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壬生綱房の苦心

一部修正しました。

 下野国 鹿沼城 壬生綱房


 昨年は散々な年であった。年始に興綱様の命で小山の祇園城を攻めたのはよいが敵の堅守に阻まれて我が軍勢は総崩れしてしまい、儂と周長はなんとか戦線を離脱できたが弟の資長、与力の西方綱朝殿、有望な家臣たちを失うことになってしまった。幸い小山勢が追ってくることはなかったが、壬生への行路をふさがれていたこともあって一度宇都宮方の薬師寺城まで逃れることにした。薬師寺城の薬師寺貞政殿は大層驚いていたが儂らを追い出すことせず保護してくれた。しかし貞政殿は保護こそしてくれたが、あまり歓迎はしていないようだった。


 なんとか態勢を整えると儂はわずかな手勢を率いて一度壬生城への帰還を目指した。道中落ち武者狩りに警戒したが特にそういった者に出会うことなく壬生城に戻ることはできた。しかし戦傷から儂は鹿沼城に戻らずしばらく壬生城で療養することになり、壬生城から態勢を整えることにしたが、資長をはじめ多くの家臣を失ってしまったので立て直すのに時間がかかってしまった。


 しばらくの療養ののち鹿沼城に戻ることはできたが、鹿沼城に戻ったあとも難題が残されていた。それは日光山についてだった。日光山には次男の昌膳(しょうぜん)を送り込んでおり、昌膳には留守権別当を務める座禅院主の座につかせていた。そしていずれ宇都宮家が代々相伝してきた日光御神領惣政所の座を奪うために色々金を積んでいたが、祇園城攻めの失敗によって金の工面が止まるとそれまで従順だった日光山の連中の態度が一変したのだ。これまでは昌膳を日光山の実質的な最高位である留守権別当に就かせた壬生家が日光山について色々と介入していたが、金の工面が止まった途端に日光山は介入を嫌がりだし、日光山から壬生家の影響を排除しようとしてきた。


 儂はそんな日光山の態度に苛立ちを覚えたが先の敗戦での損失が大きかったため日光山の問題を先送りするしかなかった。だがこれまで寺社や宿の整備をやってやったのに金がないと見るや振る舞いを変えてきたのは気に食わんな。いずれ日光の御神領六十六ヵ郷支配の責任者である日光御神領惣政所の座を得るまでは我慢しておこう。


 祇園城攻めでは多くの兵を失ってしまい、軍事行動だけでなく内政にも大きな支障が出ていた。資長を失った村井城には資長の嫡男弥七郎資忠を後釜に据えたが、弥七郎はまだ若いので重臣の黒川刑部をつけることにした。羽生田城、藤井城は守将の藤倉遠江守、大垣右衛門尉が健在であるため引き続き任せ、壬生城にはそれまで任せていた周長を鹿沼城に呼び寄せて、代わりに儂の息子の綱雄を置いた。


 周長はこの配置転換に不満を示していたが、鹿沼では人材不足だったため周長の力が必要だった。代わりに配置した嫡男の綱雄は元服したばかりの若輩だが、壬生城には経験豊富な家臣たちが揃っており、綱雄の補佐を十分任せられるはずだ。


 しかし儂がそんなやり繰りをしている間にも小山は止まらなかった。小山は先の戦で当主綱朝殿を失った西方領への侵攻してきたのだ。こちらが敗戦の影響で動けないうちに侵攻してきた小山に対し西方城の兵らは果敢に戦ったそうだが、多勢に無勢で力尽きて西方城とその支城の二条城は落城してしまった。だが最悪なのは同じく西方村に位置する宇都宮方の真名子城主岡本秀氏が一戦も交えないまま逃亡してしまったことだ。真名子城を無傷で明け渡したことで西方領は完全に小山の支配下に置かれることになった。


 西方城は落城したが西方の家臣たちは自らを犠牲にして西方親子を城外に逃がしたようで親子は西方村に隣接する羽生田領内で保護することができた。ふたりとも大層衰弱していたらしいがなんとか一命はとりとめ、儂は羽生田城内で静養させることにした。


 その後は小山も進軍を止めたようで内政に専念するようになったが、壬生家も敗戦から立ち直る途中であったために西方奪回に動くことはできなかった。そして宇都宮城では不穏な動きをしていた興綱様を高経主導で隠居に追い込むことに成功した。どうやら興綱様は現状に不満を覚えていて儂や高経を排除しようと試みていたようだが、興綱様が頼った側近や塩谷殿はこちら側の人間で情報はすぐに儂らにもたらされた。そして敢えて興綱様の策略に乗った高経は逆に興綱様を窮地に陥れた。儂は部屋の影でその一部始終を観察していたが、慌てふためく興綱様の様子は滑稽でもあり、気の毒でもあった。大人しく傀儡の座に満足していればしばらくは安泰だったはずであるのに愚かな真似をしたものよ。


 興綱様の代わりには興綱様の異母兄にあたる俊綱様を迎えることになった。俊綱様は興綱様の顛末をお聞きになっていたのか高経らに逆らうような真似はしてこなかった。しかし儂にはどうも俊綱様がそのまま大人しくしているようには思えなかった。高経は興綱様の件で余計に増長している。緊密な関係である塩谷殿と並び宇都宮の政治を牛耳っており、不遜な振る舞いが目立ってきた。本来なら同輩である儂や主君である俊綱様を軽んじる言動も増えてきており、まるで自身が頂点にいるかのように錯覚している。



「最近の芳賀殿の増長ぶりには目に余りますな」


「しかしあの方の力は本物だ。御屋形様もあの方には何も言えずにいらっしゃる」



 次第に家中から高経への不満が高まってきており、その受け皿として日頃高経と対立している儂が選ばれた。高経が増長するたびにそれを不満に思っている者が儂に集まってくる。そして儂に人が集まる状況に高経は嫉妬しているようだった。高経が増長をやめれば済むことであるが、有頂天の高経は気づかない。儂としてはこのまま増長していてほしいが高経の権力が強まるのはどうにかしたいところだ。


 現状立て直しの影響で南北に問題を抱えている壬生家からしたら宇都宮内の権力争いより小山や日光山をどうにかしたい。昌膳がいる日光山はどうにかなるにしても、南の小山の勢いは侮れない。かつての小山は斜陽の家であったが、今の小山は別物だ。皆川と西方を滅ぼした小山は今や壬生と同規模かそれ以上の勢力を誇っている。今の当主である小四郎晴長は若いがかなりのやり手と評判で公方様からの信頼も厚いという。俗物な高経よりよっぽど儂の脅威になるかもしれん。


 もし儂が小山の人間ならば次は壬生城あるいはその支城である藤井城を狙ってくるはずだ。壬生城は平城だが元々壬生家の本拠ということもあって規模もそれなりにあり守りも固い。問題は城主が若い綱雄であることだが家臣たちがどうにかしてくれるはずだ。壬生の地は壬生家にとって非常に重要であり、ここを奪われるのは今後の士気にかかわってくる。だがそれは小山もわかっているはずで何かしら策を練ってくると考えられる。一年大人しくしたおかげでようやく兵を動かせるようになったが、二回も敗戦するようだと非常に厳しい状況に置かれることになるだろう。

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