが、石畳を踏みしめて迫ってくる骸骨衛兵に思考はすぐに吹っ飛んだ。


「危なッ!?」


 体を急いで転がして骸骨衛兵の踏み付けをかわす。

 バキィンッ!と床が粉々に割れた様子からその威力は推して計るべしだ。


 二発目と三発目もゴロゴロと床を転がって避け、その次が迫った瞬間―――。


「軸足もらったっす!!」


 キョウカを踏み付けようと片足立ちになっていた骸骨衛兵に鋭い足払いが命中した。

 地面に引き倒された骸骨衛兵にキョウカも飛び掛かり、足を捻ってロックし腕を絡め取りながら馬乗りに拘束する。

 中学生の体重ではしれたものかもしれないが、その一瞬でも時間を稼げれば十分だ。


 フリーになった片手で腰のポーチを開けて、キョウカは中からリボルバー(・・・・・)を引きずり出した。


 名前は【ニューナンブ M60】。

 通称ポリスリボルバーと呼ばれている、警察官が使用する銃身の短い小型拳銃だ。


『ッ!?』


 抑え込んだままの骸骨衛兵の脳天にピッタリとゼロ距離で銃口を突き付け、キョウカは冷たい目で見下ろした。


「この距離は流石に外さねえっす」


 パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!!と5連射を素早く叩き込んだ。

 鉄パイプの打撃には耐えたが、至近距離からの銃撃には耐えられなかった様だ。頭蓋骨に綺麗に5つ穴を開けた骸骨衛兵は力なく崩れ落ち、沈黙した。


「あー………」


 倒した―――。

 とはいえキョウカとしては今回の戦闘は100点満点で言えば40点くらいの評価だった。


「はぁ……野蛮な武器っす……」


 掃除人(スイーパー)はそのゲームの仕様上、銃一丁は必ず所持するように決められている。

 不本意だがルールはルールだ。接近戦の殴り合いを信条とするキョウカは、けして頼ることがないよう弱っちそうな小さい銃を選んだのだが……状況は見ての通りだ。

 いくら鉄パイプもバールも失っていたとはいえ、使ってしまえば負けのようなものだ。

 いや、むしろそんなピンチにまで追い込まれてしまった自分に恥を知れと言いたかった。


「ま、言ってられないっすけどね……。 つぐはちゃんを助けに行かないといけないっすから」


 キョウカはまだまだ未熟だとガックリと肩を落としながら、リロードもせずにニューナンブをポーチの中に無造作に放り込んだ。

 鉄パイプとバールを拾い直し、気合を入れ直す。


「今、行くっすよつぐはちゃん!」


 さっぱと切り替えて、キョウカはつぐはが進んでいった通路へと向かった。




※※※




「はぁ……はぁ……はぁ」


 少女は暗い地下墓地の通路を息を切らせて走っていた。

 幸い、ここまでは一本道で迷う心配もないし、敵の骸骨も出て来なくなった。


「きっとあと少し……きっとあと少し……」


 そう自分にいい聞かせながらひたすら駆ける。

 止まってはいけない。今は一秒だって惜しいのだ。


 今もレイス隊長が、キョウカお姉ちゃんがすごく頑張ってる。

 ただの自業自得で異界に迷い込んでしまった自分に、会ったばかりにも関わらず優しく手を差し伸べてくれた。

 そんな二人に恩返しが出来るのは、今日この瞬間しかない。


「ッ!! いた!!」


 見つけた。

 壁の棚にポツンと置いてある、この景色に対して違和感しかないクマのぬいぐるみ。

 ずっと自分を苦しめてきた怪異の大元。


「………」


 じりっと周囲を警戒しながらぬいぐるみまで少女は近づいていく。

 罠がないか、敵がいないか、一瞬でも見逃してしまえば無防備な自分はあっという間にゲームオーバーだ。

 でも足は止めない。怖くて怖くて仕方がないけど、仲間のためなら頑張れる。


 両手を伸ばしながらクマ太郎に迫る。

 バクバクと鳴る心臓にパニックを起こしそうになりながら、少女はなけなしの勇気を振り絞ってもう一歩を詰めた。

 

 掴んだ。

 何が起きることもなく、両手の中にクマ太郎は収まっている。


「よし……」


 胸の前で抱えたまま、少女はポーチから一本のペットボトルを取り出した。

 慌てず、でも急いでキャップの蓋を開けてクマのぬいぐるみをじっと見る。


 ボトルの口を傾けて、ばしゃりと塩水を振りかけた。

 そして少女は矢継ぎ早にトドメの言葉を口にする。


「“私の勝ち! 私の勝ち! 私の勝ちッ!!”」


 ドクン―――ッ、とマンションが鳴動した。




※※※




「ぐ、ああああッ!!」


 何度目になるかはもう数えてない。

 レイスは怪物のクマ太郎からアッパーをナイフで受け止めながら吹っ飛ばされ、また廊下に転がった。


 少しでも止まれと、体勢を起こしながらHK45の残弾を撃つ。

 何発か鉛玉を吐き出すと、拳銃はスライドが引かれた状態で沈黙した。

 弾切れの合図だ。


「くそ、ここまでか!!」


 これが最後の弾倉だった。

 レイスは忌々しげにホルスターに拳銃を戻し、コンバットナイフだけを構えた。

 怪物のクマ太郎は涼しい顔だ。

 あとどれだけこの一本で時間を稼げるかはわからない。そもそも今でどれだけ時間を持たせたかも曖昧だ。

 1時間かもしれないし30分かもしれない。もしかしたらたった1分足らずだった可能性もあり得る。

 それでもまだ自分が両足で立ち健在である以上は、まだやれる。

 ―――戦える。


「うぉおおお!!」


 姿勢を低く突進する。

 両手でナイフを手元に握って体当たりと一緒に突き入れるヤクザアタックだ。

 避けるのも難しく、威力も保証された伝統の一撃をレイスはクマ太郎へ敢行する。

 

『あ@@ァア@ッ!』


 クマ太郎は爪の伸びた腕で真正面から受け止めた。

 まるで鉄の板に刃を立てたような反動がレイスの手を痺れさせる。


「ああ、ちくしょう!」


 そのままクマ太郎は無造作に受け止めた腕を振って跳ね返した。

 怪力になすすべなく、レイスはまた地面に転がされる。

 しかしもうクマ太郎も悠長はしなかった、体勢を崩したレイスに四つん這いで一気に迫ってきた。

 見た目からもうただの人食いクマの猛追と変わらない。


 観念したレイスは飛び掛かってきた大質量の爪を見上げながら静かに瞳を閉じた。


「………」


 だが、いつまで経っても引き裂く攻撃が来ない。


「……あれ?」


 レイスが恐る恐る目を開けると、あと数ミリの位置でクマ太郎の爪が止まっていた。

 怪物じみた巨体はまるで時間が静止したように微動だにしない。

 そのまま、サラサラと煙のように身体が崩れ始めるとあっという間に大気の中に消えていった。


「……、ギリギリ間に合ってくれたか。 あの二人」


 はぁー、と大きく安堵のため息をついてレイスは床に寝転がった。

 もうこんな綱渡りの戦闘は二度としたくない。帰ったら前衛を頼まなくてもやってくれるリザとアルミアに深く感謝しようとレイスは思いながら、しばしの休息を取った。

 


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