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一五三八年の評議

 一五三八年 下野国 祇園城 小山晴長


 年が明けてから最初の評議が開かれ、勘助や伊予守といった各地の城代を務める重臣たちも勢揃いしていた。議題はもちろん宇都宮についてだった。


 前年に中村城を落としたことによって下野南部の宇都宮側の勢力は小山か益子に屈して全滅した。残されている宇都宮の勢力は宇都宮城、飛山城、鹿沼城とその近辺にまで縮小してしまっている。



「宇都宮は飛山城を奪取したとはいえ厳しい状態には変わりない。向こうが盛り返す前に今年中に宇都宮に攻勢を仕掛ける。宇都宮城を落としてみせるぞ」



 俺の宣言に評議の場が沸き立つ。ついに宇都宮城攻めが実現する。かつて宇都宮に苦杯を嘗めさせられて一時代を築かせてしまった頃には想像すらできなかった。小山家の厳しい冬の時代を経験していた重臣たちはついにここまで復興できたかと涙する者もいた。今の小山家は持政公が領土を復興させたときより広大になっている。小山家が下野守護だった時代の頃に近づいてきていた。



「段左衛門、宇都宮の内情はどうなっている?」


「はっ、すでに何名か内通の意思を固めております。ご指示がありましたら今すぐでも寝返らせることはできますが」


「いや、今はまだ時期ではない。その内通者には宇都宮の情報をこちらに流させるよう命じよ」


「畏まりました」



 宇都宮への工作は順調なようだ。段左衛門から内通者の名前を聞き出したが宇都宮に古くから仕える譜代の国人も含まれていた。さすがに大物の名前はなかったが、それでも重臣の一角を占める者もいるので上出来に近い。離間の計も仕掛けたいところだが俊綱に反抗していた者はすでに反旗を翻していた。塩谷、益子、芳賀といった者たちだった。


 ただ塩谷に関しては少々挙動が怪しい。元々芳賀と親交が深かった塩谷は芳賀に同調して宇都宮に反抗したが道的死後の芳賀はすでに小山に臣従している。また塩谷を支援していた那須が内部分裂で領土に引っ込んだあとは宇都宮に対し何も行動を起こさなかった。当主も宇都宮一門ながら親芳賀派だった天的から嫡男の由綱に代替わりしている。芳賀が小山に臣従したことで塩谷の動きが完全に読めなくなっていた。


 塩谷は那須の支援を受けていた際に塩谷郡にある宇都宮側の城を多く落としており、塩谷郡全域とまではいかないが本拠の川崎城を中心に広い範囲を支配下に置いている。塩谷が弱体化している宇都宮に帰参する可能性は低いかもしれないが、警戒しておくべきか。



「段左衛門は引き続き宇都宮を担当してくれ。段蔵、お前は塩谷を監視してくれ」


「「ははっ」」



 こっちとしては塩谷が何か動きを見せる前に宇都宮城を攻め落としたいところだ。そこで宇都宮城攻めの要である新兵器の進展について聞いておく必要がある。俺は開発担当の谷田貝民部に新兵器がどうなっているか尋ねる。



「焙烙火矢に関しましてはすでに完成しており、今は量産体制に入っております。宇都宮城攻めのときには使用可能でございます」


「なるほど、では木砲はどうだ?」


「木砲なのですが試作品は完成したとのこと。しかしながらまだ試験をしておらず実戦に耐えられるかどうかは不明でございます」


「木砲は宇都宮城攻めの切り札だ。できるだけその存在は悟られてはならない。それと木砲はもう一台造らせろ。一台のみでは心細い」


「畏まりました。職人にもそう言っておきます」


「ああ、ついでに報酬も弾むと伝えてくれ」



 報酬を追加すれば職人たちのやる気も上がるだろう。木砲に関しては一度試作品ができているから多少コツは掴んでいるはずだ。



「それと大八車の改良が完了したとのことです」



 民部によればすべて木製だった車輪の一部を鉄に変えたことで車輪の耐久度が多少上がったという。重量と構造の問題で遠征に不向きだった大八車だがこの改良によって少し離れた場所くらいなら使い物になるらしい。個人的にはリヤカーの開発もしたかったが、リヤカーを開発するにはゴムや金属の加工など障害が多く実現にまでは至っていない。


 徐々に北上するにあたって兵糧問題はかなり切実なものになるが、根本的な解決に至るまでは長い時間がかかりそうだ。


 民部の報告は以上で新兵器の進展は順調そうだった。木砲の耐久力は若干不安だが実用に耐えられるものであればいずれ鉄製の大砲を造るのもありだな。そのときは佐野の鋳物職人の力を借りることにしようか。


 宇都宮もこのまま黙っているとは到底思えない。近いうちに我らの城を落とさんと動いてくるだろう。特に最前線にあたる犬飼城と樋口城は狙われる可能性が高い。せっかくこちらに寝返った二城だ。簡単に落とさせてはならない。


 純粋な兵力でいえばこちらに分はある。だが宇都宮も壬生綱房や多功長朝、落合業親といった有力な武将が控えている。油断は一切できない。新兵器もどこまで活躍するか不透明なため過度な期待も禁物だ。


 それにこちらも頼もしい家臣がついている。慎重になるのはいいが慎重になりすぎるのも良くない。小山家が下野守護に返り咲くためにも宇都宮との戦いには負けられないな。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで一気に読みました。一足飛びでない部分がとてもいいと思います。今後も楽しみにしてます。
[良い点] 別の読者様がゴムの件ですが、動物性の物を使うのでは無く日本在来種のたんぽぽを使ってゴムを製作すれば良いと思います。 たんぽぽを切断すると出る白い液は天然ゴムの成分を含んでますから、その液を…
[一言] 空気の層を維持できるかにも依るけど、 豚や猪、牛馬の腸でチューブ部分を造り、水性生物の革に撥水性強化したもので覆ったらタイヤ代わりになるか気になったところ。
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