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忠綱、襲来

 一五二三年 十一月 下野 祇園城 小山犬王丸


 無事収穫が終わり、農閑期に入りつつある十一月。さすがに千歯扱きは間に合わなかったが、この時期になると試作品がいくつか上がってきている。まだ改善の余地を残しているとはいえ、完成品ができるのも時間の問題だろう。あとは数を増やせば来年にも試験的に導入が可能だ。


 実際に使ってみないとわからないが、想定どおりの性能だったなら脱穀作業が劇的に改善できるはずだ。それに小山家の財政が向上すれば、今の竹製から史実のような鉄製に変えることができる。そうなればより効率は良くなるだろう。


 一方で職人が指摘したように、千歯扱きの存在が却って未亡人達の仕事を奪う可能性が懸念されている。史実でも千歯扱きが後家倒しと呼ばれたことから恐らく同じ事態が想定できる。だがその人達に別の仕事を与えたらどうだろうか。


 元々脱穀作業もそれが彼女達の収入源だったからやっていたことで、別の収入源をこちらが提供することで彼女達が収入がなくて飢える事態は避けることができる。


 千歯扱きを作ってみてわかったことは小山家は決して裕福ではないということだ。尾張の織田のように津島など経済的基盤を持たず、下野という京や海からも遠い土地では経済的発展が難しい。小山も近くに思川が流れており、下野周辺ではそこそこ栄えている方だが、北条の小田原と比べれば月と鼈だ。


 将来的に小山を大きくするためには銭が必須となる。そしてその銭を稼ぐためには、千歯扱きとは別の事業とその事業に関わる人手も必要だ。


 俺は千歯扱きの影響で仕事がなくなった農民をその事業に回すつもりだ。尤も今の段階ではまだ取らぬ狸の皮算用に過ぎないが、一応弦九郎達には次に考えてる事業で必要になるある物を探してもらっている。


 そして十一月に入って幾日が過ぎた頃、小山家に急報が届く。


 鹿沼にて動きあり。


 それは皆川家からもたらされた忠綱進軍の予兆を告げるものだった。


 忠綱の動きに最初に気づいたのは皆川家当主宗成(むねしげ)の弟で平川城主平川成明(しげあき)だった。彼は小山・結城・皆川が同盟した際に、皆川が忠綱に狙われていると知って、常日頃から壬生および忠綱の動向を監視し続けていたのだ。


 そのため皆川は早い段階で忠綱の動きを察知することに成功し、小山・結城両家に援軍を求めてきた。


 皆川の要請を受けて両家は出兵を決意。忠綱と全面抗争することに父上はかなり悩んだらしいが、古河に義理立てするよりも同盟相手を優先することにしたようだ。


 小山・結城・皆川がそれぞれ話し合った結果、小山・結城の両軍は皆川領にほど近い小山領の榎本城に一度合流してから皆川と再合流する手筈になった。


 ついに戦が始まるということで城内の様子が慌ただしくなってきた。しかし大膳大夫が言うには、以前から準備をしてきたのでこれでも大人しい方らしい。


 殺伐とした城内の空気に、絶え間なく聞こえる指示の声と人が動く音。戦場だとまた違ったものになってくるだろうが、これが戦の空気なのか。



「ふはははっ。流石の若もいつもの落ち着きを保てませぬか。そわそわしているのが丸分かりですぞ」


「むぅ。そういえば、大膳大夫は此度の戦には出陣するのだったな」



 今回の戦には父上自ら出陣する。そしてこの時代ではそれなりに高齢の大膳大夫も参謀として出陣することになっていた。


 結城は夏に戦があったばかりで兵力に余裕がない。そのため今回の援軍は小山が主力を担う。しかも敵は壬生と忠綱。強敵を相手取る小山家としては、戦に勝つためには高齢だが経験豊富な大膳大夫も投入せざるを得なかった。


 小山軍の面々は総大将の父上を筆頭に一門衆筆頭小山大膳大夫成則、榎本城主水野谷八郎、小山譜代の重臣妹尾平三郎、粟宮讃岐守など、祇園城の留守を任された政景叔父上や岩上伊勢守を除いた小山の重鎮達が勢揃いしている。


 この戦の結果次第で小山の命運は大きく分かれる。勝てば問題ない。だが、もし負けてしまえば皆川は陥落し、小山は鹿沼、壬生、皆川から忠綱方の勢力に挟まれることになる。最悪の場合、そのまま忠綱に小山に攻め込まれることもあり得るのだ。宇都宮城帰還のために地力をつけておきたい忠綱にとっては負けた小山はいい獲物に映るだろう。


 だからこそ救援という形とはいえ、小山はこの戦に負けることはできない。


 俺は戦に出ることはできないし、軍議に参加することもできない。でもこのまま何もせずに父上達を見送ることもできなかった。



「大膳大夫、少し耳を貸せ。実は─── 」

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