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『エレベーターで異界に行く方法・8』

 ひとまずここで話をするには危険だと考え、三人は一つ上の【上1階層】にあるセーフルームまで戻ってきた。

 ソファに腰を落ち着けながら話の前にしばしの休憩を取る。キョウカがどこからか携帯食料と水を出してきてくれたので全員で分け合いながら腹を満たし、喉を潤した。

 といってもほとんどつぐはにあげたようなものだ。彼女は携帯食料の味がクッキーみたいで気に入ったらしく、カリカリと小動物のように真剣に食べていた。その姿を見ていたレイスとキョウカが思わず餌付けに走ったという流れになる。


「さて、じゃあ……そろそろ続きを聞かせてもらっていいかな?」


「は、はい!」


 緊張したようにつぐはが頷く。

 一つ一つ、自分でも確かめるように語ったのはコックリさんにも近い“霊的儀式”にまつわる都市伝説だった。



 【ひとりかくれんぼ】とは降霊、あるいは怪奇現象を意図的に引き起こすための呪術とされている。



 多くの準備やルールがあるが、手順としては憑代としたぬいぐるみと隠れんぼをする内容だ。

 まず綿の代わりに米と赤い紐と術者の爪を中に込めたぬいぐるみを用意する。ぬいぐるみを風呂場で水を張った桶に沈め、まずは自分が鬼だと告げる。

 その場を離れて家の中の電気を全て消し、10秒数えてから再びぬいぐるみの元へ向かう。ぬいぐるみの名前を呼びながら「見つけた」と宣言して、術者は持っていた刃物でぬいぐるみを刺す。

 次にぬいぐるみの名前と共に次はそっちが鬼だと言って術者は隠れる。

 術者は隠れ場所に置いておいた塩水を持ってまたぬいぐるみを探し、見つけたら塩水をかけて「私の勝ち」と三回唱えれば儀式は終了。


 この隠れ場所からぬいぐるみを探すまでの間に様々な怪現象が起きるというのが通説らしい。

 中にはぬいぐるみが風呂場から別の場所に移動していたりする事もあるそうだ。


 で、つぐはも学校でこの噂を聞きつけ、友人たちにやってみると宣言したのが事の発端だった。

 ネットで見た情報の通りに準備はしたものの、条件の一つにある【夜中の3時に開始】という点だけは小学生の身では難しかった。

 そこで同じように魔が出る時間帯である夕方の5時で代用しようと彼女は考え、実行に移したのだという。

 あえてルールを破る方が、怪異に会いやすいかもしれないという邪推もあったらしい。


「それでどうなったんだ?」


「名前をクマ太郎に決めて……ネットの通りにやったんです……そしたら」


 ―――隠れていた押入れを出ると、そこはもう勝手知った自宅のマンションの部屋ではなかったそうだ。


 夕暮れだったはずの外の景色は夜の闇に沈み、どこの家かもわからない場所に放り出されたつぐはは震えるほど慄いた。取り返しのつかないことをしてしまったと身体の芯から恐怖に怯えた。

 それでもきっとクマ太郎を見つければ戻れると、片隅に思い出した“ルール”に一縷の望みに賭けて半狂乱になりながら部屋中を探し回った。


 だが、見つからなかった。


 きっと部屋の外に行ってしまったのだと思い至った時、もう自分はここで死ぬんだと思ったと彼女は語る。

 どれほどの絶望だっただろうかと、レイスは胸が痛い思いだった。


 ただ救いがあったとすれば、混乱の極みの中で泣き叫んでいたつぐはの元へ、声を聞きつけたキョウカがひょっこり現れたことだろう。

 ここからはキョウカから聞いた通り、エレベーターまで行って文字盤がないことを確認してクマに襲われていた自分と合流する流れだ。


「でもクマ太郎は一応見つけたことにはなるんだよな? 包丁片手に襲い掛かって来るけど。 なんとか抑え込んで塩水を掛ければ……」


「それがそうもいかなかったんすよねぇ……。 先輩と合流する前に実は一回遭遇してて、その時に塩水を掛ける方法はやったんすよ」


 つぐはは背負っていたランドセルからラベルの貼ってない500mlのペットボトルを出して見せた。

 中身の透明な水は半分まで減っている。これがつぐはの用意した塩水なのだろう。


「……効かなかったのか?」


「うす。 なので倒すより、出る方法を優先して探してたわけっす」


 なるほどな、とレイスは顎に手を当てながら考え込んだ。


「……どう、でしょう? レイス隊長」


「なんかわかんねーっすかね? 先輩。 一応、話せる情報はこれで全部っすよ? たぶん」


「たぶんかよ」


 キョウカの性格上、細かい所まで覚えておけというのは酷な話だとは思うが。

 

 レイスは頭の中に広い机を広げ、断片的な情報を並べては線で繋いでいく。

 マンションという異界に、終わらないかくれんぼの謎、先人の地図に記載された怪異たちの情報の数々……。

 しかしそれらを精査するほど、そう難しい話ではないのではないかとレイスは考えた。


「……恐らく、歩き回ってる怪物のクマ太郎とは別に、本体のクマ太郎がどっかにいるんだと思う」


 これはゲームだ。攻略する方法が必ずある。

 その前提を踏まえて本来の方法が効かない無敵のエネミーという特性から逆算すれば、歩き回っているクマ太郎は本体が操る末端や手足のような存在だと推理できる。

 

「本体、っすか?」


「ああ……、(ブレイン)というやつだな。 撃っても殴っても復活してくるタイプの奴には、大抵そういうのがいる」


 考えるに、本体はつぐはが作ったぬいぐるのクマ太郎だろう。

 体験談の中では場所こそ変わることはあっても、二足歩行で歩いていたという話はない。

 つまり本体自身は活動せず、どこかに潜んでいる可能性が高いはずだ。

 いや、動けないからこそ端末を使っているのかもしれない。


「じゃあ! その本体を見つければ万事解決っすね!!」


「確証のない経験則の話だけどな。 そもそも、これだけの部屋数を全部洗いだして本体のクマ太郎を探し当てるのは困難だ」


 上下5階層もあり、そのほとんどが一筋縄ではいかない怪異部屋だ。

 1つか2つ階層を調べただけでも、レイスの残弾が尽きてしまうだろう。


「……、どう、したら」


「そこは今、考えてる。 大丈夫だ」


「ん゛ーっ! ままならんっすね――!」


 のびーとソファの背もたれにのけぞる様にキョウカは身体を預ける。

 手持無沙汰に、親指でピーンッ!とコインを弾き上げてはキャッチし、弾き上げては……。


「それだ―――ッ!!」


「う、うぇッ!!?」


 レイスは目を見開いてソファから勢いよく立ち上がり、迫るようにキョウカの手を握った。


「なん、なんすか先輩!? 近い近い近いッ!?」


「キョウカ、手の中のやつ見せてくれ!! 早く!」


「見せる! 見せるっすからちょっと待って!!」


 おそるおそるキョウカはコインを握っていた手を開いた。

 コインの正体、それは銅色に光る十円玉だ。

 斧男の部屋で拾ったものをそのまま持って来たのだろう。


「な、なんすか……十円なんて珍しいもんじゃないっすよ?」


「いいや珍しいさ、俺たちの使ってる通貨は“ドルセント”だからな」


 レイスは十円を指さして言う。


「これはれっきとしたキーアイテムだ」


 繋がった、とレイスは不敵に笑いながら呆気に取られるキョウカの手の中から十円を拝借し、すぐに地図を広げた。


「なにか……わかったのレイス隊長?」


「そ、そうっすよ! なんすかその活き活きしたスマイル! ちょっとドキッとしたっすよ!?」


 何がドキッとしたかよくわからないが、つぐはの言葉には頷いた。


「本体を見つける方法がわかった」


「ええッ!?」


「ホント!?」


 レイスはスッと指先で地図をなぞり、下5階層の部屋をトントンと叩いた。

 公衆電話の部屋と記入したあそこだ。


「“さとるくん”に聞きに行く」


 怪異には怪異を、だ―――。




※※※




「ホントに大丈夫なんすか……?」


「24時間以内には電話は掛かってくるはずだ」


「気がなげーっすよ……」


 そろそろ、馴染みの店のような親近感すら湧いてきた階段を駆け下りながらレイス達はさっそく下5階層まで戻ってきた。

 クリアリングを手早く済ませながら、公衆電話の部屋へと滑りこんだ。


 相変わらず赤い照明が不気味だ。

 部屋のど真ん中に鎮座している電話機もまるで来るのを待っていたようにも見える。


「キョウカは彼女を見ててくれ、俺が電話をかける」


「……うっす」


「気を付けて……レイス隊長」


 キョウカの服を掴んで隠れながら、つぐはが心配そうに声を掛ける。

 レイスはサムズアップで応えなら、公衆電話の前に立った。


 緑の箱型の電話機。

 今となっては博物館に展示されているような代物だ。


「では、失礼して……」


 ガチャリと受話器を上げて耳に当てながら、十円を投入口に入れる。

 そのままサイシーバーに登録されている自分の番号を、間違えないように気を付けながらプッシュした。


 当然、手元のサイシーバーに非通知で電話が掛かってくる。

 もう片方の手で通話のボタンを押して、レイスは回線を開いた。


 ―――風の音が聞こえる……同時に、誰かの息遣いも。

 もちろんレイス自身のではないし、後ろの二人でもあり得ない。

 だが、誰かがいる。


 レイスは短く息を吐いて、慎重に口を開いた。




「“さとるくん、さとるくん、おいでください”」




 ガチャン、と十円が使い切られたのか電話が終わった。

 レイスは肩をすくめて、ツーツーと無機質に鳴り続ける受話器を元の位置に戻した。


「どうだったっすか?」


「わからん、たぶん上手くいったと思うが……」


 そうレイスが呟くのと、サイシーバーが通知を知らせるコール音を鳴らすのは同時だった。



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