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関宿城攻防戦 緒戦

 下総国 関宿城


 関宿城を巡る緒戦。千葉昌胤ら先鋒二〇〇〇余と関宿城兵八〇〇余が各守り口で激突した。


 通常城を攻めるには城側の三倍の兵力が必要とされる。しかし今回攻めに加わるのは先鋒のみであったため、寄せ手側は否応なく厳しい戦いを強いられた。


 兵力差が三倍未満ということもあり、各守り口では激戦が繰り広げられていた。


 平井口では会田内蔵助の指揮のもと兵たちは城外に打って出て寄せ手の臼井景胤らの兵へ攻撃を仕掛ける。弓兵は無人となった民家の屋根に登り、不規則に並べられた逆茂木と二重に設けられた柵の先から放たれる投石などを搔い潜る敵へ斉射する。逆茂木で狭くなった道を進む敵に上からの矢の雨を防ぐ手立てはなかった。


 しばらくして敵の態勢が整ったとみると内蔵助は撤退の指示を出して戦線を後退させる。敵が怖気づいたと判断した寄せ手は再び進軍を開始する。すると内蔵助は兵を反転させて柵越しから槍を突き出させた。


 逆茂木を強引に突破した寄せ手は突然飛び出してきた槍に反応できず、先頭を走る者は全身を複数の槍で貫かれた。もはや混乱状態に陥った先陣にさらに追い打ちをかけるように後退していた弓兵の遠方からの斉射が襲い掛かった。


 数で劣る相手への会心の出来に手ごたえを感じた内蔵助は再び戦線を後退させて最初の柵を放棄し、城門前に敷いた柵まで兵を引き上げさせたのであった。


 一方先陣の散々な状況をもたらされた寄せ手の臼井景胤は不甲斐ない戦況に苛立ちを隠せずにいた。千葉や相馬と違って早期に義明に従った景胤は下総一の義明派として自他ともに認めてきた。同じ平井口を担当する海上や武石も早期に義明に従っていた者ばかりで、特に景胤は下総国内屈指の義明派として軍事的な中枢を担ってきた。


 各寄せ手の中では平井口の兵が一番士気が高く、本人たちも易々平井口を突破できると楽観視していた。しかし実際は数で劣る相手に好きなようにやられてしまっている。なんとか進むことはできているが、予想より進軍速度が遅く被害も思っていた以上に被ってしまった。



「ちと厳しいのう。臼井殿、ここは道哲様に増援を頼まれてはいかがかな」


「海上殿、それは弱気が過ぎますぞ。この程度で増援を乞うたら道哲様がどう思われるか。それに千葉より先に崩れるなんてこと、儂は絶対に認めんぞ」


「しかしこのまま攻めても戦果は期待できませんぞ」


「ええい、海上殿も武石殿も臆病風に吹かれているようだ。あのような小手先しかない奴らなんぞ力で押し切ればどうということもないはずじゃ」



 苛立ちを隠せない景胤は海上助秀と武石胤親の提案を拒絶して攻撃の続行を命令する。二人も景胤の意思が強いことがわかると説得を諦めて再度攻撃に加わった。しかし何の策もなくただ力任せでの攻撃は再び内蔵助たちの反撃の餌食となり、いくら攻めても平井口を突破することは叶わなかった。


 一方大手口では守将の簗田基助らは寄せ手側の苛烈な攻撃の前に苦戦を強いられていた。基助も内蔵助同様に城外に打って出たが、寄せ手の高城胤吉の寄せては引き、引けば寄せる巧みな采配を前に散発的な反撃もできず、ずるずると戦線を後退せざるを得なかった。


 この高城胤吉という男、元は千葉の重臣原氏の一族で千葉から見れば陪臣という立場だったが、小弓城を追われた原胤清を匿いつつ台頭してきたその実力を千葉昌胤は自分の妹を嫁がせるなどして高く評価していた。


 一陪臣から一門衆まで昇りつめた胤吉は昌胤と胤清らと共に大手口の攻略を任され、この戦いでもその実力を遺憾なく発揮していた。


 胤吉の采配に苦しめられている守り手はついに城門前に設置した最後の柵まで追いやられていた。道中の逆茂木は突破され、民家に伏兵を置いてのゲリラ戦法も看過されてしまう。後退の際も後方の兵を狙い撃ちにされて人数もかなり削られてしまった。


 基助も経験豊富な武将だったが相手が悪かった。矢が飛び交うなか、盾に身を隠しながらどう打開するか頭を巡らせるも案は湧いてこない。門を開かせいつでも引けるよう命じるのが精一杯でこのままでは大手口が破られるのは時間の問題だった。



「やむを得ぬ、兵を門の中まで引かせるほかあるまい」



 そう決断した基助は仙波左京に殿を任せて大手門まで後退しようとする。


 だがそのとき、その大手門から無傷の兵およそ一五〇ほどが姿を現した。彼らは大手口苦戦の報を受けて救援に向かった本丸と埋口の兵だった。数は多くはないがこの状況下でこの援軍はかなり大きい。


 すぐに援軍だと理解した基助は後退指示を一転させて再度打って出るよう叫ぶと、それを聞いていた殿を務めていた左京らが鬨の声を上げて寄せてきた千葉勢へ反転して襲いかかる。


 援軍を得た守り手は水を得た魚のように士気を取り戻し、逆にのめりかかっていた千葉勢はその勢いに押されて壊走してしまう。後ろから寄せてくる兵と先頭から逃げ出した兵がぶつかり合い、戦線は混乱に陥ってしまう。その様子に気づいた胤吉は混乱が波及するのを恐れてこれ以上の進軍を中止し、戦線を下げさせた。


 守り手側は引いていく敵を深追いせず、一旦門前の柵まで戦線を上げる。なんとか敵を退かせた基助らは緒戦の勝利に鬨の声で応えたのだった。



「くっ、ここにきてか。だが引き際を誤るわけにもいかん」



 胤吉はあともう一歩というところでの撤退に歯痒く感じた。しかし無理に攻めて返り討ちに遭うことは避けたかったのでこの判断が誤りだとは思っていない。昌胤も胤清もそれを理解していたので胤吉のことを責めることはしなかった。寧ろここまでの采配の妙を褒め称えた。



「敵の援軍がきたのなら仕方あるまい。こちらもそこまで有利な状況ではないからな」


「しかしこのままでは攻め落とすのは難しいのが現実。早う道哲様にも参陣していただかなくてはなりませんな」


「胤清の言う通りだな。よし、すぐにこちらも増援を要請するとしよう。道哲様は儂らを使い潰すつもりだったかもしれんが、そう簡単に思惑に乗ると思うか。いずれ機会があれば……」


「御屋形様、これ以上は申しなされるな」



 若い昌胤が道哲への怨みを吐露するのを胤吉が諌める。周囲で誰が聞いているかわからない。


 ここにいる者たちは義明に良い印象を持っていない。高基派だった昌胤もそうだが、胤清も義明に城を追われている。もし自身が城を奪われなければ義明が小弓公方と名乗ることはなかったかもしれなかった。


 しかし心情は別として、今は義明の配下として武功を働かなければならず、此度の緒戦の結果も三人を憂鬱な気分にさせた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この時代の話はあまり知らないのでとても面白いです。 頑張ってください
[良い点] 応援しております。更新ありがとうございます。
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