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下野小山戦国異聞 関東八屋形の復興  作者: Rosen
関東享禄の内乱編
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親子の亀裂

 一五二九年 下総国 古河城


 関宿城の死守成功は古河方では大きな戦果として周囲から称賛された戦であった。敵の拙攻や城方の奮戦に助けられたとはいえ、これまで進撃を許してきた小弓勢を撤退に追い込んだ事実は変わらない。


 小山や結城ら援軍勢が撤退した後も小弓勢は反攻の狼煙を上げることなく自国へ兵を引き上げた。しかし千葉や相馬らは未だ小弓の傘下であり、古河も攻める余裕がなかったことから領土の回復には至っていない。


 歓喜している古河とは対照的に晴氏は自室で憮然とした態度を崩さなかった。その原因は総大将を務めた一色直頼の高基への戦況報告にあった。


 勝利の美酒に酔っていた直頼は高基へ晴氏が戦で素晴らしい働きをしていたと誇大に晴氏の戦果を報告していたのだ。晴氏からしてみれば自らも戦わねば自軍の敗北につながると考えた上での行動だったのだが、報告を受けた高基はそうは思い至らず、晴氏が戦果欲しさに事前の忠告を無視して戦ったのだと解釈してしまっていた。



「だからあの時は戦わなければ戦に負けるところでした。直頼がどんな報告をしたのか知りませんが、決して戦果欲しさに戦ったのではありませんぞ」


「拙い言い訳をしても無駄だ。せっかくの儂の忠告も無視しおって。そなたには公方としての立ち振る舞いがなっておらん」


「なっ!?父上はあの戦がどれだけ激戦だったのか理解できておらぬのか!あの中で父上の言うことを聞いて黙って動かずにいたら、儂が腑抜け呼ばわりされるどころか戦に負けて死んでたところだった。父上は儂に死ねと仰せになられるのか」


「ふん、話にならん」



 呼び出された晴氏はその事を責められ、自分にそんな意思はないと弁明したが、高基は晴氏の弁明を聞き入れることなく話し合いを打ち切ってしまった。


 弁明の機会を奪われた晴氏はその後高基の使いから戦の褒美どころか短期間の謹慎を言い渡されてしまった。この無情な仕打ちに一色八郎直朝らも激昂し、使者を問い詰める。



「謹慎とはどういうことじゃ!?これが果敢に戦った者への仕打ちか!?」



 しかし彼らを諫めたのは謹慎を命じられた晴氏本人だった。



「よせ八郎。彼に問い詰めても仕方がない。彼は父上の言葉を預かってきただけだ」



 若様がそう言うならばと家臣たちは渋々引き下がり、解放された使者は晴氏に感謝の意と謝罪の言葉を言い残すと逃げるように晴氏たちの前から去っていった。


 使者が去ってからしばらくすると突然部屋に強烈な打撃音が響いた。そこには無言で床に拳を叩きつけている晴氏の姿があった。音の正体は晴氏が己の拳を床に叩きつけたときのものだったのだ。



「儂は何か間違ったことをしたか?儂は父上の忠告を無視するつもりはなかった。ただそれ以上に戦わねばならない状況に陥ってしまったことをなぜ父上に理解されない!」



 晴氏の慟哭に周囲は何も言えなかった。



「父上は以前から戦を大名たちに任せきりにして自分は参陣してこなかった。自ら起こした争いにも決して姿を見せようとしなかった。口だけ命令を出して戦は大名にやらせるのが公方の在り方だと思っている。けれどここまで戦況を理解できないとは思ってもいなかった」



 晴氏からしたら高基がいくら戦の経験が浅くても、関宿城攻防戦における晴氏の状況をある程度汲み取ってくると思っていた。しかし実際は誰が聞いてもわかるような説明をしても戦況を理解することができない公方がそこにいた。あまりの無理解さに晴氏は父親に対して失望を隠せなかった。数年前ならこんなことは起こらなかったはずだったが、高基が酒色に溺れたことと戦場から長く離れ過ぎていたことが致命的だった。



「しかし公方の命令だ。謹慎には大人しく従うつもりだ。だがその前に簗田高助に手紙を出すとしよう。彼は先の戦の際に儂の力になると言ってくれた。それに頼るというわけではないが、高助に今の状況と儂の心境を素直に伝える。高助には味方になってもらいたいからな」



 家臣たちは無念に思いながらも晴氏の指示に従って高助に書状をしたためる準備をおこなう。その中で直朝はある噂について耳にしていたがそれを晴氏に告げることができなかった。告げられるわけがなかった。


『高基が晴氏を廃嫡にしようとしている』だなんて。


 一方晴氏に謹慎を言い渡した高基はある晩、次男の高実(たかざね)を密かに呼び寄せていた。高実は晴氏の弟で晴氏のすぐ後に元服した若武者だが庶子だったため家内での地位はそこまで高くなかった。


 初めて高基に一対一で話をしたいと呼ばれた高実は緊張を隠しきれなった。固い様子の高実に高基は呆れた表情をしていたが、表情を改めて高実にあることを問う。



「のう、高実。そなたには今の足利家が、いや晴氏がどう見える?」


「兄上のことですか?兄上のことは尊敬しております。先の戦でもご活躍と聞きました」


「違う。そういうことを聞きたいんじゃない。晴氏が公方にふさわしいかどうか、それが聞きたいのだ」

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