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二回戦9

 「くぅ!」

 振りほどこうと抵抗を試みるが、その動きに更に加速がかかる。

 下に振ろうと上がった腕に力を入れた瞬間、私の手首を握っていたのとは反対の奴の手が二の腕を押さえにきた。


 (まずいっ!!)

 咄嗟に力任せに腕を体に引きつけ、その動作によって腕を下ろす。

 一教。ミーアに習ったものの実戦投入する機会の無かった技。もし教わっていなければ、ここで終わっていたかもしれない。


 「このっ!」

 奴の足を蹴り、無理矢理に拘束から逃れて距離を取る。

 再度正対。背中に冷たい感触が走る。


 (プロレス技だけじゃないのかよ)

 恐らく投げや関節の類なら私よりも知識も技量もあるだろう。

 小手返しは封じられ、一教は逆に使われた。やはり奴に関節で挑むのは無謀だ。


 「シャアアアッ!!」

 「!!」

 そんな恐怖や焦りですらも、奴は与えようとはしない。

 正対するや否やの再突入。先程までより速いそれに咄嗟に構えをとる。


 「ハァッ!」

 放たれたフライングニールキックを紙一重で受け止めるが、スピードの乗ったそれは尋常な衝撃ではない。

 「ぐっ!」

 思わず後ろに吹き飛ばされ、ガードが崩れる。

 (まずい!)

 咄嗟に構え直す。奴からすれば追撃する絶好のチャンスだ。

 ――だが、来ない。


 「ハッ」

 そう、来なかった。思っているような攻撃は。

 着地の直後、というよりその瞬間から奴がしたのはブレイクダンスのような動きだった。

 地上で高速回転し、足と頭の位置を変え、そしてその勢いを全く殺さずに水面蹴りに移行して私の足を持って行った。


 「あっ」

 完全に予想外の攻撃。

 思わず漏らした間抜けな声は、無様についた尻餅の瞬間にこぼれた。

 高速で下から上に動く世界。その向こうにそびえ立つ奴。その奴が、私の足に飛びついてくる。


 「!?」

 何をされるのかは直感的に理解した。

 だが、その直感よりも奴の動きが僅かに速い。

 私の左足は奴の右腕の脇の下に取り込まれている。

 「ちぃっ……!!」

 紙一重=奴の両足が私の左足を挟むのと、その前に奴の右肩の付け根にはなった蹴りが。

 関節の付け根は腕を動かす肝になる。ここへの攻撃は一時的ではあるもののそこから先の部分を止める事が出来る。

 その一瞬に左足を引き抜く。

 アキレス腱固め。完全に決まる一瞬前にギリギリの脱出だった。


 再び立ち上がって正対。

 今度は飛び込まれないよう意識を相手に集中する。

 「シャッ」

 ほぼ同時に動き出す。

 (また速くなっただと……?)

 恐らく、これが奴の本気の速さなのだろう。それまでの大振りで遅い、しっかり攻撃を見せてくれるような動きではない。最短距離を最速で打ってくる、打撃系格闘技のような戦い方だ。


 私の左を奴が避ける。

 奴の左を私が避ける。

 右を打てば右を返され、左を打っていたのを左で返す。

 ある意味子供の喧嘩のような打ち合い。しかしそれはまごう事なき戦いだ。タッキング、スウェー、あらゆる防御技術を集約して奴の攻撃を捌き、反対に攻撃によって生じた隙に打ち込んでいく。


 幸い餅は餅屋だ。打撃に関しては私の方が得意らしい。

 「シッ!シィッ!!」

 奴の攻撃をかわし、カウンターにパンチをお見舞いする。

 打ち合い、いや、当たらない以上私の方が打っている状態。

 (だが、なんだ……?)

 有利なのはこちらだ。

 確実に奴に当てている。例え先程のような見切りが使えたとしても、それだけでダメージ全てを無効化する事は出来ないだろう。

 (なんでだ?何で――)

 だが、その状況でも奴は変わらない。

 打たれながら、凌がれながら、それでも。


 (何でこいつは、笑っている?)

 その不敵な、どこか楽しそうな笑みを消すことは出来ない。

 「シャアッ!!」

 ボディへの攻撃で奴の意識が下に向いた瞬間を逃さず、右ストレートを顔面に叩き込む。

 「くうっ!」

 奴は大きく跳んだ。吹き飛ばされたように見せて、しっかりと自分の意思で後ろに跳び下がった事は、拳から伝わる妙に軽い感触によって理解できる。


 (くそっ、また受け身か)

 だが、それでもやる事は変わらない。

 笑みを浮かべているのならそれを消すだけだ。


 「シャア!!」

 こちらから間合いを詰め、奴が合わせて動き出したところへ再びローキック。流石にここまで重ねれば無事ではないのだろうことは、その笑顔が一瞬顰められたことからも明らかだった。


 効いている。ジワジワとではあるが確実に。


 だが、それですぐに倒れる訳ではない。打撃戦では勝負にならないと考えたか、今度は低空タックルを放ってくる奴。

 これを何とか捌いた瞬間、奴私の視界から消えた。


 「えっ……」

 そんな筈はない。人は急に消えたりしない。

 「後ろか……っ!!」

 アマチュアレスリングのような素早い背後のポジショニング。

 その動きはそのまま次の攻撃に繋がっていた。

 「なっ、何を……」

 疑問に答えたのは口ではなく腕。

 しっかりと胴に回された両腕と、そこに凄まじい力が籠められる感触。

 後ろから抱きつかれているため顔を見る事は出来ないが、きっとこの時も、奴は笑っているのだろう。


 「がああっ!!」

 足が地面から浮き、背後に向かって吸い込まれるように体が持ち上げられる。

 ジャーマンスープレックス。その一瞬頭に浮かんだワードが正しいのか否かはすぐに出される事となる。

(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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