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二回戦11

 試合再開。再び構え越しに睨みあう。

 奴が一歩動き、私が二歩近づく。


 「……」

 間合いを詰めながら時折体を振って挑発を試みるが、流石に乗っては来ない。

 (なら構わない。そっちが動かないなら)

 今度はこっちから行くまでだ。


 「シャッ!」

 奴の間合いを踏み越え、それに応じてくるより速くジャブ。

 直ちに引き、直後に起こりの見えたタックルを捌いてミドルを蹴る。

 反撃に奴の拳が飛んでくるが、見切れない動きではない。スウェーして躱しカウンターを入れていく。


 (やはり、打撃なら……)

 奴の動きは見えている。

 例え受け流されているとしても確実にこちらのペースに持ち込んでいる。

 「ちぃっ」

 そしてその流れにしびれを切らしたか、奴は強引にでも組みつく方を選んできた。


 「ッ!」

 やはり餅は餅屋だ。こっちは躱すのには早すぎる。

 かくなる上は一度受け止めてから捌くしかない。しっかり腰を落として突っ込んでくるのを受け止める。

 「ぐっ!?」

 衝撃に息が詰まりそうになりながらも、何とか崩されずにとどまった。

 その状態で全身をセンサーにする。皮膚の感覚で相手の力を読む――と言ってもオカルトな事が出来る訳ではない。ただ、相手の力の向きに集中するだけだ。


 「ぐぅっ」

 「くっ……」

 押し切られそうになりながらもなんとか押し返す。とは言えここは相手の土俵だ。崩されないように、馬鹿正直にはやりあわず、しかしラグビーのスクラムのように押し負ける事のないように足のポジションを変えつつ応じる。

 「ッ!」

 一瞬だけ生まれた拮抗。

 その瞬間、奴の押し潰そうとする力が強まる。


 (ここだ!)

 それはまるで相撲だった。

 その力に抗いきれずに押し潰されそうになる直前、奴の後頭部に手を伸ばし、その押しこみに合わせて足を浮かせるのと同時にはたき込む。


 「!?」

 勿論それだけで上手く崩れてはくれない。

 相手の方が力があるしガタイもいい。更にこっちは奴の得意だ。

 だが、一瞬動きを止める位にはなる。


 「はぁっ!!」

 そしてその一瞬、私の方が早く体勢を整えていた。相手に飛び掛かる体勢を。

 奴の横をすり抜けるように跳ぶ。逆上がりの助走をつけるような動きで。

 そのまま相手に支点として触れている腕を首に絡ませて奴の背中へ。ちょうど背負われている形にして首に腕を巻きつけていく。

 「がっ!?」

 それが何を意味するのか、奴は流石に気付いたようだが、それでもまだ私の方が速い。


 チョークスリーパー。

 両足を奴の胴体に巻きつかせて体を密着させる。


 「かっ……くっ……」

 私を乗せたまま立ち上がり、よろよろと拘束から逃れようとするが、それでも私は放さない。私の意思でこれを解くのは、奴がタップした時か落ちた時だけだ。

 「こっ……の!」

 しかし敵もさるもの。ノミで削っていくように、隙間を広げて引き剥がさんと奴の肘が私の脇腹に突き刺さる。

 「くっ」

 「あああっ!!」

 何度目かの肘のあと、僅かに出来た隙間を広げるように体を動かすと、絞めている私の腕を遂に奴が掴んだ。


 (ここまでか……)

 咄嗟に足の拘束も解き奴に逆らわず前に投げられる。

 肩、背中と着地し、臍を見るように丸まって転がると、その勢いのまま立ち上がって振り向く。幸い大したダメージはない。


 「シュッ!」

 「ぐっ」

 起き上がりざまに放たれたミドルキックを両腕で受け止め、同時に小さく踏み込んでいく。何が起きるのか奴も理解したようだがそれより私の実際の動きの方が速かった。

 「シャァ!」

 何度も打ち込んだローを改めて軸足へ。

 その瞬間、奴の表情が歪み、動きが一瞬止まる。

 やはり効いていない訳ではない。その体に相応しいタフネスで耐えてはいるが、それとて無限ではない。雨が岩を穿つ例えを出すまでもなく、重ねてきたのは無駄ではなかった。


 (なら……っ)

 動きが鈍る攻撃をしないでいる手はない。更にもう一発。今度はまた動こうとした出端を潰していく。

 「ぐっ……」

 間違いなくダメージは与えている。

 なら、もう一度、いやもう一度と言わず、嫌になるまで打ってやる。

 「シィ!」

 追撃の一発はアキレス腱やや上にヒット。同じ場所を狙ったが、相手が回避しようと動いたためだ。

 (読んできたな……)

 同じ軌道でもう一発――と見せかけて急停止。だが、相手の意識は完全にローに言っていた。

 ――ここだ。


 「シャアッ!!」

 一気に右足を跳ね上げる。ローに意識が行ったのなら、それはハイを打てという合図だ。

 それまでの相手の肩すれすれを通って最短距離を狙うのではなく、一歩多く踏み込んだ上で、より大回りに、奴の身体を避けるように蹴り足を上げていく。


 「ッ!?」

 奴が気付く。

 その瞬間に、恐らく今までのように跳ぶ準備は出来ているのだろう。

 ――だが、そうはいかない。


 「ぐっ!!」

 奴の後方に回り込むような軌道をえがき、元板場所に戻るように蹴る。

 大回しの蹴りがその湾曲の終点=奴の首に後ろから食いつく。

 一口にハイキックと言っても単純ではない。恐らく、奴は私が横からこめかみ辺りを狙ってくると考えていたのだろう。

 だから跳ぶ方向は横。或いは前から来れば後ろ――その考えがあった時点で私の蹴りは決まったような物。


 避けられまい。正面の相手に後ろから蹴られては。

 大回りに、後ろに回り込むように蹴ったのはこのためだ。

 奴が止まる。跳べなければ100%で意識の外から貰う蹴りだ。それがヒットしたのだ。


 結果、奴は止まった。私が蹴り足を下ろしてもまだ。


 「シャッ!!」

 続けざまの右ストレート。更に左フック。続けて右アッパー。全て顔面。顎を狙って揺さぶりにいく。

 逃げようとして後退するが、それで逃がす訳もない。追いかけて詰めていき、更に打ち込んでいく。

 「ぐっ……」

 アッパーが突き抜けたところで、奴の膝が遂に折れた。

 片膝をついた姿勢。目の前にある頭。狙わない道理はない。


 「これなら……ッ」

 咄嗟にその動きを思いついたのは、本当に単純な連想ゲームだった。

 目の前にレスラーがいて、片膝をついている。そこから得られた発想=その片膝を踏み台にする。


 「はぁぁっ!!」

 左足で膝を踏み、駆け上がるようにして右膝を突きだす。

 至近距離での、前に飛び出す勢いをそのまま載せた膝蹴りは、外れることなくしっかりと奴の顔面を正面から捉えて吹き飛ばした。


 「……お株、奪わせて頂きましたわ」

 どよめきの中に着地し、崩れ落ちた奴に告げる。

 シャイニングウィザード。まさか人生で実際に使う日が来るとは思わなかった。

(つづく)

今日はここまで

続きは明日に。


なお、明日も同じ時間に予約投稿を予定しております。

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