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二回戦6

 「あれが本物ですわね……」

 日本拳法。一言で言えば空手と柔道を組み合わせた和製総合格闘技。

 自衛隊の徒手格闘術のベースにもなっている武道だ。

 おかしな話だ。その日本から遠く――それこそ世界単位で――離れたこの地で、初めてその技を見た。


 背中に冷たいものが走っていく。

 今会長が下した相手は総合格闘技の使い手だった。

 つまり、私と同じ。


 幻視する。あそこで倒れているのは――?


 「って、考えても仕方ないですわね」

「ハンナ様?」

 試合を凝視したまま固まっていた私を不審に思ったのか、マルタに声を掛けられた。


 「お気になさらないで。なんでもありませんの」

 自分の中に生まれてきた不安を振り払うようにそう言って一歩進む。ことのほか早く第一試合が終わってしまったため、すぐに私の出番がやって来た。

 ――そう、次は私の試合だ。いつまでもビビっている訳にはいかない。


 「さて、行ってきます」

 パン、と両手で頬を叩いて気合を入れる。

 今考えるべきはこれから戦う事になる相手の事だ。

 集中するべきは目の前の相手。これからの試合の事だけ。

 「「ご健闘を」」

 アップを済ませ、二人に送り出されて試合場へ。

 既に目的は果たしたという事か、観客の数は目に見えて減っているが、それでもいなくなった訳ではない。


 その観客の中心、試合場の中央に立った審判が、試合場の下に到着した私の方を一度目配せする。

 「第二試合、西棟、ハンナ・コーデリア・ハインリッヒ・ラ・ラルジュイル!」

 「はい」

 返事をして試合場へ。対戦相手はまだ到着していないのか、上がったのは私だけだ。


 「続いて南棟、マリア・セシール・キャムフォード!」

 呼びかけに姿は見えない。

 遅刻か?そう思った瞬間、観客の中から声がした。

 「はい!」

 鋭いそれと、その声を形にしたようなダッシュで観客の間に出来た花道を突っ走る一つの影。それが今回の対戦相手だと分かった時には、試合場の階段に達したそれが大きく跳び上がり、前方宙返りで試合場に降り立った。


 「……派手なご登場ですこと」

 苦笑と共に思わず漏れた声は観客の上げた驚きの声にかき消された。

 だが派手なのは登場だけではない。

 彼女のコスチュームは遠目に見れば競泳水着と言っても通用するような代物だった。

 赤く炎のような模様の入った真っ白なコスチュームはしっかりと体に密着し、そのはっきりとしたボディラインを浮きだたせている。


 成程、プロレスラーだ。何故かそう納得してしまう。


 そのコスチュームも派手な登場も観客の目を引くための――或いは私に見せつけるための――パフォーマンスか。もしここにマイクがあったら、多分ノリノリでマイクパフォーマンスもやっているだろう。


 「両者中央へ」

 その衝撃の登場からそのまま中央に移る。

 お互いに正面から目を合わせると、改めて大きい。

 レティシアと同じか、もしかしたらそれ以上あるかもしれない。

 (不死身……ねぇ)

 昨日の夜の話を思い出す。

 確かにこの体だ。ちょっとやそっとの攻撃ではそうそうダメージは通るまい。

 だが、人間である以上どんな攻撃にも永久に耐え続ける事は不可能だし、人間の身体は頭の先からつま先まで全て同じ構造という訳でもない。

 必ずどこかに弱点が存在するはずだ。


 「試合時間は無制限。お互いの衣服以外の凶器の使用、目突き、噛みつき以外の全ての攻撃を有効とします――」

 先程と同じルール説明。それが終わればいよいよ試合開始だ。

 (恐らく不死身の正体はあのガタイに相応しいタフネスか)

 プロレスラーは堅い。

 だが、それでも攻め方はある。


 「両者開始線へ」

 開始線で向かい合い、同時にゴングが鳴る。

 即座に構えを取り、まずは様子見だ。


 「たぁぁああああっ!!」

 「ッ!?」

 だが相手にその気はなかったようだ。

 叫びながら一気に飛び込んできてのラリアット――だが大振りだ。

 「っと」

 下をくぐるように躱し、その動作で相手の背後に回り込む。

 「ちぃぃいいっ!!」

 即座に放たれた後ろ蹴りをいなし、同時にその軸足に蹴りを返す。

 膝の裏に吸い込まれた足を戻すと、ほぼ同時にこちらに向き直りながらの水平に薙ぎ払うようにチョップが飛んできたのをスウェーで躱す。


 「シャッ!」

 更にそこから飛び込もうとしてきた相手の下腹部に前蹴りを叩き込むと、その蹴り足を掴みにきた腕から逃げるように足を引いて距離を取る。

 そのままお互いに開始時の距離に戻り、ファーストコンタクトは終了した。


 (随分プロレスに拘るが……)

 はっきり言って、この程度の相手であれば恐ろしくはない。

 攻撃は大振りで単調。これまで戦った相手に比べれば、まるで避けてくれと言っているような攻撃ばかりだった。

 だがそれだけではあるまい。仮にも一回戦を突破してきたのだ。


 「……」

 注意深く相手を見る。

 やや腰を落とし、両手を前に持ってくるレスリングの構え方をとったまま少しずつこちらに踏み込む機会をうかがっている。

 だがこちらとてそれでビビる様なことはない。

 飛び込んでくるなら来ればいい。むしろあの大振りならカウンターのチャンスとも言える。


 レスラーは堅い。だが不死身ではない。

 私がその不死身を崩す相手だと悟られる前に決してしまえばいい

(つづく)

今日は短め

続きは明日に

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