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同盟破棄の覚悟

 下野国 祇園城 小山犬王丸


 しばらくの調査の後、藤蔵の報告で忠宗の内通が計略ではないことを確認できた。もし敵の計略だったなら非常に危なかったが、忠宗が白であることが判明したことで彼への不安材料を払拭することができたのは大きい。皆川家の一門で小山から皆川へ通じる大平地域周辺を支配下に置いている忠宗の内通は今後の皆川の侵攻に大きく役立つだろう。


 忠宗の内通により彼の傘下だった山田城の山田惣右衛門、大平山城の富田源吾も小山に降り、小山から皆川への道は完全に開けた。このまま進軍できれば皆川城を守る支城群を無視して皆川城まで進むことができる。迅速に進めれば皆川領に最も近い川連城から一刻かからず皆川城まで行くことが可能だ。


 ちょうどその頃、段蔵から皆川城で成勝が宗成らを排斥しようと動きを見せているとの情報が入った。どうやら和解と偽って宗成らを暗殺するつもりだそうだ。それほどの情報を手に入れられる段蔵らの高い諜報能力に驚きを隠せない。しかし排斥するまでもう数ヶ月かかるかと思っていたが、成勝はかなりせっかちらしく宗成の排除を強行しようとしていた。


 もし宗成派を排斥して宇都宮に従属を誓うつもりならば成勝は小山家との同盟をどうするつもりだったのだろう。宗成の代に成立した同盟とはいえ同盟の主旨は理解できていたはずだ。やはり従属と同時に同盟を破棄するつもりなのだろう。河原田の戦い以降、あまり皆川と小山の同盟が効力を発揮することは少なかったが、宇都宮への牽制として役割を果たしていた。しかし皆川が宇都宮側になれば同盟の意味はなくなる。


 段蔵からの情報を得た俺は家臣たちに兵を集めるよう命じて、いつでも動けるように準備をしはじめる。すでに内通している忠宗らには小山軍が進軍しているときは傍観するよう伝えている。後は段蔵たちから伝令が来ればすぐに動くつもりだ。



「やはり皆川を攻めるのか」



 自ら物見櫓に上がって皆川方面の様子を観察していると、背後から政景叔父上も櫓に上がってきて俺にそう尋ねた。



「政景叔父上、状況が変わったのです。最早皆川は従属に傾いています。それは仕方ないことかもしれませんが、小山としては見過ごすわけにはいかないのです」


「ああ、それは理解している。まさか皆川が宇都宮に靡くとは思わなかったのだ。いや、状況を考えれば従属する選択は十分あり得たのか」


「宗成殿は強硬な反宇都宮でしたからね。そう考えるのも仕方ありません」



 政景叔父上は溜息をついた後、俺の隣に立って皆川の様子を見る。



「お主が提案してくれた同盟で小山は平穏を保ててきた。それがお主の手で壊されるとは皮肉なものよな」


「罪悪感がないといえば嘘になります。今でもこれが正しい選択だったのか悩むことがありますよ。それでも俺は小山の当主です。一度決めたからには家臣や家のためにも正しかった選択にしなくてはなりません」


「……そうか。強いな、犬王丸は」


「強くなんてありませんよ。強がっているだけです」



 そして数日後、段蔵らが焚いたであろう狼煙が上がる様子が祇園城の物見櫓から確認できた。成勝が動いた合図だ。すぐに軍備を整わせていつでも出陣できるように指示を出す。


 その日の晩、加藤一族の者から伝令が祇園城に到着した。内容は予測していたものと同じだった。



「やはり山城守殿は先代殿を手にかけたのか。立場が異なるからといって本当に父を手にかけるとは……」


「だがこれで確実に皆川は宇都宮への従属に傾いた。御屋形様の言う通りになったぞ」


「となると皆川を攻めることになるのか。なんとも複雑な心境だ」



 家臣たちは成勝が本当に宗成を排斥したことに動揺を覚え、これまで友好的だった皆川を攻めることに複雑な心境を吐露する。


 しかし皆川が宇都宮側につけば小山の不利益になるのは必然であり、皆川攻めを反対することはなかった。



「話は聞いていると思うが、山城守殿が先代殿らを皆川城内で謀殺した。これにより小山家は皆川家との同盟を破棄して皆川を攻める。これは宗成殿の弔い合戦でもある。皆の者、出陣の用意だ。夜明けと同時に皆川城を攻め落とすぞ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 首尾よく皆川領を獲ることができるのか? 続きが楽しみでしょうかありません。
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