現実の少年は名声に驚く
きさらぎ駅の戦いから三日。
なんだかんだ家事やバイトもあってダークスイーパー・オンラインにログイン出来ていなかった光太郎は今日こそはプレイしようと早めに皿洗いや洗濯物を片付けていた。
そんな忙しくしている所にバタバタと走ってくる聞き馴染んだ足音が聞こえてきた。
十中八九、妹の明里だ。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」
「はいはい、お兄ちゃんだけど?」
肩で息をするように興奮した様子でやってきた明里はズイッと光太郎の前にホロフォンを突きだした。
何だろう?と思いつつ、開いているページに目をやると最大手の動画サイトの画面が浮かんでいた。
「なんだ? 動画配信でも始めたのか? いいだろう、記念すべき再生数1回目はお兄ちゃんが貰い受けるぞ」
「そんなわけないでしょ! よく見て! これお兄ちゃんでしょ!?」
「ん~?」
ホロフォンを少し離してもらって改めて浮かび上がる投影画面を確認すると、なるほど確かに自分のダークスイーパー内のアバター“レイス”だ。
ちょうどAKをぶっ放しながら巨頭オと戦っている。
「………いかにも。 よくわかったな、妹よ」
「フフン、前髪で目元隠しとけばバレないなんて甘いよお兄ちゃん。 何年一緒にいると思って……、いやそこじゃなくて!!」
ココ↑と全力を主張するように明里は再生数を指さした。
そこには驚くべきことに10万再生を越える数字が並んでいた。しかもまだけっこうな勢いでカウンターが回っている。
「へー、イーサンさんすごいな」
「感想ゆっるッ!! お兄ちゃん事態が全然わかってないよ! 今、お兄ちゃんは有名プレイヤーの動画で主役を食う勢いで活躍しちゃったんだよ!?」
「活躍したのはリザなんだけど……、ほらコメントでもそう……。 ん? 有名プレイヤー?」
ギャーギャー騒ぐ明里の主観と疑問符を浮かべる光太郎の認識でけっこうなズレがあった。
このままでは埒が明かないので、とりあえず二人は情報を擦り合わせながら改めて動画を再生する。
「……そうなのか、イーサンさん達ってそんなに知名度あるのか」
「そうだよ! ムービーアクションVRゲーム『スパイ・フィクション』のイーサン・ランドっていったらその広告収入で車が買えるってくらいの人なんだから! 逆にお兄ちゃんはなんでそんな人とプレイ初日に遭遇してるのかわかんないんだけど!」
「俺もわからん」
驚くべきことにイーサンはVRゲーム内で映像作品を作るシネマティックプレイの第一人者らしい。
通常こういった動画は何度もクリアして慣れたステージなどで進行の流れやセリフを全て整え、敵の動きやギミックを理解し切った魅せプレイをしつつ撮影していくものだ。というか、普通にドラマや映画の撮影をするならそのやり方が正しい。
しかしイーサン達は初見かつキャラロール優先の体当たりプレイで撮影に挑み、あろうことかそのまま一発クリアし続ける荒業を成し遂げているらしい。映像のカメラアングルやBGM、見せられないカットなんかは流石に編集しているようだが、それを差し引いても一からぶっ通して撮り切ったとは思えないほどの作品クオリティが人気の秘訣なのだそうだ。
初見は嘘だとか、クリア出来るステージだけ狙ってやっているとか斜に構えた意見が出た時はリスナーから募集したステージをランダムに選び、生放送で突破してみせるスーパープレイもやってのけたらしい。
その時の展開されたドラマも一級映画に迫る熱量があったとかなんとか。
今まではその『スパイ・フィクション』というゲームで核攻撃やバイオテロを防いで世界を救ったりしていたようだが、今回から新シリーズ開始という形で『ダークスイーパー・オンライン』にやってきた経緯だという。
余談だが、初見という事もあってかなりの勢いで周りの味方が死んでいくのだがイーサンだけは何故か必ず生還するので【主人公補正さん】とか【絶対にシリーズ続けるマン】とか【不死身の男】とか【歩く死亡フラグ】とか多くの異名がついていると明里は語った。
散々な言われようだなと光太郎は思った。
「だからほら見て。 お兄ちゃん達は今作の新キャラみたいな感じで受け取られちゃってるんだよ。 めちゃめちゃ目立つし!」
そりゃあ、不良少女とシスターと民兵だもんな。
「いちおう確認だけど……、動画に出たのはたまたまなんだよね?」
「たまたまだぞ? 特にそういう出演交渉とかは貰ってないし、次も出るなんて話もしてない」
今のところは、だが。
光太郎は顎に手を当てて動画のコメント欄を眺める。
書き込みを見る限りではやはり、リザとアルミアの容姿や性格に肯定的な意見が多い。
リザに関して言えば「戦ってる時の顔がイケメンすぎて心臓破裂した」 「あの不機嫌顔で罵られたら秒で昇天できる」 「驚いた時とかのとっさの表情はちゃんと“女の子”って感じでギャップで死ねる」など大量に死亡報告がされていた。……いや、死に過ぎだよ君ら。
アルミアについては「シスターのお姉様」 「太もも」 「ナイスバスト」 「あのショットガン欲しい」と女性らしき書き込みも含め右に左に手広く感想が交わされていた。うん、気持ちはとてもよくわかる。
「お兄ちゃんは『死ね』としかコメントされてないね」
「そうだな。 同じ立場ならお兄ちゃんもそう思うから何も言えない」
リザをキャッチしたりアルミアを俵持ちしたのだ。甘んじてその誹りはこの身に受けよう。
戦闘中はそんな意識は向いてなくて必死だったとだけ弁解させて貰いたいが……。
「やーでも、お兄ちゃんのフレンドさん強いね!」
「ああ、俺もなんでここまでの人材が集まったのか不思議なくらいだ」
「うん、二人で私と互角くらいだと思うよ。 良かったね!」
「逆にどういうこと? それ」
「え、私の方が強いってことだけど?」
「―――左様で」
深くは追及しない方がいいだろうと、光太郎は動画に集中する。
動画内ではもろもろの感想を上回る量で彼女たちの戦いぶりが絶賛されていた。
やはり一般的な視点から見てもあの二人の立ち回りは凄まじいようだ。ゲーム内では自分も戦ってるだけあってなかなかハッキリと見た事はなかったが、こうして映像で確認すると改めて驚かされる。
重ねてイーサンの編集力も相まってド迫力の戦闘シーンに生まれ変わっていた。演出の一匙でこうも印象が変わるのかと光太郎は感心しきりだった。
「とりあえずいろいろと安心したからいいけどさ、お兄ちゃんは横に置いておいてリザさんとアルミアさんのことは気にかけておいた方がいいよ? 有名なのをいいことにちょっかいかけてくる奴はどこにでもいるから」
「経験談か?」
「そんなとこ!」
「困った時はお兄ちゃんがいつでも相談に乗るからな」
「ふふ、サンキュー。 でも大丈夫だよ? ちゃんと黙らせたから!」
東京湾に沈めたとかそういう話じゃないよな妹よ。
にこやかな表情でホロフォンを見つめる明里は心なしかさっきより機嫌が良さそうに見えた。
「……で、お兄ちゃん。 このヒロインっぽいツンデレ金髪八重歯ロリとはいい感じなの?」
「いや、言い過ぎだろ」
興味津々といった明里の追求をかわしながら、光太郎は家事を再開した。




