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結城の内紛

 下野国 祇園城 小山晴長


 高経と誼を結ぶことに成功し、高経から綱房が日光との関係を悪化させ、家中でも孤立しかけているとの情報を得て壬生城をどう攻略しようかと家臣らと相談していたときにその報せは届いた。



「申し上げます。結城城にて結城七郎殿を筆頭に親多賀谷派の人間が当主結城左衛門督殿を討つべしと蜂起いたしました」


「なんだと!?」



 それを報告してきたのは結城の動向を監視させていた加藤一族のひとりである五郎だった。


 親多賀谷派の蜂起。その言葉に家臣だけでなく俺までも動揺を隠すことができなかった。額から一筋の冷や汗が流れ落ち、拳は自然と強く握りしめていた。結城城内での蜂起となると当主の政朝や政勝らもただではすまない。もし親小山派だった政朝らが討たれたとなれば結城家は味方から敵へと一変することになる。結城の方針が変われば結城だけでなく、結城に従っている山川や水野谷までも敵に回る可能性が高かった。



「それで、どうなったのだ。政朝殿らは無事なのか」



 逸る気持ちを抑えながら俺はゆっくりと五郎に続きを促した。五郎は顔を伏せたまま次の言葉を発する。



「はっ、幸いにも左衛門督殿が先手を打ったようで逆に親多賀谷派を粛清した模様でございます」


「それは真か!」


「しかし左衛門督殿側も犠牲が出たようで、これ以上詳しい情報はまだ得られていませぬ。これはまだ未確認の情報ですが御嫡男の七郎殿、御三男の六郎殿も討たれたとのこと」


「そうか、そうか。政朝殿らの安否は気になるがその報告だと粛清には成功したようだな。ひとまず最悪の事態は回避できたようでなによりだ。ところで富士姫の安否はどうなっておる?」


「申し訳ございませぬ。姫様の安否はまだ確認できておりません。今のところわかっているのは親多賀谷派の蜂起が鎮圧されたことのみでございます」



 五郎は己が確実な情報を得ていないことに身を縮めているが、蜂起したことを急いで伝えにきただけでも十分なはずなのに俺は五郎に多くを求め過ぎてしまったようだ。五郎が結城を出た頃は鎮圧されたことだけが確実な情報だったのだろう。五郎には少々悪いことをしてしまった。



「こちらこそ色々と無理を言ってすまないな。五郎、報告してもらったところ悪いが、再び結城に戻ってより詳しい情報を探ってきてほしい」


「かしこまりました」



 五郎が結城に戻ったあと、俺は結城の内紛の影響と工作の不調から壬生城攻略を一度断念して、結城方面に注意を向けることにした。家臣たちも結城の内紛を深刻に捉えている。鎮圧は成功したといっても多賀谷の動向次第で結城が再び窮地に陥る危険があったからだ。親多賀谷の粛清を知った多賀谷が結城を攻めてこないとは限らない。裏で糸を引いている小田も警戒が必要だ。


 その後、再び五郎らの報告によって政朝が先手を打って嫡男の政直と三男の高朝を殺害し、彼らに従っていた親多賀谷派の家臣も多く討ち取ったことが判明した。また富士姫も無事なようでひとまず胸を撫で下ろす。


 家を守るために嫡男の政直まで殺した政朝はすぐに多賀谷を討つために兵を結城城に集めていた。山川や水野谷の兵も合流しており、政朝の本気具合が見て取れる。小山には援軍の要請がなかったため今回兵を送ることはしなかったが、俺は結城領に一番近い岩壺城に結城の動向に注視するよう指示を出した。


 もし結城が戦に敗れて逆に多賀谷に侵攻された場合は政朝の救援という名目で結城に兵を進めるつもりだ。政朝が負けて結城城に逃げ帰るだけなら何もしないが、戦に勝った多賀谷が結城に侵攻してきたなら話は別だ。戦に勝った多賀谷が結城に侵攻してきたら粛清で内部がガタガタな結城に抗う術はない。そんな状態で攻められたら結城の地は簡単に奪われてしまうだろう。それは東側の安定を求める小山にとって都合が悪く、多賀谷を追い出してでも結城を守る必要があった。


 しかしそれは杞憂に終わった。数日後、政朝が野戦にて多賀谷を破ったとの報告が入ったからだ。多賀谷を破った政朝は勢いに乗り、そのまま多賀谷の居城である下妻城まで侵攻したという。小田が動いたという情報はない。もはや多賀谷を屈服させる勢いの政朝の様子に俺は安堵したが、もしものことを警戒して岩壺城と五郎には引き続き結城の動向を監視させた。


 結城城では富士姫の無事も確認できた。また政勝も健在なようで死んだ政直の代わりに新たに結城家の次期当主になったとのこと。今は政朝に従軍せずに結城城で粛清の後始末をしているようだ。粛清の際に少なくない数の親多賀谷派を討っただけでなく、親小山派にも多少の犠牲が出ていたようで結城はしばらく人材不足に陥りそうではあった。


 表向き結城の内紛を知らない小山からできることはないが、助力を求められた際には多少協力するとしよう。人材は派遣できないが商いならば結城を助けることはできるはずだ。結城の織物は品質が高いと聞く。これをうまく活用できれば結城と小山の交易に役立つだろう。


 しかしもし親多賀谷派の蜂起が成功していたらと思うとぞっとする。小山を毛嫌いする政直が当主になれば多賀谷と小田と結んで小山を攻めることも考えられた。山川や水野谷が大人しく従うかはわからないが、仮に彼らも政直に従った場合、小山は宇都宮だけでなく小田、多賀谷、結城、山川、水野谷と敵対することになっていただろう。そうなればもはや壬生城を攻めるどころではない。


 そう考えると政朝らが先手を打って親多賀谷派を粛清したことは間接的に小山を救った一手だったといえる。と同時に結城の不安定化が小山にとっていかに脅威になるか痛感する一件となった。今回はどうにかなったが、今後似たようなことが起きないとは限らない。そのときが起きなければ一番いいのだが、万が一起きたとしても問題なく対処できるくらいまで力を身につけておきたいところ。となるとやはり壬生城の攻略は必須となってくる。綱房は厄介な存在だが高経と結ぶことで多少は有利に働くだろう。もちろん高経に全幅の信頼をよせているわけではないが宇都宮を牛耳る高経の力は侮れない。うまく高経の情報を利用できれば綱房の隙を突くことは不可能ではないはずだ。

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