『きさらぎ駅・終幕』
「……つ、疲れたぁ」
「………だな」
「うーわ、ボロボロだにゃあ。 レっちゃんもリザっちも」
ホテルに戻って外観こそ綺麗になったものの、リザとレイスは魂が抜けたように【ARTEMIS】のカウンターに突っ伏していた。
あれだけ『きさらぎ駅』でヤマノケや巨頭オに追いかけられ尽くせば嫌でもこうなる。
「そうですよ~? 元気出してくださいレイスくんにリザちゃん。 若者は元気が取り柄なんですから~。 あ、チェシャさん! 私はカクテルをお願いしますね~、オススメとかあります?」
「はいにゃー。 ちょうどアルミーにピッタリのがあるにゃー」
さも当たり前のようにカウンターに座り、ニコニコ笑顔で注文をするシスターがそこにいた。
今は頭巾を外していて、流麗なウェーブのかかったセミロングの銀髪がよく見えている。
「いや、なんでアルミアさんいるんですか」
レイス達がいる【ARTEMIS】はちょっと一般の人とはつるめないようなクセの強いプレイヤー達を収容する隔離サーバーだ。あの手この手で再教育を施し、トラブルを起こす迷惑プレイヤーにならないよう更生させるために機能している。
そこに何故かアルミアが新たに加わっていた。
「ひどいですね~? 死線をくぐりあった仲じゃないですか~。 こうしてフレンド交換もしましたし。 私達はもう、さみたいと言っても過言ではありません」
「三位一体を略さないで下さい、死ぬほどわかりづらいですから」
「うーむ、鋭い~。 今回も正解です~」
あの『きさらぎ駅』の戦いの時にイーサン達のチームとアルミアにはフレンド登録を投げていた。
全員から快くOKを貰い、今のサイシーバーの友達登録人数は五人まで増えている。
「んで? ただ飲みに来たわけでもねーんだろアルミア」
「ええ、よければ今後もリザちゃん達と一緒に戦わせてもらえないかと交渉にうかがいました」
「おう、いいぞ」
結論が速いよリザ。
「いやいやいや、なんでまた? 俺達よりいいチームなんていくらでもいるでしょ?」
「だって他はつまらないんですよ~。 リスク回避とか言って淡々と遠距離から敵を処理するんですよ~? おまけに駄目だと思ったらさっさと引き上げちゃうし。 その点、リザちゃん達は最後まで無茶苦茶するのでとっても楽しめます~!」
グッと両手を握ってアルミアは全身で喜びをアピールしている。
とんでもないのに目を付けられたなとレイスは頭が痛い気分だった。
「繰り返すけど、あたしは構わねーよ。 アルミア普通に強いし」
「ほら~、チームリーダーからのお墨付きですよ~? どうですかレイスくん? それとも私ではお嫌ですか?」
「い、嫌とは言いませんよ! そりゃあ俺だって嬉しいですけど……」
なんか企んでそうなんだよなぁ。
相変わらず表情からは何を考えてるかサッパリ読めないし。
「ええ、重いと言った事を後悔させてやろうなんて全然考えてませんよ~?」
「純度100%で復讐に来てるじゃないですか」
それにあれはシステム的な問題だ。自分に否はない。
アルミアがリザと戯れている内に、こっそりチェシャがレイスに耳打ちしてきた。
「レっちゃんに説明しとくとアルミーは元々“ここ”行き候補、イエローカードだったにゃ。 タイミングよく二人に会って意気投合したみたいにゃから、試しに聞いてみたら二つ返事でOKだったにゃ。 んで連れて来たにゃ」
どっちにしろ隔離行きかよ。
「でもいいチームになると思うにゃあ?」
「まぁそれは否定しませんけど……」
あの『きさらぎ駅』での戦いは大変だったが楽しかった。
ニヤつくチェシャから目を逸らすと、リザとアルミアの二人がじーっと訴えるように視線を向けてくる。
「わかった、わかりましたよ。 ―――アルミアさん、時間合う時でいいんで俺達とまた掃除人の仕事を手伝ってもらえますか?」
「はい~、もちろんです! この不肖アルミア、微力ながらリザ・パラベラムの一味として誠心誠意お手伝いさせて頂きます~」
一味って言うな。
「話はまとまったにゃ? じゃあお待ちかねの報酬タイムにゃー!」
チェシャがパンパカパーン!とファンファーレを鳴らすように両手を上げて宣言する。
三人はデルタレッドホテルの会員証を提出し、スイーパーランクの更新を行った。
今回はデイライトクリアではなかったようなので加算される量もほどほどだ。だが高難易度という事もあり、レイスはランク7まで上がっていた。
リザとアルミアもそれぞれ1づつ上がってランク13とランク14だ。
報酬の30万ドルセントも所持金に追加され、ようやく懐が潤った。
もっとも異界に捨てて来た装備のせいで支出が大幅に出てしまったのが手痛い。
流石に全額そのまま買い直しさせるような鬼畜な仕様ではなく、購入金額の半分で同じアイテムを取り戻せる保険システムが用意されていた。
ただ安くはない。安くはなかった……。
これにリザへの返済分を計上するとまたスカンピンに近い数値まで所持金が下がる。
(よし、返済は先延ばしにしてもらおう)
レイスはそっと現実を見ないことにした。
「これで新しい銃が買えます~。 どんな装飾にしようか迷いますね~」
「見た目より性能だろ? あたしは強化とガンパーツ探しだな」
と、女子二人は物騒な会話で盛り上がっている。
不意にピリリリとレイスのサイシーバーが鳴った。誰だろうと端末を取り出すと、イーサンからのフレンドコールだった。
さっそく、通話を繋げてサイシーバーを耳に当てる。
「もしもし、レイスです」
『ああ、レイス君! さっきはありがとう、ひとまず代表者としてキミに連絡したんだが、リザ嬢やシスターアルミアも近くにいるのかい?』
「ええ、みんないますよ。 どうやらそっちとはホテルのサーバーが別だったみたいですね」
『残念だがそうらしい、ビッグマンもスカーレルも会えなくて残念がってたよ』
『ここにはいるけどな! レイス君、よく生還した! ご苦労さん!』
『アルミアに謝っといてねー、あの時はつい近くにいたから撃っちゃったのよー』
元気な二人の声が通信機越しに聞こえてくる。ロールはしていない素の声のトーンだ。
というか乗っ取られた時も操作はそっちがやってたんかい。
「わかりました。 今日は楽しかったですよ、皆さんもゆっくり休んでくださいね」
『ああ、動画も最高の画がたくさん撮れたからね、大いに期待しててくれ!』
そういえばそんな話もあったなと遅まきながらレイスは思い出していた。
きさらぎ駅に向かう道中のアレコレで完全に頭から飛んでいた。
「はい、よろしくお願いします。 といっても希望を出したのはリザなので、リザが目立つような感じでまとめて頂ければ」
『任せてくれ、最高のエンターテイメントに仕上げて見せよう。 私も彼女の戦いぶりには感動しっぱなしだった! どうしてあれで無名だったのか不思議なくらいだよ』
それはそうでしょうね。
今までほとんどソロでしか戦ってないし、隔離サーバーで人目に触れる事も無かっただろうし。
『シスターアルミアも最高のキャラクターだっ! 彼女は人気が出るぞ、私にはわかる!』
「さ、さいですか……」
なにやらイーサンのテンションがどんどんヤバイ方向に上がっている気がした。
とりあえずこれ以上は話が長くなりそうだとレイスは判断し、お礼もそこそこに通話を切った。
「今のはイーサンか?」
「ああ、動画の編集頑張るってさ。 投稿したら連絡くれるって」
「ん、了解」
「楽しみですね~、レイスくんがサムズアップを掲げながら溶鉱炉に沈むシーン」
「そんな感動の場面ありましたっけ……?」
三人で雑談しながら次の集まる日時を決め、レイスはゲームをログアウトした。
驚くほど濃い一日だったが、レイスはようやくダークスイーパー・オンラインのプレイ初日を終えたのだった。
【きさらぎ駅】
2004年1月8日に2ちゃんねるに投稿された書き込みが発端。投稿者のはすみが存在しない無人駅に迷い込んでしまった所から始まる一連の不可解な事件。4時間に渡る掲示板のやり取りの末、はすみからの書き込みが途絶えた。以降、様々な異界駅に迷い込む報告がされるようになり、ネットロアの先駆けと言われるようになった。
【巨頭オ】
2006年2月22日に洒落怖掲示板に投稿された怪談。車で旅館に向かっていた投稿者が「巨頭オ」と書かれた看板を見つけ、不思議に思って先に進んでみると廃村に辿り着く。そこで頭がやたら大きい人間のようなものが周りを囲むように現れ、急いで逃げたという話。
【ヤマノケ】
2007年2月5日に洒落怖に投稿された怪談。車に同乗した娘を怖がらせようと暗い山道を走っていると、急にエンジンがエンストしてしまう。途方に暮れていた所にふと、白いのっぺりした何かが、めちゃくちゃな動きをしながら車に近づいてくるのが見えた。ウルトラマンのジャミラみたいなシルエットで一本足でケンケンしながら向かってくる。それは「テン、ソウ、メツ」と音を出しながら歩き回り、やがて姿を消すと投稿者の娘に取り憑いた。住職に祓ってもらうよう取り計らってもらったが、娘はもう娘じゃないみたいな顔になってしまったという話。




