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下野小山戦国異聞 関東八屋形の復興  作者: Rosen
関東享禄の内乱編
71/345

古河城攻め

 下総国 古河城


 古河城内は混乱に陥っていた。兵糧の横流しと買収が判明し、備蓄していた兵糧のほとんどが外部に流出してしまったのだ。残っているのはわずかにひと月あるかどうか程度でとてもじゃないが籠城するには心許なかった。


 しかも兵糧を担当していた者が姿を消しており、真相は闇のままでさらに目撃証言によると幾人も大金欲しさに兵糧を売り流していたことが判明したのだ。


 兵糧の流出と担当者の失踪に衝撃を受けた城主の高基は指揮を放棄して部屋の奥に閉じ籠ってしまった。しかし代役を指名しなかったことから指揮系統が混乱。ひとまず高実が指揮を執ることになったものの、戦の経験のない若い高実に軍の指揮なんてできるわけなく、高基と高実の家臣が独自で判断しないといけないことになってしまった。このドタバタの間に晴氏率いる寄せ手側はあっという間に古河城を包囲してしまい、守り手側は完全に後手を踏まされていた。


 高実は完全に浮き足立っており、行き当たりばったりな命令を出すか判断を家臣に丸投げするしかできていなかった。側近たちも高実を落ち着かせようと宥めるが、父親が引っ込んでしまい全ての重圧を背負うことになった高実には効果がなかった。


 そんな状況の折に晴氏側から開戦前の使者が古河城に現れる。使者は結城政朝だった。高実は動揺していることを悟られないように表情を殺しながら対面に臨むが、晴氏側の要求は高実を逆撫でするようなものだった。



「父上の隠居に私の出家だと!?こちらを愚弄するのも大概せよ!そんな条件呑めるわけなかろう!」


「ならば戦あるのみでございます」


「貴様ッ、父上を裏切って憎っくき愚兄に従いよって。公方に忠誠を誓う結城の家名が泣いておるぞ」



 キーキー喚く高実に政朝は一切付き合うことなく、交渉が破談したことを理解して颯爽と古河城を後にする。残された家臣は戦が不可避になったことにげんなりしながらも政朝の罵倒を続ける高実を諌めるのであった。


 そして交渉破談から半刻も過ぎないうちに晴氏が動き出した。川岸にある川手門以外の城門に兵を集結させて、いつでも攻められるように陣を構える。


 城側は物見の伝令から晴氏の動きを察知したが、指揮系統が混乱していたため対処が遅れてしまう。バタバタしながらもなんとか兵を配置させたが、誰がどこに移動したのか正確に把握できている者は少なかった。そしてこの指揮系統の混乱が後に命取りとなる。


 すでに指示を受けた加藤段蔵らは混乱に乗じて古河城へ侵入を果たしており、内通を示していた城側の武将へ晴氏からの伝言を伝えていた。この内通した武将の中には高基や高実から信用されており、裏切るわけがないと思い込まれていた者もいた。


 混乱の中で探すことに難航し思いの外時間がかかってしまったが、合図と共に内側から城門を開かせるという約束を結ぶことに成功した段蔵は城内を観察しながら状況を報告するための情報を得ようと、他の一族の者を先に下がらせて自分はさらに城の奥へと歩みを進めた。


 一方加藤一族から内応の準備が整ったことを知らされた犬王丸はそれを晴氏に伝える。晴氏は策が成ったことに満足せずに各自進軍するよう指示を飛ばした。


 大手門には宇都宮と簗田が、はね橋門には小山と結城の軍勢が法螺貝の音と共に押し寄せる。守り手は物見櫓や柵の向こうから寄せ手を射抜かんと矢を放つが、混乱の影響で兵の数がまばらの状態であったために散発で終わってしまい、矢は何人か射抜いたがほとんどは竹束で防がれてしまう。



「どうしたことだ。敵が浮き足立っているように見えるな。これは好機ぞ。皆の者、押し進め!」



 敵の手応えがないことに気づいた高経らは好機とばかりに一気に兵を繰り出した。大手門を守る兵は速度を早めた寄せ手に苦しみながらもなんとか応戦する。やがて寄せ手は門の目の前まで接近することに成功したが、大手門は水堀で守られており攻めにくく守りやすい造りになっている。兵の中には勇敢にも水堀に飛び込んで泳いで渡ろうとする猛者もいたが、その者らは渡る途中で一人残らず矢の餌食にされてしまった。また水掘の底には逆茂木や竹槍が埋め込まれており泳いで渡るのは至難の業だった。


 唯一の道は大手門につながる土橋だが幅はそこまで広くないため大軍では一気に押し切ることができない。守り手も土橋に人数を割くのでそう簡単に突破はできなかった。


 高経は力攻めでは大手門を突破するのは難しいと判断して兵の突撃を止めさせた。敵からの攻撃を盾で防ぎながら矢を放って応戦する。高経は半信半疑ながらも晴氏から受けた内通を待ちつつ、好機があればそのまま門を落とすつもりであったが、突然守り手側から鏑矢が飛んできて大手門の扉が開く。これが合図だと察した高経は立ち上がり大声で叫んだ。



「扉が開いたぞ!今が好機じゃ。攻めよ攻めよ!」



 突然内側から扉を開けられた守り手は動揺を隠せず、寄せてくる敵になす術もなく壊走してしまい、後退を余儀なくされる。高経は同時にはね橋門からも寄せ手が鬨の声を上げていることに気づき、向こうも門を突破したことを理解した。


 寄せ手が攻め始めてからおよそ一刻。古河城の二つの門は破られ、晴氏軍は古河城の三の丸へ殺到した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦国時代は畿内が中心の作品が多いですが、関東が中心の作品は読んだ事がなかったので 一気に楽しく読ませていただきました。東北に負けず劣らずのカオスがありそうでこれからも更新楽しみしています。…
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