“シューティングレンジ”
パンッ!パンッ!パンッ!!と乾いた銃声と共に薬莢が舞い踊る。
放った弾丸は狙い通りとは行かないまでも人型に成形された的には命中した。
「うーむ」
レイスは手元で弾切れになり、スライドが引き切った状態で止まったXDM4.5から弾倉を落とした。新しい弾を込めながらどうにも納得いかないように首を捻る。
デルタレッドホテルの一区画に店を構える掃除人専門の武器屋『ナイトアーモリー』。
レイスはその店と隣接した場所に設けられた射撃場で拳銃の訓練を行っていた。小さなブースからレーンを流れる的を撃っていく簡単なものだが、銃を撃つ感覚を手に馴染ませるのにこれ以上のメニューはない。
「何やらお悩みのようですね、レイス様」
「うお!? 驚かさないで下さい……ジョナサンさん」
足音を消してレイスに近づき、そっと声を掛けてきたのはパリッとした礼服に身を包んだ身なりの良い老紳士、ジョナサンだった。イタズラが成功したのを喜ぶようにニコニコと笑っている。
彼は『ナイトアーモリー』を訪れたお客に武器の紹介やアドバイスを行う“ウェポン・ディーラー”を務めている。その豊富な知識に加えて彼自身も戦闘のスペシャリストらしく、リザが銃の撃ち方を師事した程の傑物だ。
「メインのアサルトライフルより先にサイドアームの訓練ですか。 ご購入頂きましたAK-12はご不満でしたかな? クーリングオフはまだ受け付けておりますが」
「いえ、逆ですよ。 AKは良すぎるくらいに使えるんですが、拳銃がどうにも上手くいかなくて」
両手と肩の三点で支えられるライフルと比べて、右手と左手を重ねて構えるだけの拳銃では当たり前だが安定感が違う。反動は決して強くはないものの、撃った時の跳ね上がりから再照準までどうしてもまごついてしまう。
きさらぎ駅ではそのせいで巨頭オの接近を許し、リザにカバーしてもらう場面が何度かあった。
「ふむ、レイス様はしっかりと狙いを合わせてから“当たる!”と思った時にしかトリガーを引かないクセがありますからねぇ……。 丁寧なのはよろしい事ですが、やはり攻撃まで遅いと言わざるを得ません」
「……もしかして撃ってるとこずっと見てました?」
「はい、すぐそばで拝見させて頂いておりましたが?」
全然気付かなかった。忍者かこの人は。
「スプリングフィールドXDMは確かに素晴らしい銃ですが、今のレイス様とは少々相性がよろしくないかもしれませんね。 弾数を重視した9mm弾仕様が基本モデルになりますから」
「ただの説明テキストかと思ってましたけど、その9mmとかの弾の口径ってもしかしてかなり重要なステータスだったりします?」
「はい、銃の特性に直接かかわります」
ジョナサンの説明によれば各銃器にはそれぞれ基本となる使用弾薬が設定されており、その弾種によって銃の性能が大きく変わってくるのだそうだ。
例えば今の9mm弾なら威力が控えめな代わりに貫通力が高く、硬い敵にも効果的にダメージを与えることが出来る上にスリムな形状のおかげで装弾数が多くなるという特徴がある。
ただ控えめな威力を手数でカバーする必要があるため、レイスの撃ち方では効果が薄いとジョナサンは意見を述べた。
もちろん気に入らなければ銃のカスタマイズで使用弾薬を変更し、そのステータスをガラッと変える事は出来るらしいのだが、それなりのお値段も掛かるようだ。
「ただ銃の種類によっては装填する弾の規格を変えられないものもございますがね? サブマシンガンの【P90】などが代表的でしょう」
「なるほど……」
ジョナサンは身振り手振りで解説しながらスルリとレイスから離れると、ブース近くの壁に掛かっていた自動拳銃を一丁取り出した。スライドを引いて薬室に弾が入っていない事を確認し、手慣れた丁寧な手つきでレイスへと差し出す。
「それは?」
「はい、ドイツのヘッケラー&コッホ社で2006年に開発されました【HK45】という自動拳銃です。 基本の使用弾薬は.45ACP弾。 9mm弾と比べて弾のサイズが大きく、強力な打撃力を有しております」
受け取った銃のステータスを開くと、確かにXDMと比べて威力が高く設定されていた。
その代わりに安定性や連射性能が少し低くなっており、反動が強い事がうかがえる。
「打撃力というと……」
「はい、貫通力はさほどですが命中した相手にかなりの衝撃を与えて怯ませることが出来ます。 端的に言えば“当たれば強い”弾丸でございますね。 制御には少々訓練が必要ですが、数発当てるだけで敵の足を止める威力を発揮いたします」
「おおー」
レイスは感心したように声を漏らす。
確かにそれほどの威力ならば次弾を狙って撃つまでの猶予を作れるかもしれない。
改めてじっとHK45を眺める。
全体的な角ばった印象はXDMと共通しているが、斜めに切り取られた先端部分が特徴的だ。持ち感はよりガッシリしている無骨なスタイルで.45ACP弾にもしっかりと耐えうる剛性を整えているように見える。込める弾倉が大きいせいか、グリップの握りに少々幅があるものの指の形に整えられたフィンガーチャンネルのおかげで収まりに違和感はない。上部の三点ドットから覗くサイトも視認性が高く、対象にピッタリと狙いを合わせるのに向いていた。
銃身下にはレール部分が設けられており、XDMに取り付けていたライトもこちらに使用できるだろう。
まさに、闘う男の銃といった感じだ。
「装弾数はサイズの大きい弾を使用致しますので10発と少ないのですが―――こちらをどうぞ」
ジョナサンが差し出したのは底の部分がわずかに延長され、装填した時に手の皮を挟まないようにカバーが取り付けられた弾倉だった。
「13発まで装弾数を上げたオプションの延長マガジンです。 流石にXDMの19発よりは劣りますが、使い勝手は良くなると存じ上げます」
「………」
これはリザがパーフェクトだと言うのも頷ける。
どこまで至れり尽くせりなんだ。
「い、いちおう買うかどうかは撃ってから決めていいですか?」
「もちろんでございます。 ついでに撃ち方もレクチャーいたしましょう。 ほっほ、なにちょっとしたサービスです」
お茶目な笑みと共にウィンクするジョナサンはこちらが思わず動揺してしまうほどバシッと決まっていた。
これは女子ならハートを撃ち抜かれてるところだろう。自分でも危なかった。
「では、300発くらい試射と参りましょう! 本番の授業はそれからで」
「Oh……」
しまった、油断した……。そういうとこはガチガチのガチだったこの人。
若干の後悔を覚えながらレイスは催促されるままにHK45に弾倉を装填し、的に銃口を向けた。
ひとまずリザとアルミアの待ち合わせに間に合うよう、なんとか頑張ろうとレイスは思った。
お待たせしました。
次話より次のステージです。




