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下野小山戦国異聞 関東八屋形の復興  作者: Rosen
関東享禄の内乱編
66/345

加速する亀裂

 下野国 祇園城 小山犬王丸


 ある日、古河を監視していた段左衛門率いる加藤一族から古河の近況の報告をうける。担当していたのは段蔵以下数名だったらしいが、情報の精度が高く古河の状況の詳細を知ることができた。受け取った情報を精査しながら段左衛門に尋ねる。



「段左衛門、この報告は真なのか」


「倅らが誤報を掴まされていなければ真なのかと」



 段左衛門は静かに短く答える。だがこのもたらされた情報が事実だとすると、古河の情勢は極めて急速に悪化しはじめていることになる。


 段左衛門らの報告によると、晴氏の謹慎が解けた後も晴氏と高基の不仲は深刻化するばかりで、高基は反りが合わない晴氏より自分に従順な高実を優遇しはじめたらしい。公方とその嫡子が不仲という中に新たに高実という火種が放り込まれた古河の空気は不穏になりつつあった。


 高実は高実で初めは大人しかったが、父親の寵愛を得られてからは晴氏を差し置いて、まるで自分が後継者であるかのように振る舞うなど増長するようになっていった。


 正統な嫡男がいる中で庶子である高実がそのように振る舞うのは自殺行為であるが、高基が高実を諫めるどころか優遇をやめないので、本当に高実に家督を譲るのではないかと考える者も現れ、高実に擦り寄る輩も増えているらしい。


 こうしてついに古河内にまだ少数ではあるが高実派が誕生してしまい、晴氏を支持する晴氏派との分裂が進んでしまった。簗田を筆頭に古参の多くが晴氏を支持するに対し、高実を支持するのは新参や多くの領土をもたない高基の側近といった者が多い。これにより古参と新参、国人と側近の対立が表面化してしまっていた。


 晴氏も動かなかったわけではなく、増長する高実に釘を刺したようだが、増長しきっていた高実の耳には届かず効果はまったくなかった。却って高実派から晴氏が焦っているという風聞を流されてしまう。


 このような状況を案じた勇気ある家臣のひとりが高基に現状を伝え、高基自ら解決していただくよう懇願したらしいが、高基は「そのような些事などどうでもよい」と言い放って必死の懇願を一蹴し、自らは酒色に溺れて問題の解決に取り組もうとはしなかった。


 家臣の諫言を無視し家内の混乱すら解決しようとしない高基の公方としての姿勢に少なくない者が失望し、高基・高実親子と対立している晴氏のもとに流れていったらしい。つまり高基の信用は失われたのだ。



「段左衛門たちのおかげで随分と詳細な情報を得ることができた。感謝する。後で褒美を約束しよう」


「我らにそのようなお言葉をかけていただけるなんて……ありがたき幸せ」


「以前言ったであろう。情報は戦働きと同等の価値があると。それにそなたらが命がけで集めてくれた大切な情報だ。感謝するのは当然のことだ」



 すると段左衛門は感極まったのか静かに涙を流した。そこまで感動することでもないと思っていたが、段左衛門ら忍びにとって主から直々に感謝されることはほぼなかったことらしい。


 古河の情勢の悪化は看過できない域に達しようとしていたのは計算外だった。せめて年内は冷戦状態が続くと踏んでいたが、高基の煮え切れない態度と高実の増長が事態を大きくさせてしまった。彼らの行動が高基派と晴氏派の対立だけでなく、新参と古参といった別の対立も生み出してしまったのだ。


 しかも晴氏側の行動が少ないことが余計に不安を煽る。ここまでコケにされても先走った動きを見せないのは晴氏の理性が素晴らしいのか、あるいは裏で何か画策をしているのか。まだどう動くのかは段左衛門らでも把握できていないらしいが、俺は晴氏がこのまま終わるとは到底思えなかった。


 だがこれで高基派には申し訳ないが、晴氏を支持する大義名分を得ることができた。解決能力がない公方と庶子の立場を大きく逸脱した振る舞いを見せる高実を支持することはできない。はっきりいうと高基と高実は公方としてふさわしくない。もし家督争いが起きた際に穏便に対処してもらうようこちらが要請してもそれをまともに相手するか怪しくなってきた。


 現状小山家としては積極的に動くことはできないが、今後は晴氏が何かしら動きを見せたらそれに同調するつもりで動こうと思う。あまりに無謀すぎた場合は考える必要があるが、高基を支持するよりいくらかマシか。


 問題は高基派の説得だが、段左衛門たちのこの情報があれば説得は容易いはずだろう。


 そして数日後、段左衛門らの報告をもとに高基派を説得して小山家が晴氏派として動くことを決定した後、二枚の書状が小山家に届いた。


 ひとつは高基から。そしてもうひとつは晴氏からのものだった。

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