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北関東の動乱

 一五三〇年 下野国 祇園城 小山犬王丸


 古河城を攻め落としてから数ヶ月が経ち、年が明けたが北関東の動乱は収まっていなかった。古河の晴氏は古河公方の襲名を宣言し内部統制に努めているが、上野国の山内上杉家、常陸国の佐竹家では内紛が勃発していた。


 佐竹家では昨年宇留野家に養子入りしていた当主義篤の弟義元が突如佐竹の宿老である小貫俊通(こぬきとしみち)部垂城(へたれじょう)を急襲。俊通は敗死し、義元は部垂義元と名乗って兄の義篤に対し反旗を翻した。しかし義篤は小田家と江戸家の仲介といった外交で手一杯で義元に対して有効な手立てを打てないでいた。


 そこに義篤そして北関東の諸将らを驚かせる情報が入ってくる。なんと義元のいる部垂城に前公方の高基がいるという。古河城攻めの際に取り逃した高基は常陸へ逃亡していたのだ。あのときの嫌な予感が的中してしまった。これで佐竹の内紛は佐竹内で収まらないことが確定してしまったのだ。


 おそらく晴氏は高基をそのままにしておかないだろう。ただの逃亡先ならよかったものの、義篤が手をこまねいてる間に高基は部垂城で義元の支援のもと晴氏への抵抗を表明したのだ。この表明によって当初義元と宇留野家くらいだった味方も義篤の庶兄にあたる今宮永義、佐竹家重臣高久義貞、さらに周辺の国人である小場家や前小屋家が義元側についてしまった。また高基を奉ずる武将たちも参戦しており、古河城で切腹させられた野田政保の父政朝もその中にいた。


 佐竹の内紛が気づけば厄介なことになっていた。晴氏は討伐を唱えるだろうが今は地盤固めで動けない。また小山家も兵の負担や佐竹領との距離の問題から佐竹への介入はできないだろう。おそらく晴氏の要請には応えられない。


 帰国してからは俺は二度の遠征があったこともあり小山の内政に取り組んでいた。まだ制度が未完成の状態で課題も多く、頭を悩ましながらも重臣たちと話し合って詳細を詰めたりしていた。


 そんな折、段蔵から気になる情報がもたらされた。それは小山家が同盟を結んでいる皆川家についてだった。



「皆川の内部が揺れているだと?」


「はい、具体的には先代様と山城守様の対立でございます。ここ最近になってそれが顕著になり始めています」



 どうやら現当主の成勝と先代の宗成との間で確執があったようだ。だがその確執の原因は小山にとっても喜べない内容だった。


 成勝は今までの反宇都宮の方針を改めて宇都宮に従属しようと考えているらしい。長年反宇都宮だった先代の宗成らは当然のように成勝に反発した。成勝も家督を譲られているが皆川の家中の権力は宗成が握っていることに不満を抱えており、それぞれが反発している状態になっているというのだ。


 これは小山家にとっても頭が痛い問題だ。北への進出を目指している小山家にとって皆川家との同盟は対宇都宮にとって重要な役割を果たしていた。しかしその皆川が宇都宮に転じるとなれば小山領と接する北部全てが宇都宮側となり、小山家の北への進出は非常に困難になる。


 また皆川は鹿沼城の壬生綱房への壁の役割も果たしており、今回の騒動は対宇都宮だけでなく対壬生としても計算外だ。


 もし皆川が割れるのなら方針から考えて宗成を支援する必要が出てくるかもしれない。成勝の考えがどこまで家中に浸透しているのかわからないが、従属論が主流になっていたら非常に厄介だ。



「段蔵は引き続き皆川家の監視を頼む。何か動きがあったら些細なことでも伝えてくれ」


「ははっ」



 段蔵に監視を続けるよう指示を出した後、俺は重臣や勘助らを呼び出して皆川家への対策を話し合うことにした。皆川に宇都宮への従属論が流れていることを知らされた皆は事の重大さを認識しており揃って深刻な顔つきになる。


 皆川とは元を辿れば同族ということもあって古くから付き合いがある一族であり、中には皆川から嫁をとっていたり娘を嫁がせたりしている者もいた。



「もし皆川が割れれば小山家としては先代殿に味方するだろう。従来の考えであれば、だが」



 そう切り出した俺に勘助を除いた皆は怪訝な表情を浮かべた。てっきり宗成に味方するのだろうと考えていたからだ。だが俺の考えは違っていた。おそらく勘助は勘づいているのだろう。俺が何を言い出すのかどこか楽しそうに見える。



「俺は場合によっては同盟を放棄して皆川を攻めることも考えている。もし皆川が宇都宮に靡くようなら小山家にとってそれは不利益以外何物でもない」


「なんですと……」



 家臣たちは言葉を失う。まさか皆川を切るとは思わなかったからだ。



「まあ、最悪の場合だがな。もし皆川を攻めれば間違いなく皆川は宇都宮の庇護を求めるはずだ。それでは本末転倒だ。だが皆川丸ごと宇都宮側に移られるよりはよいだろうよ」


「つまり御屋形様は皆川で従属論が強まれば皆川を攻めるというわけですな?」



 勘助がそう発言すると他の者はようやく合点がいったのか俺へ注目を集める。



「その通りだ。先代殿が山城守殿を排斥できたならこの話はなかったことになる。だが報告を聞く限り、そう簡単にいけるわけでもないらしい。おそらくだが逆に山城守殿が先代殿を排除してくるだろう」



 再びざわめきが生まれる。もし成勝が宗成を排除したのなら小山家は皆川を攻めることになるからだ。



「しかし、もし攻めたとしても宇都宮から救援が来てしまうのではないでしょうか?」


「その前にけりをつける。正確には皆川が正式に宇都宮に従属する前に皆川を攻める。そのために段蔵らに監視を続けさせている。故に重要なのは迅速さだ。それに従属の使者が届かなければ宇都宮は従属の事実を知ることはない」



 段蔵らの腕にかかっているが宇都宮への使者を捕らえられれば勝機は見えてくる。後は宗成たち反成勝派を引き入れる必要があるわけだが、それはこちらの仕事になる。


 願わくば小山家にとって良い方向に転がれば嬉しいのだがな。

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― 新着の感想 ―
[一言] >部垂義元 後の今川家当主に風評被害が行きそうな名前だなぁ… なんて愚にもつかないことを思ってしまった。 この時点だと、数え12歳で栴岳承芳と名乗っていた頃かな。
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