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二回戦14

 光が私達を包み込む。

 「……ぐっ」

 その中で、私は自分の身体から力が抜けていくのを感じた。

 そしてそれと引き換えに現れる痛みと疲労。試合終了と同時に、それまでツケにしていたそれらが一度にやってきたようだった。


 「はぁ……はぁ……」

 肩で息をしながらしかし、光が消える頃には既にそれらも無くなっている。まったく便利な技術だ。

 そして光が消え去った後、試合前と変わらない体に戻った私は立ち上がり、既に同じく復活していた相手に、彼女がそうしているように手を差し出して握手を交わした。


 「とても楽しい試合でした」

 そう言ってかたく手を握る相手。

 「ええ。こちらこそ」

 そう答えながら、私の中にはある疑問が浮かんでいた。

 ――何故、私はこんなにも試合を楽しいと思ったのだろう?

 当然と言えばそうなのだが、現役時代から楽しいと思ったことはある。というか、楽しくなければ続いていない。少なくとも試合が苦痛であれば。

 だが、今日のように強烈な喜びや興奮は初めてだ。同じような感情は何度か抱いたことがあったが、今日ほどそれを鮮烈に感じた事は無かったのだ。


 そして握手を交わしている彼女についてもまた不思議だった。彼女は一体どうして、あそこまで楽しそうに試合をしていたのだろうか?

 勿論、私が楽しかったのだから彼女だけがそうでないと考えるのは不自然だろう。何しろ実際に試合中の彼女は楽しそうに笑っていたのだから。


 「……貴女、随分と楽しそうに試合をなさるのね」

 思わず口を突いたのは、そういう疑問が積み重なった結果だった。

 「え……」

 彼女は一瞬だまり、それから試合中のそれとは違う、本当におかしそうな表情を浮かべて笑った。

 「そうかしら。でも、貴女程ではないわ」

 どうやら私も顔に出ているらしい。


 そんなやり取りを終え、私は試合場から降りる。

 今日の試合はこれで全て終わり。

 今日は勝った。あと残すは二回。今後行われる準決勝と、その勝者同士がぶつかり合う決勝=御前試合だけ。


 ようやくここまで来た。

 「「ハンナ様!」」

 試合中に、というよりダウン中に聞こえた声によく似ている二人の声が観客の間から聞こえてきた。

 「おめでとうございます!」

 そう言ってくれた二人の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


 「ありがとう。でも、どうしてあなた達が泣いているの?」

 その問いに食いついたのはミーアだった。

 「それは――」

 しっかりと、もしかしたら今しがたの試合終わりの握手よりも強くしっかりと私の手を握る。

 「だってあの時、もうここで終わりだと、このまま負けるのではないかと……」

 どのタイミングの事を言っているのかはしっかり伝わっていたようだ。

 そして彼女が言っているのは試合のどのタイミングなのかはしっかり私にも伝わっていた。


 「大丈夫。負けたりしませんわ」

 自分ではそう言いながら、自分自身のハードルを上げてしまったかもしれないと考える。

 まあ、いい。どうせ負けられやしないのだ。

 私は勝つ。あと二回も全部勝つ。

 先程試合中は負けてもいいという結論に達したが、勿論勝っている方がよほどいい。

 没落回避のための戦い。ようやく出口が見え始めたこの戦いは、しかし、もう私一人ではない試合であるという事を実感しながら、ミーアにもう一度笑いかけた。

(つづく)

今日は短め

続きは明日に。

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