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益子との縁談

 下野国 祇園城 小山晴長


 益子勝宗から返事があり、書状には同盟締結と縁談を承諾したとの旨が記されていた。これにより小山家と益子家の同盟といぬと勝定の縁談が成立することになる。同盟の契りは後日おこなうことになり、祝言は来年実施することで双方が合意する。


 これにより勝定が小山家に入ることがほぼ確定となった。短時間で有能ぶりを示してくれた勝定を義弟として迎えることができたのはよかった。益子との同盟も大きな成果だ。


 すでに佐野と結城と同盟を結んでいる小山は益子と同盟を結ぶことで東西と南に同盟相手を置くことになり、より北の宇都宮に専念することができるようになる。益子の軍事力も魅力だ。結城と佐野は互いに小田や足利長尾といった敵対勢力がいるため援軍を要請するのを躊躇われたが、益子は小山と同じく宇都宮と敵対しているので比較的援軍を求めやすい。


 勝宗は戦上手でもあり、飛山城や祖母井城奪取は彼の手腕が大きかった。そのような人物が味方になるのは心強い。


 また益子の地は山が多くさほど豊かではないが、豊富な陶土が眠っている。ただ肌理が粗いため精巧な陶器の材料として使うにはあまり向いていないが、現代に伝わる益子焼の材料としては申し分ない。


 益子焼は江戸時代末期に笠間で修業した陶工が益子に窯を築いたのがはじまりだとされる。当初は水甕や火鉢などの日用品が作られていたが昭和に入ると花器や茶器などの民芸品も作られるようになったと聞く。


 これをどうするべきか悩んだが、俺は素直に勝宗に益子に豊富な陶土があることを伝えて陶工を集めて窯を築かせるべきだと助言することにした。小山が土だけ購入して祇園城下で窯を築かせることも考えたが、土の輸送費や益子に不信感を与えることを考慮すると益子に窯を築かせた方が良いと思った。


 なんでも独占しようとすれば周囲との軋轢も生む。家臣の中には益子焼の利権をみすみす手放すことを惜しむ声も上がったが益子に不信感を与えるよりは益子に恩を売る方が得策だと考えた。


 勝宗は俺の助言を大いに喜び、すぐに陶工に土を調べさせると知らせてきた。これで益子にさっそく恩を売れただろう。益子焼が形となれば小山で流通させるようにしなくてはならないな。益子焼の価値が高まれば益子焼を扱うことになる小山の市場はさらに発展するだろう。そのためにはまず小山・益子間でさまざまな通商をおこなわなければな。益子焼流通の一手を担うことになれば益子と小山双方に利益が生まれるはずだ。


 益子との色々なやりとりがひと段落したあと、俺は奥の部屋に向かうことにした。



「いぬはいるか?」



 そう声をかけるといぬとともに富士の姿も現れた。いぬは自ら腹が大きくなった富士の介護に名乗りをあげて率先して侍女とともに富士の面倒を見ていた。



「兄上、どうしたの?」


「そなたの縁談が決まったぞ」


「……えっ?」



 いぬは普段眠そうな瞳を大きく見開いて驚く。隣で富士は「まあ」と口に手を当てている。

 いぬはしばらく固まったまままったく動かない。



「そ、それでお相手の方は?」



 いぬの隣にいた富士がそう俺に聞き出そうとするとようやくいぬも硬直から解ける。ただまだ信じられないというような表情だ。



「相手は益子家の三男三郎太殿だ。歳は俺のひとつ下だからさちのときほど離れてはいないぞ」


「益子といえば下野の東側でしたね。山が多いとお聞きしましたが」



 富士の言葉に頷く。



「益子の地はそのとおりだ。だが安心しろ、今回は婿として三郎太殿が小山にきてくれるのだ」


「えっ、そうなの?」


「ああ、そうだ。だからいぬはこれからも城にいてもいいんだぞ」


「そこはあまり気にしてなかったけど、富士姉さまと離れることにならないでよかった」



 そうか、普段のんびりしているいぬだが本質は寂しがりやだった。特に姉のさちとは生まれたときからずっと一緒だったから誰かと一緒にいることが当たり前だったかもしれない。さちが嫁いでいったときは明らかに気落ちしていたからな。そう考えるといぬを独りにさせるような選択にしなくて正解だった。



「祝言自体は来年になる。今はまだ心の整理がついていないかもしれないが、来年には婿を迎えることは理解していてくれ」


「うん、わかった」


「ところでだが、三郎太殿と文の遣りとりをしてみないか?」



 そう俺が切り出すといぬは首をかしげ、富士は何かを察したのか軽く顔を赤面させて頬に手を当てる。そういえば俺たちの馴れ初めは政略結婚だが心を通わせたのは文だったからな。



「文を?」


「ああ、縁談が決まったといってもお互いの人となりを知らないだろう。互いを知るにはちょうどいいと思わんか?いぬが覚えているかはわからんが、いぬも富士とも文を遣りとりしていたんだぞ」


「それは覚えてるかも。うん、文、やってみる」


「文の遣りとりって素敵ですよね。私とお前様のときも文を遣りとりしていました。あのときは次の文がいつ届くか楽しみでした」



 俺も富士との文を遣りとりはやってよかったと思っている。そのおかげで富士の人となりを知ることができたし、互いに気持ちを寄せることもできた。


 いぬも勝定の人となりを知ってもらって円満な夫婦関係を築いてほしいものだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 下野国の大半を制圧した後の進路が難しい。 西は佐野と日光、南は足利と結城、南東は益子に進路を塞がれる。 白河結城以北の大同盟(洞)は天文の乱まで手出しできそうにない。 東の佐竹を攻める…
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