竹丸の死
今回は短いです。
下野国 祇園城 小山晴長
竹丸の心中はこちらが思っていたより皆川で話題になることはなかった。もちろん誰も声を上げなかったわけではないが、想定より小規模で気づいたときにはすでに鎮火していた。皆川の旧臣らに思うところはあったかもしれないが、だからといって事を大きくしようとはせず、彼らは粛々と喪に服していた。こちらも一応竹丸親子の供養をおこない、皆川家の菩提寺である金剛寺に葬ると、旧臣らもある程度踏ん切りがついたのか、また日常に戻っていった。
しかし竹丸の死によって皆川家の嫡流は途絶えてしまった。そこで富田城主で皆川一門の富田忠宗に皆川の名を継ぐか尋ねてみたところ、忠宗の父成忠は庶子だったので忠宗は乗り気ではなかった。むしろ忠宗から先々代当主宗成の同母弟成正の娘を娶っている政景叔父上の子供に継がせるのはどうかと勧められた。
「というわけなのですが、政景叔父上はどうお考えですか」
「なるほどな。忠宗殿がそう言うならやぶさかではない。儂の子なら小山と皆川の血を引き継ぐわけだから小山家としても皆川を組み込めるか」
政景叔父上に話を通してみると、政景叔父上は一度渋ったが忠宗の勧めと聞くと首を縦に振ってくれた。
「一応この間妻が懐妊したばかりだが、まだ性別がどちらかはわからん。だがもし男児ならばその子に皆川の名跡を継がそう」
「懐妊したのですか。おめでとうございます。そういえば少し前に長秀叔父上のところも懐妊したみたいですね」
「ああ、あいつはなんだかんだ奥手だったからな。前夫の子供の世話もあったから仕方ない面があるとはいえ、今まで手を出さないでいたそうではないか。小四郎は今度嫁を迎えるが長秀のようには絶対になるなよ」
政景叔父上から念を押されたが富士姫を泣かすようなことはしたくはない。一応長秀叔父上は姉御肌の岩舟の方に惚れ込んでいて夫婦仲はよかったらしいが、肝心の夜で長秀叔父上がウジウジしていたみたいで最近まで手を出せていなかったのが真相のようだ。どうやら前夫のことや子供のことで色々と悩んでいたらしい。最終的に岩舟の方に泣かれそうになってようやく手を出したのだから、政景叔父上が呆れるのも納得だ。
そんな長秀叔父上のことは置いといて、政景叔父上から皆川家を継がせることの承諾を得たことで皆川家の嫡流の問題は終止符を打てそうだ。竹丸のことで大きく騒がなかった皆川の旧臣たちも皆川家が断絶することをよく思っていないはずだ。今では皆川家の威光なしでも領土運営できているが、皆川家の名が残れば断絶させるより彼らの心象はよくなるはずだ。跡を継ぐ政景叔父上の子供もちゃんと皆川の血を引いているのでただの乗っ取りではない。
竹丸の騒動はこれでひと段落済んだ。竹丸を生かしていたのは俺の判断だったが、こういった結末になるのは残念だと思っている。もし竹丸が大人しく僧になるか、小山の臣下として生きる道を進めていたらこういった最期にはならなかった。金剛寺の僧から聞いた話ではどうやら竹丸の母は大層小山家のことを恨んでいたらしい。常日頃から竹丸に小山家への恨みつらみを聞かせていたようで、僧や世話役は不気味に思っていたそうだ。日常から母親に小山家への恨みを聞かさせていた竹丸は当然歪んで成長してしまう。
結果的に竹丸はまだ幼いにもかかわらず小山家への敵愾心の塊のような人物になってしまい、他勢力から利用される前に俺は竹丸一同を処分することに決めた。竹丸の最期はかなり悲惨だったようで、世話役と母親が血の泉に沈む中で竹丸は自身の首を刎ねた状態で見つかった。部屋中は血まみれになっており、金剛寺には悪いことをしてしまった。
事の真相を知る者はほとんどいない。一部の者は勘づいているが、そのことについて口を開くことはなかった。これもまた戦国の定めなのだろう。
金剛寺には竹丸らの墓の他に石仏を造らせるとしようか。対外的にも供養をしたという事実は残しておく必要があるだろう。何かあったときに竹丸の祟りとは言われたくないからな。
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