結城家への報
白装束の箇所を改稿しました。
下総国 結城城 結城政朝
「小山が同盟を破棄して皆川に攻めこんだだと?」
草の者から届いた急報に家臣たちがざわめく。まさか小山が同盟を破棄してまで皆川を攻めるとは誰も思っていなかった。しかも小山は皆川を落として当主の成勝は自刃したらしい。
「父上、これは明確な裏切りですぞ。今すぐ小山と手を切るべきです」
長男の政直がこの事実に激昂して同盟破棄を主張する。彼は日頃から小山のことを快く思っていなかった。いや、格下だと見下していた。家臣の中で数人が同盟破棄すべきだと政直に同調する。残りは同盟破棄は時期尚早だと考える者とこの場は静観する者、儂に判断を委ねる者に分かれていた。
小山とは友好的な次男の政勝は強硬に同盟破棄を繰り返す兄とは異なりしばらく熟考した後、慎重に自分の意見を言葉にする。
「政直兄上の意見も一理ありますが、私は小山家が理由もなく同盟破棄してまで皆川を攻めたとはとても思いませぬ。彼らの考えを聞いてから今後のことを判断すべきでしょう」
「甘いぞ政勝。そんなこと領土を奪うために決まっているではないか」
「では何故宇都宮ではなく皆川を?それにただ土地を奪うだけならば何故古河城攻めから間もない今の時期に攻めたと思いますか?」
「そんなもの儂が知るわけないだろう!」
「双方そこまでだ」
熱が高まりすぎているのを感じた儂はふたりの論争を制止する。互いに結城家のことを考えた上での意見のやりとりであったが、これ以上はただの喧嘩に成り果てる。
「二人の意見は理解した。だが同盟の可否については暫し待て。二人が過熱して言いそびれていたが、草の者からの報告と共に小山から今回の皆川攻めについて話をしたいとの申し出があった。結城城に使者が訪れるらしい」
「ふん、そんな使者など追い返してしまえばよいではありませんか」
政直は納得していないようで憮然とした表情を浮かべていた。一方政勝は涼しい表情を崩さずに儂に問いかける。
「それで父上はどうなさるのですか?」
「儂は会おうと思う。話を聞いた上で今後の同盟をどうするか判断するつもりだ。儂も政勝と同じように小山が無意味に皆川を攻めるとは思えないのだ。だが政直の言い分が当たっていたのなら同盟を継続する必要性が問われるな」
政直は結局納得できないまま途中で席を立ち、評議の場を去っていった。政直の気持ちも理解できなくはない。皆川とは小山を介した同盟で婚姻関係はなかったが、反宇都宮派の勢力として信用はしていた。それを同盟を成立させた小山が破棄して皆川を攻めたのだ。小山への不信感が高まっても仕方あるまい。
残りの家臣たちからも皆川攻めについては疑問符が上がっていた。水野谷や山川らは静観する構えのようで積極的に何か発言することはなかった。儂は結城に反抗的な多賀谷がこの場にいないことに内心安堵しながら小山からの使者を受け入れる準備を進める。
それから数日が経過し、小山からの使者が到着する日が訪れた。大広間には数日前に途中退席した政直も不機嫌そうながら参加しており、その他に政勝や水野谷、山川らも出席していた。しかしこの場においても多賀谷の姿はない。理由を知っている身としてはいなくても当然だとは分かっているが、いないことで却って多賀谷の存在が浮き彫りになってしまっていた。
ところで部屋の外の様子がおかしい。外で応対している者が少々騒がしいようだった。不審に思いながらも使者の入室を許可すると使者の姿に儂のみならずこの場にいた者全員が度肝を抜かれた。
「此度は我々に説明の機会を与えていただき恐悦至極でございます」
使者として現れたのは小山家当主小山犬王丸本人であった。自らここに乗り込んできた犬王丸の覚悟を垣間見た。
散々小山を非難していた政直すら犬王丸の姿に言葉を失っている。その他の者も同様だ。沈黙が続く前に儂は口を開く。
「これは驚いた。まさか当主本人が使者を務めるとはな」
「此度のことは家臣に投げずに私自ら話すべきだと考えたまでです」
「若いな。当主自ら死地に飛び込むか」
儂の指摘に犬王丸は反論することはなかった。犬王丸は一度深呼吸をすると淡々と何故小山家が同盟を破棄して皆川を攻めたのか話しはじめる。それは結城家にとって初耳のことばかりであった。
皆川家の内紛、宇都宮への従属、宗成の暗殺。どれも信じられないことばかりで小山家の皆川領の宇都宮化阻止と反宇都宮派だった宗成の弔い合戦という理由が頭に入ってこない。
「皆川を攻める際に結城家に問い合わせることを怠ったのはこちらの落ち度ではあり、面目次第もない」
「そ、そんなこと信じられるか!内紛が本当だとしてもすぐに動けるはずがない」
犬王丸の言い分に吠えたのは例の如く政直だった。政直は立ち上がり、犬王丸に向かって指をさして抗議する。
「我らも忍……こちらでは草の者と呼ぶそうですが、諜報を得意とした者がいます。皆川については不穏な噂があり、探っておりました。そこに宗成殿の暗殺が明らかになり動いた次第でございます」
「だが……」
「よせ、政直」
尚も詰め寄ろうとする政直を制止して儂は立ち上がる。そして家臣たちが見守る中、座ったままじっと動かない犬王丸のもとへ歩みを進めていく。彼の目の前まで来ると儂は歩みを止めた。
「犬王殿、そなたの言い分はよくわかった。皆川のことは皆川家中の者に尋ねればすぐに真相が明らかになるだろう。儂も色々と考えたが、ようやく答えがでた」
「その答えとは?」
「儂の答えは、こうだ」
そう言うと儂は腰に差していた打刀を抜くとそのまま犬王丸へ一気に振り下ろした。
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