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下野小山戦国異聞 関東八屋形の復興  作者: Rosen
関東享禄の内乱編
72/345

古河城、進撃

 下総国 古河城 小山犬王丸


 晴氏と加藤一族の活躍により城門は内通者によって内側から開かれ、晴氏軍の先鋒は三の丸へ侵入を果たすことができた。三の丸へ攻め入った後も守り手側は決死の抵抗を続けていたが、次第に日が落ちてきたこともあり三の丸より内側の二の丸や東帯曲輪へ撤退していった。晴氏もこれ以上の攻撃は不要と判断し、夜襲の警戒をしつつも攻撃は取りやめになった。


 この日の夜、小山の陣にひとり帰還が遅れていた段蔵が姿を現した。段蔵に目立った傷はなく、他の加藤一族から帰還が遅れることは報告を受けていたので過度な心配はしていなかったが、やはり実際に無事な姿を見られたことで安堵していた。



「犬王様、ただいま帰還いたしました。遅くなり申し訳ございません」


「無事に戻ってきてくれてなによりだ。そなたの腕は信じてはいるが心配したぞ」


「ご心配おかけしました。実は城の内部まで侵入しようとしたのですが、少々気になることがありまして報告に戻りに来た次第でございます」


「気になること?」


「はい、どうやら一部の兵たちの間では公方様の姿が見当たらないとの話があったようで、それだけならそれほど問題ないのですが、それが本丸の館を守る兵も含まれていました」



 さらっと本丸まで侵入したことを告げた段蔵の技量に俺は舌を巻くしかなかった。しかし公方がいないという情報は初耳だ。段蔵が本丸まで侵入してくれなかったらこの情報を得ることはできなかったかもしれない。



「公方様がいないだと?部屋に籠っている……というわけではなさそうだな」


「はっ、拙者もくまなく探すことはできませんでしたが、高実様と思われる人物は確認できました。しかし公方様と思わしき人物は見つけることはできませんでした」



 段蔵ひとりで全てを調べ尽くせていないこともあり、公方不在は今のところ未確認情報だ。だがこのことは晴氏に入れておく必要がありそうだったのもまた事実だった。



「わかった。このことは晴氏様に伝えておく。もし本当に不在という状況なら大事だぞ」



 俺はすぐに兵を呼び、晴氏に未確認の情報という前提で段蔵の言ったことをそのまま伝えるよう書状にしたためて伝令に託した。


 晴氏からはすぐ返事が返ってきた。書状には晴氏からはもし本当だとしたら尚更早く城を落とすべきだと書かれており、朝に総攻撃を仕掛ける旨も記されていた。また不確定情報のため他の武将には伏せるよう要請があった。それに関しては俺も晴氏と同意見だったので承諾の返事を送る。


 翌日、日が昇る前に総攻撃が開始された。篝火を頼りに宇都宮と簗田の先鋒が二の丸を、小山と結城の先鋒が東帯曲輪を攻めることになった。昨日の余勢を駆って攻めたてていくが守り手もこれ以上の突破は許さないと門を死守する。古河城は城内に太日川の水を引き入れているため二の丸と東帯曲輪も水堀となっており、三の丸同様攻略するのは簡単ではなかった。


 しばらくは守り手も辛抱強く守っていたが、多勢に無勢で次第にこちらの攻撃に耐えられなくなる箇所が出てきた。門も何度も破城槌の攻撃を受けて軋み、門を支えていた支柱は限界を迎えていた。


 そして何度目だろうか。矢の雨を掻い潜った破城槌が門を叩いた瞬間、門を支えていた柱がへし折れる音が聞こえた。門が開いた。後は三の丸を破ったのと同様に勢い駆って城内に突入を果たす。


 二の丸と東帯曲輪を破られ、もはや守り手の士気は挫かれた。戦意が喪失した守り手は三の丸の真逆に位置する兵の置かれていない川手門に逃げる者も相次いだ。


 二の丸と東帯曲輪を完全に制圧した頃には再び日は落ち始めていた。晴氏は夜になると諸将を集めて評議を開く。古河城は本丸だけが残されており、落ちるのも時間の問題だった。



「儂は改めて使者を送って高実に降伏を促そうと思う。使者はそうだな、中務に頼みたい。中務、いけるか?」


「承知いたしました」



 晴氏の問いに高助が短く答える。他の武将たちからも晴氏の案に異論はなく、夜襲だけは警戒するよう互いに呼びかけた。


 そして準備を済ませた高助は古河城の本丸へ向かう。残された自分たちにできることは高助の交渉の成功を祈ることと夜襲の備えをすることだけだ。特に一部ですでに勝った気をしている者が現れ始めている状況はよろしくない。


 夜襲の怖さを知っている諸将は下々に警戒を怠らないよう指示を飛ばしている。小山も例外ではなく武将は気を引き締めていても足軽といった雑兵の中には浮かれている者がいた。俺は歴史でこういった状況で逆転される事例をよく知っていたが、いざ実際に戦場に立つと警戒し続けることの難しさを思い知る。



「難しいな。戦は何度経験しても学ぶことだらけだ」



 苦々しい表情を浮かべながら俺は士気を引き締めるべく家臣を率いて一度陣を後にした。


 そしてしばらくすると高助が本丸から戻ってきた。しかしどこか様子がおかしい。顔色が優れていないようだった。



「高実様は降伏の意思を固めました。しかし公方様が行方を眩ませました……」



 高助の報せに晴氏が舌打ちをしたのが聞こえた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 城は落とせたけど、目標には逃げられましたか 援軍の宛もなかったのに、何処に逃げたんだろう? 答え合わせがも楽しみです
2021/08/09 17:52 オーエイチエム
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