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羽生田城攻略にむけて

 下野国 祇園城 小山晴長


「羽生田城を落とすぞ。壬生と決着をつける」



 評議の場で羽生田城攻略を宣言すると大広間が沸きたつ。かつて祇園城に攻め込んできた綱房は家中にとっても忘れられない存在だった。


 あのときは勘助ら皆川城の救援もあって辛くも撃退できたが、防戦一方で綱房どころか弟の周長すら討ち取ることはできなかった。祇園城に攻められたこともあって近年の中では最も小山家に脅威を与えた存在だといえた。


 大膳大夫などはあのときのことを鮮明に覚えているのか、老年にもかかわらず血気盛んに羽生田城攻めに賛同していた。大膳大夫はそろそろ隠居しても良い年齢なのだが本人は生涯現役を貫くつもりのようだ。さすがに家督の後継は弦九郎に決めているらしいが、弦九郎曰く、玄孫が生まれるまで家督を譲られる気がしないとのこと。


 羽生田城は壬生城と鹿沼城の中間に位置しており、もとは壬生城の支城として築かれた城だった。かつては壬生城と鹿沼城をつなぐ中継基地の役割を担っていたが、壬生城が小山の手に落ちてからは対小山の前線基地になっていた。



「さてそれに伴い誰か調略したいと思うのだが、今の羽生田城代はたしか誰だったか?」


「羽生田城の城代は藤倉尾張守という者でございます」



 そう告げるのは段左衛門。段左衛門によると藤倉尾張守は若いながらも重要な羽生田を任されるなど綱房の信任が厚い将来有望な人間らしい。



「その藤倉はこちらの調略に乗ると思うか?」


「尾張守は壬生の忠臣でございます。おそらく調略は難しいかと」



 さすがに城代を寝返りさせるのは難しいか。ましてや忠臣とは些か面倒な相手になるな。



「ならばその藤倉の周囲の人間で調略できそうな人物を探ってくれ」


「かしこまりました」



 しばらくして段左衛門から藤倉尾張守の周辺で調略に乗りそうな人物を探し当ててもらった。そこで名前が挙がったのは横手右近という男だった。この横手右近は綱房の有力家臣日向城(ひなたじょう)主横手家の一族で藤倉以前に羽生田城の城代を務めた人物らしい。藤倉尾張守に羽生田城の城代の座を奪われた右近は藤倉尾張守のことを妬みながら彼の下で従っているとのこと。まさか前城代が今の城代の下で働いているとは思わなかった。聞けば城代の座から降りたあとは一家臣として過ごしていたらしく綱房にも重宝されるわけでもなかったようだ。



「その右近という男はどうだ。寝返させればこちらの有利に働くのか?」


「前城代ということだけあって羽生田城や羽生田の土地には詳しいかと。案内役などには使えましょうぞ」


「あるいは城を内から開けさせるのも手ですな」



 色々と意見が出たがとりあえずその右近という男を調略することで一致する。右近のもとに密使を遣わせてから約ひと月後のことだ。右近がこちらに寝返ることに同意した。当初右近は綱房を裏切ることには及び腰だったが、羽生田城が落ちれば藤倉の責となり彼が失脚すると嘯くと、右近は藤倉の失脚に目が眩み羽生田城の案内に応じたのこと。


 正直俺は右近という男を信用できずにいた。俺は右近がこちらを欺かないよう彼に監視をつけさせる。するとどうだろうか。監視をつけさせてから時間が経たないうちに右近が羽生田城が落ちたあと小山に従わず鹿沼に逃げようと画策していたことが判明した。



「なんて男だ。我らを利用して逃げようするとは」


「御屋形様、こんな男は信用なりませんぞ」



 報告を聞いた家中の者は右近の行動を非難し彼を利用することをやめるべきだと唱える。しかし右近は逃げようと画策していてもこちらから寝返りの打診を受けたことを誰にも口外していなかった。


 そこで俺は怒りを示す家臣らをなだめつつも、右近を利用しつつ用が済んだら彼を消すことに決めた。奴は藤倉の失脚に目が眩んでいる。もし羽生田城が落ち、冷静さを取り戻したら小山に従うことはないだろう。変に情報を綱房に渡される前に処分してしまえばいい。


 夏。俺は二三〇〇の兵で羽生田城へ出陣する。そして壬生城を経由して羽生田城の南に位置する福和田という地で右近と合流する。



「お初にお目にかかります。前羽生田城代、横手右近正信世(のぶよ)でございます」


「そなたが右近か。今回はこちらの誘いに乗ってくれて感謝してるぞ」



 右近は自己紹介の際に前羽生田城代を強調するなど自己顕示欲が強い男のようだ。しかし彼は羽生田城の構造を熟知しており羽生田城の南は断崖絶壁で東には大池があることを告げる。



「なるほど、南と東が堅固なのか。ならば西から攻めるほかないのか?」


「西は郭も多く設置しております。本来なら隼人佑様のおっしゃるとおり西から攻めるのが常でございますが、藤倉もそこはわかっているでしょう。だからこそ抜け道がございます」


「ほう、抜け道とな」


 右近は西は防御が堅いと指摘すると同時に抜け道の場所も授ける。



「この南側の断崖絶壁ですが実は城からの脱出用の道がございます。大勢は通れませんが、ここを辿れば一気に本丸に乗り込むことができます」



 すぐに段左衛門に確認させるとたしかに小道が存在した。俺は南側に兵を潜ませると、本陣を羽生田城の西にある古墳らしき場所に構える。小高い丘のようになっているそこは羽生田城を一望することができ、右近のいうとおり西の郭に兵が集中しているように見えた。

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