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多功城攻め

 下野国 小山晴長


 俺が次の目標を多功城だと宣言すると意外にも家臣の反応はふたつに分かれる。ひとつは俺に賛同して多功城を攻めようとする者。そしてもうひとつは多功城という名に困惑する者だ。なぜ多功城に困惑するのか、それは多功城が多功長朝の居城だったからだ。宇都宮家中一の侍大将として宇都宮家の武を支えている長朝の武勇は下野中に轟いており、小山家も例外ではない。当然、中には長朝の存在に恐れをなしている者もいた。



「そこまで多功石見守が恐ろしいか。だが宇都宮と敵対すれば必ず長朝にもぶつかるのだ。お前たちは戦になって長朝がいるから怖くて戦えないとでも言うつもりか?武士の名が泣くぞ」


「御屋形様のおっしゃるとおりでございます。たしかに石見守は素晴らしい武人であることに違いない。だがその武勇に恐れを抱いて戦うことを嫌うのは違うのではないでしょうか。小山家として石見守はどこかしらで必ず当たる存在なのですから」



 資清がそう発破をかけると、新参の資清に負けてたまるかとばかりに他の者が多功に臆するものぞと立ち上がる。一部の者こそ悩んでいたが、そこは坂東武者。最終的には腹を括って多功城攻めに賛同する。



「ようやくやる気になったか。だが安心せよ、段蔵らによると石見守は飛山城攻めに駆り出されていて多功城を留守にしているようだ。尤も代わりに石見守の父親がいるみたいだがな」



 長朝不在という情報は小山の士気をさらに引き上げる。だが小山家が攻め込んできたことを知った俊綱が飛山城から引き返してくる可能性もある。そうなれば長朝は十中八九多功城の救援に向かうだろう。そのことを考えると多功城に時間をとられると戦況は厳しくなりそうだ。しかし多功城を落とせば宇都宮城の南を支配下に置くことができる。この利点は大きい。


 俺は薬師寺城に少しの兵を置いて多功城に向けて軍勢を出発させる。途中で箕輪城の兵が合流したことで今の小山の軍勢の数は二二〇〇まで膨れ上がった。薬師寺城から多功城までは一里前後ほどの距離で昼頃には多功城の目の前まで迫っていた。


 事前に斥候や段蔵らに多功城の様子を見てくるよう命じたが、どうやら多功城には城下の民だけでなく近隣の梁館や児山城、上三川城からも兵が詰めており、武将も長朝の父建昌以外に梁朝光、児山兼朝らも籠城しているようだ。となると相手もそれなりに数を揃えていることになる。薬師寺城みたいに城主が逃げ出すこともなさそうなので、内部からの自滅は期待できないし、敵の士気も高そうでそう簡単に攻略とはいかなそうだ。


 多功城は周囲に二重三重の堀をもっており規模も薬師寺城より大きく極めて堅固な城だ。これは攻め落とすのは至難の業かもしれないな。再び平三郎に使者を頼んだが今度は相手が降伏を断って徹底抗戦を唱えたという。



「そうか、ならば仕方ないな。搦手以外に兵を展開してそれぞれの守り口を攻めよ」


「「「ははっ」」」



 俺は大手門を攻めることなり、家臣たちもそれぞれの持ち場についていく。交渉から半刻後、法螺貝の音を合図に総攻撃の命令を下すと鬨の声を上げながら多功城を攻め始める。


 しかし敵の士気も高く、城も堅固なこともあってそう簡単に攻め落とすことは難しい。城下まで侵入することができたが、大規模な堀がこちらの行く手を阻む。堀の幅は広く深さもあるため、この堀を登っていくのはかなり厳しい。頑張って登ろうとする者もいたがそういった者は敵から狙い撃ちされてしまう。竹の盾で城門に近づこうとするが、敵も至る所に逆茂木を設置し、矢を放ってくるので進軍するのも一苦労だ。


 やはり開発した兵器がスリングショットのみだと苦戦を免れないか。火縄銃や大砲など火器があればもっと有利に戦況を運べるかもしれないが、今の時代だとまだ火縄銃は種子島に伝わっていない。さすがにゼロから開発するのは無理なので今は硝石の生産だけはしておくか。


 苦戦は大手だけでなく各守り口でも同様だった。勘助や資清すら突破に苦労していた。結局日中に城を落とすことはできず、兵を引き上がらせる。そして家臣たちが集まったところで軍議を開いた。



「やはりさすがは多功城、守りは堅いようだ」


「左様でございますな。城の堅固さもさることながら敵の士気も高いのも厄介かと」


「御屋形様、はっきり申し上げて真正面から崩し切るのは少々難儀と思われます」


「某も同意見です」



 やはり真正面から多功城を落とすのは難しいというのが皆の意見だった。かといって兵糧攻めをとることはできない。こちらにそこまでの兵糧の蓄えはないし、時間をかけてしまえば宇都宮の援軍が駆けつけてくる。


 どうするべきかと話し合いを進める中、勘助が発言する。



「御屋形様、夜襲はいかがでしょうか」


「夜襲だと?悪くはないが、相手も警戒しているはずだ。そう上手くはいかないだろう」


「たしかにただの夜襲なら御屋形様のおっしゃるとおりでしょう。ですが搦手に忍を忍び込ませて火を放たせ、搦手に敵が集中したときに一気に攻め込めば話は変わってくるかと」



 なるほどと家臣たちも唸る。普通の夜襲なら上手くいかないかもしれないが、勘助の策ならば上手くいくかもしれない。



「しかし山本殿、そう上手くいくだろうか。多功城の守りは堅い。夜だとしても簡単に搦手に侵入できるとは思えないが」



 平三郎は本当に搦手に火を放てるのかと懸念を伝える。他の家臣も昼間に多功城の守りの堅さを実感しているので勘助の案に懐疑的だった。



「そこは忍の腕次第でしょうな」



 勘助も確実とは言えないのかそう留める。俺は段左衛門と段蔵を呼び出して勘助の策を伝えると、搦手に侵入することはできるかと問う。



「御屋形様の命であれば」


「そういうことではない。できるかできないかで答えてくれ。お前の率直な意見がほしい」


「可能でございます。ただし手練れという条件がつきますが」


「……そうか、可能か」



 どうするべきか。勘助の策ならばもしかしたら多功城を落とせるかもしれない。しかしそのためには段左衛門らにかなり危険な任務を課さなければならない。おそらく全員が無事ということは難しいだろう。この城を落とすために手練れの忍を喪うことを許容するか、勘助の策を退けるか。しかし勘助の策を退けたところで多功城を落とす算段は見つかっておらず、このままでは多功城を落とすことはできない。



「……段左衛門、俺は今から厳しいことを命令する。手練れの忍を率いて多功城の搦手に侵入し火を放て」


「ははっ」


 段左衛門らは動じることなく俺の命令を承諾する。これがかなりの危険を伴う任務であることをわかっていてもなお段左衛門らは顔色ひとつ変えることはなかった。

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